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It's a SONY展に行ってきた

 本展の最前列。ソニーの礎にまつわる品々を集めた一角に、創業者の1人である井深大が書いた設立趣意書に並んで、見慣れないものが飾られている。金色に輝くモルモットの像だ。
 1958年。当時中堅企業でったソニーは、トランジスタの分野では名実ともにトップにあった。が、その後大企業である東芝にあっさり首位を受け渡し、生産高で二倍半の大差をつけられてしまう。
 その様を評論家の大宅壮一は「儲かると分かれば必要な資金をどしどし投入できるところに、東芝の強みがある。ソニーは東芝のためにモルモット(実験動物)的役割を果たしたに過ぎない」と評した。
 はじめはこれに憤慨した井深であったが、後年「私どもの電子工業では常に新しいことを、どのように製品に結び付けていくかということが、一つの大きな仕事であり、常に変化していくものを追いかけていくというのは、当たり前である。ゼロから出発して、産業と成りうるものが、いくらでも転がっているのだ。これはつまり商品化に対するモルモット精神を上手に生かしていけば、いくらでも新しい仕事ができてくるということだ」と、この評をうまく転用した。
 のちに井深は功績を讃えられ、藍綬褒章を授与される。その記念に社員たちが井深に贈ったのが、このモルモット像なのだ。
 売上高で東芝を3兆円上回るようになった(2016年3月期)現在からは想像もできない時代が、その会社にはあったのだ。

 そのモダンな建築様式と飾られる特徴的品々で、銀座数寄屋橋のランドマークとして長く愛されてきたソニービルが、ソニーパークとして生まれ変わる。それを記念し、ソニーの歴史を飾る品々を集めた『It’a SONY展』が開催されている。

 断言しよう。本展に行かれた方は「懐かしい」「持ってた」「えーなにこれ?」の、いずれかを口にするだろう。
 最先端の技術を惜しみなく民生品へ繋げようという気概、常に新しい価値を生み出そうという思想が、ときに特徴的な貌を製品に刻む。それはデザインであったり、機能であったり、用途であったり、規格であったり、様々な部分にあらわれる。
 空前のヒットも飛ばすが、途轍もない空振りもする。それを開け広げにしてしまうあたりも、ソニーらしさだろう。『失敗作第1号』という電気炊飯器を、ソニーイズムの象徴ともいうべきモルモット像と並べて誇らしく飾ってしまうあたりも、やっぱりソニーだ。
 そうして生み出された製品を、我々は無視することができなかったのも事実である。ウォークマン、ハンディカム、トリニトロン、VAIO、AIBO、プレイステーション……。あなたの人生にもきっと関わってしまった品を、ソニーは間違いなく生み出したのだ。

 近年は大企業病と揶揄されることも少なくなくなったソニーであるが、こうして俯瞰してみれば、技術で遊び人に寄り添うような企業風土は、決して失われていない気もする。創業70年を迎え、これからのソニーに願うことは、モルモット精神を忘れずにいてほしいということだろう。
 猿真似はCMだけで十分である。


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