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劇評・シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション

 いきなりネタバラシから書いてしまおう。

 本作はシティーハンターことリョウと相棒カオリが、背水に立たされた依頼人からもたらされたトラブルを、追ったり追われたりドンパチ撃ち合ったり美女にもっこりしたりカオリにどつかれたりしながら解決し、最後はGetWildのフェードインで幕を閉じるお話である。
 そう、純度100%の紛れもない『シティーハンター』なのだ。

 当たり前のように思われるかもしれないが、漫画で完成された面白さを映像に落とし込むのは、本来至難の業なのだ。漫画は四角い紙に自在なコマ割りを施し、視線の流れやページ捲りを考慮して構成し、読者に「読む」という能動性を要求するメディアだ。
 対する映画は、四角い画面をほぼそのまま用い、テンポと間を操って構成し、観客に強い能動性は要求しない。何より絵に描いたような美女が出る漫画の実写化で、絵にも描けない美女を出しても白けてしまうというジレンマもある。
 しかし本作は、その差異を見事乗り越えた好例となった。その方法とは他ならぬ、監督の並外れきった「原作愛」だ。

 自ら主演リョウ役を演じた監督、フィリップ・ラショーは、フランス版シティーハンター『NICKY LARSON』が放送された子供向け番組『クラブ・ドロテ』の洗礼をとっぷり浴び、長じて俳優として活躍。長年の夢であった本作のプロットを北條司氏に送り、後に脚本を携えて来日。それを読んだ北條氏が「このストーリーは原作に入れたかった」と、特級の太鼓判を押したという、漫画ファンの極北のようなエピソードを持つ俊英。
 役作りとして、8ヶ月にわたって8キロの筋肉増量と武器取り扱いのレクチャーをこなし、コスプレとは明らかに一線を画す「リョウ」の姿をスクリーンに刻んで見せたのである。

 もちろん監督のこだわりは役作りだけにとどまらない。相棒のカオリをはじめ、原作準拠のキャラの作り込みは「なんだ本人か」レベル。リョウはもとより、全国のCHファンがひっくり返った海坊主の完成度は、それだけで本作を劇場で見る価値がある。たぶん。
 もちろんそれぞれの役作りも完璧。カオリがたまにレディ扱いされて
(〃´∀`〃)
 な顔になったと思ったら、リョウに突っ込まれて
( ゚A ゚)
 となる辺りなどは、あの頃見た掛け合いそのままで心地いい。
 シナリオは先述のとおり混じりっ気のないCHのそれ。開始10秒で声を出して笑ってしまうファンサービスの応酬に、おいおいオードブルからこの濃さじゃ、メインの頃には胃もたれおこすんじゃないか?と心配したが、あれよあれよと引き込まれていく始末。
 さっきポケットからブラジャーを出していたスケベ男に、3秒でグッと引きつけられ、クライマックスは1秒も目を離せないハイテンポガンダンス(今命名)。締めのデザート(オチ)も完璧な仕事をし、GetWildが流れる頃には涙を浮かべるほど堪能していた。さすがフレンチの本家、コースメニューのバランスは完璧だ。

 そして賛美せねばならないのが、吹き替えをつとめた山寺宏一と沢城みゆきの両氏だろう。神谷・伊倉コンビのあの声が岩の如くこびりついた80年代育ちの我々の耳に、この二人の声は微塵の違和感もなく入り、10秒かからず馴染んでしまった。なんという力量。なんというタフネス。この二人無くして、本作の完成はなかったと思う。
 聞けば今年公開されたアニメ『劇場版シティーハンター 新宿プライベート・アイズ』で、山寺氏が演じた御国真司のフランス語版の声を演じたのがラショー監督だったというのだから、奇縁とは恐ろしい。

 ネタバレから書いておいて何だが、本作の楽しみは微塵も奪っていない。これは劇場で『体験』として刻んで、はじめて真価がわかる映画だ。
 口幅ったい物言いになるが、私が本作で得た確信が多くの映画ファンに共有され、映画史の片隅に刻まれることを祈る。

 漫画原作の映像化に必要なのは、もっこり詰まった原作愛であると!!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ミ ◉)<


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