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山中研究室プロトタイプ展2019『ぞわぞわ』に行ってきた

 1895年12月。フランスはパリ、カプシーヌ通りに面するグラン・カフェの地下にある『サロン・ナンディアン』にて行われたあるイベントに、35名の人々が集まった。入場料は1フラン(約20円)
 灯りが落とされた部屋のスクリーンに、工場の入り口の風景が現れるや、人々は度肝を抜かれた。これは絵画か?いや写真のように精彩だ。だがこれは動いている。まるで生きているように。
 次々と映し出される映像に、人々は釘付けになる。話題が話題を呼び、イベントは1週間で2500人を集める大ヒットとなった。
 オーギュストとルイ・リュミエールの兄弟の発明品である映写機『シネマトグラフ・リュミエール』の上映会は、こうして歴史に刻まれることになる。
 都市伝説めいた逸話がある。翌年制作された『ラ・シオタ駅への列車の到着』の公開時、画面に向かって走ってくる列車に驚いた観客たちが、一斉に部屋の後ろに逃げ出したという。
 諸説ある所だが、当時の人々の映画に対する驚きを伝えて余りある話だろう。

『新しい技術との出会いは、
 時として、私たちの心に不安を生じさせます。』

 本展の入り口に書かれた、序文の冒頭を読んだ時浮かんだのが、この話だった。その不安は、目隠しされた箱の中身を探るような、未知への不安からくるものだと思われがちだが、それだけなのだろうか?
 東京、駒場の東京大学生産技術研究所で開催された 『もしかする未来in駒場 山中研究室プロトタイプ展2019 ぞわぞわ』に行ってきた。
「実社会での課題解決に貢献できる技術の開発と展開」(岸所長の挨拶文より)を実践する東大生研の中で、デザインを研究する部門として設立された山中研究室。その成果を垣間見れる展覧会を、私は毎度楽しみにしている。

 当然のことながら、世に商品として出るものは、客に嫌われてはならない。不安や疑問を抱かせるなど道断。
 だが不安を抱かせる「何か」から目をそらしたり、蓋をするだけでは、またいつ同じ轍を踏むかもわからない。その正体と原因に向き合ってこそ、心地よいデザインを生み出せる。
 今回の展示の意義はそこではなかろうか。

 同時に展示された、生研のプロトタイプの数々も併せて見ると面白い。今なお不思議の域にあるような先端技術を、デザインの力で我々の世界に繋げようという、その錯誤の跡が愛おしいほど見て取れる。

 会期は6月9日まで。この記事を読んでまだ間に合うという方は、是非足を運んでいただきたい。入場料は1フr……もとい。無料ですので。


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