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劇評・カメラを止めるな!

※本稿はネタバレ要素を含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

 映画は魔法である。人が空を飛び、宇宙人が地球を侵略し、大怪獣がビルをなぎ倒せば、死人だって蘇る。
 だが、誠に不本意ながら、魔法は存在しない。映画という魔法は、スタッフからシステムに至る、無数の現実が作り上げたフィクションなのだ。
 しかしそのフィクションを操る人々は、ただの一瞬も不真面目に映画と向き合ってはいない。最高の魔法を作り上げるため、フレームの外側で今日も駆け回っている。だがあまりに真面目すぎるその様は、時にどうにもコミカルに映ってしまうのだ。

 ……一応ネタバレについて注意を促したが、まだ未見のうちに本稿を読んでいる方は、できるだけこれ以上の情報を仕入れずに劇場に走ってほしい。これを最後通告として進める。

 映画そのものは、お仕事モノとでもいうべきか、映画製作の様を映画で描くという手法で展開する。三谷幸喜の『ラヂオの時間』などが近いだろうか。
 無論ただ裏方のドタバタを描くだけではない。その時間軸を見事な構成で『映画の中の映画』とリンクさせている。
 緊張と緩和の卑怯なまでのコントラスト。シリアスなホラーを作り上げんとするスタッフとキャストたちが、それ故に笑いを誘ってしまう皮肉。そして『つくること』に魅入られた人々の葛藤と情熱。ラストはなぜか涙が出そうになるあたりも卑怯だ。本当に卑怯だ。

 加えて、誠に無礼ながら評価したいのが、本作を無名俳優で固めたことだ。
 というよりこの映画の構成で有名な役者を出したとしたら、本人と劇中役と劇中劇役との行き来で混乱を招くのみであったろう。
 見る我々の中にイメージのない役者たちがフレーム狭しと駆け回る様は、バラエティ番組などで時々目にするスタッフたちの奔走と何ら見分けがつかない。なんてったって役名と役者名が1文字違いだったりそのまんまだったりする人までいるのだ。
 映画を楽しむことに集中する大きな一助になったことは疑いないだろう。
(キャストの皆さんなんだかすみません。これからのご活躍を心からご祈念申し上げます)

 映画は魔法である。仕事をサボるため魔法を使った魔法使いの弟子は大惨事を招いたが、最高のエンターテイメントを生み出さんとなけなしの魔法を振り絞ったスタッフたちは何を生んだのか。
 映画を愛する全ての人に、その出来栄えを見てほしい。

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