スキマのかたち に行ってきた

 突然だが、あなたはモノを作ったことがあるだろうか?できれば絵や文字より立体物がいい。
 図工の時間の粘土細工、日曜大工の本棚、料理などなど。人はモノを無数に加工し、意図する形に仕上げることができる生き物だ。だがその手段や経過は二つに絞られる。素材から不要な部分を切除するか、必要な形に成形するかだ。

 Additive Manufacturing、いわゆる3Dプリンタは、それらに次ぐ第三の加工技術と言われる。刃物を使わないので、そのアプローチスペースを考える必要がなく、接合や塑性加工の手間も要らない。いきなり要求する形にアウトプットすることが可能である。
 ではそうした技術は、具体的に何を生み出し、我々とどう関わることになるのか?

 この一年で5回目の登校(?)に、密かにここに通う身分になった気分でいる。
 東京大学駒場リサーチキャンパス、生産技術研究所の山中研究室で行われた展示会『スキマのかたち』に行ってきた。

 5回目となる山中研究室の展示会であるが、今までは義足であったり新素材の見せ方であったりと、デザインに付随するテーマがあった。しかし今回は、いわばデザインそのものを展示する試みだ。

 山中研究室では、最先端技術とデザインの関わりなども研究している。そうした中で、AM加工だからできること、できないことを、さまざまなデザインモデルから解き明かそうということらしい。
 その研究に携わった人の中には、企業から参加した研究員もいる。今回出展された作品の多くを手がけた岡部健作氏も、その一人である。

 昔から物の中身に興味があったという氏であるが、いざ勇んで構造体のようなものを出力してみると、どうも合点がいかなかった。しかし今度はそれの一部に覆いをつけてみた時、はたと思いつく。これはスキマを作れるんだ、と。

 ひとつの立方体があったとしよう。それは硬いのか柔らかいのか、重いのか軽いのか。持って触らなければわからないのが当たり前である。ではそれが材木から切り出したサイコロだと聞いたらどうか?恐らくおよその重さや手触りは想像がつくだろう。
 木の重さや硬さを決定するのは、ほかならぬ木そのものの内部構造のスキマを埋め尽くす、繊維の密度や方向だ。AM加工はそうした内部構造を自在に作れるのではないか。それまで刃物も釘も届かなかったスキマをデザインできるとしたら、どんなものを生み出せるのだろう?

 これらの立方体は、正にそうした思索の実そのものだろう。触れる前に我々が無意識に予想する硬さや重さを、これらは心地よく裏切ってくれる。
 構造の密度や方向や組み立てを、文字通り縦横無尽にデザインできるAM加工なればこそ生み出せた不思議な形。これをもっとミクロに作ることができれば、それはまさに木の繊維のように、負荷に対する強さまで自在にデザインできることになる。
 AM加工の可能性を垣間見せるデザインである。

 個人的に唸ったのはこの一品。いわゆる粉体にレーザーを当てて加工するタイプの3Dプリンターは、どうしても中に粉体が残ってしまうという欠点があり、中を空にするにはその粉を抜くスペースを確保せねばならない。
 だがこの粉は密度が高く、ほぼ固体のようになっており、小さい穴からは抜けないため、ストローのような構造体を作るのが難しかったという。
 そこで考え出されたのが、抜き取る粉の部分を別パーツとして成形すること。完成後引き抜いてしまえば、きちんを穴が開くというわけだ。なんと賢い!

 先日開催された「PLAYFUL」もそうだったが、何かを作るために、ではなく、何が作れるかのためにモノを作る姿勢というのは、実に新鮮で面白く感じた。
 山中教授は「3Dプリンターを自由に使いなさい。ただしユーザーにはなるな」と言ってきたという。目的のために機械をどう使うかではなく、この機械からどんな目的に向かえるか。それを探る研究室なればこその指南だろう。
 AM加工はまだ黎明の技術。これからも様々な使い方作り方が生まれるだろう。
 そうしたものが、今どこかにいるかも知れない、こういう素材が欲しいとか、こういう技術が必要だと思っている生産の現場と結びついた時、どう化けて我々の生活に関わり始めるのか。

 手品のタネを見てから、これから始まる手品を楽しみにするような感覚に、胸躍らぬわけがない。

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頂いたサポートでゲーム買って記事にできたらいいな

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