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ハゲのすゝめ

20歳の夏休み、花の女子大生だった私はストレスから髪の毛を失った。
8月末くらいから急激に抜け始め、10月の半ばには一房ほどしか残っていなかった。

原因やらなんやらは、まぁ色々あるのだが、結果としてその後、通院し、薬を飲み、平和な生活を取り戻した私は、元のフサフサになった。治った今だから言えるのは「ハゲてみるのも悪くない」ということだ。

ハゲて悪かったこと

まずはおさらいとして、悪かったことを書こうと思う。


①見た目の悪さ
これは当然なのだが、見た目が悪い。著しく悪い。髪の毛がない、それも一部分がないのではなく全体的にハゲ散らかすというのはかなり悪い。不細工というレベルを超え、不気味である。鏡の向こうに落ち武者の亡霊が出現する。しかも、毎日、不気味度が増していく。「自分自身が急激に変化する」というのはそれだけでかなりの恐怖を味わえる。

②不安
脱毛症もいちおう病気であるので、「治らなかったらどうしよう」という不安がある。とくに特効薬や確実にすぐに治る保証があるわけでもなく、長期間治らない人もたくさんいる。悩んだり不安になったところで何も解決はしないのだが、どうしても考えてしまう。これは割とつらかった。

③普通よりちょっと特別な生活ができないこと
「普通よりちょっと特別」というのは例えば温泉に行ったりプールに行ったりということである。ごく普通の生活、それこそ買い物に出かけたり、学校に行ったりする分には特に問題なく生活できる。抜毛の量や、脱帽しなければならない場所かにもよるが、ウィッグ等を利用すれば一般人と何も変わらない。なんならウィッグをかぶって就活をしたし、グループディスカッションもした。しかし、友人たちからの「旅行いこう、温泉に入ろう」といったお誘いはすべてお断りさせていただいた。自分が気にするというのもあったが、こんなにグロテスクな頭を白日の下にさらすのは忍びなかった。

④外出がおっくう
そりゃあね。

⑤掃除が大変
床、布団、服、ノートのすき間、ありとあらゆる場所に髪の毛が落ちるので掃除が非常に大変だった。排水溝もすぐ詰まってしまうので、ズボラにはつらい。

⑥頭皮が痛い
髪の毛は意外とすごくて、あれがないと頭皮が非常に乾燥する。ハゲは頭を少しこすったり掻いたりしてしまうと、そのあと小一時間、痛みでのたうち回ることになる。

ハゲて良かったこと

ざっと考えただけでもこんなにデメリットがあるハゲだが、実は意外とメリットも多い。

①いろんな髪型にチャレンジできる
ハゲる前、普段は背中まで伸ばしており、「思い切って短くする」というときは肩につかない程度まで切るのが常だった。つまるところ、ボブより短くしたことはなかったのである。たいていの人は似たようなもんではないだろうか。ショートにした後伸ばすまでは時間がかかるし、なんだか顔の輪郭が目立ってしまう気がして手が出しにくいのだ。しかし、ハゲると否応なしにショートにすることになる。いや、ショートどころではない、それこそ0mmからあらゆる長さを経験することができる。ベリーベリーショートである。実際のところ、自分にはどの長さが――手入れの手間を含めて――合っているのか、私ほど試した人もいないのではないか。
さらに地毛だけでなく、ウィッグでも試せる。元の髪がない分、ウィッグネットをセットしやすいので、ウィッグ特有の頭が膨らむ感じもない。

②いろんな服を着れるようになる
髪型が変わると、似合うファッションも変わる。私はそれまでいわゆる「フェミニン」や「オフィカジ」といった、キチンと感がでつつ女の子らしいふわっとしたパステルカラーの服を好んできていた。ベリーベリーショートでウィッグなしでもギリ外に出れるようになった頃は、モノ―トーンのバリバリのブロガー風を楽しんでいた。ちょっとロックなごついサンダルを履いたり、オール黒を着たりした。普段着ない、自分では敬遠していた服を着れるというのはすごく新鮮で楽しかった。毎日服が欲しいと思っていたし、もっと伸びたら何を着ようか考えていた。物欲があると、世界は楽しくなる。

③周りが期待以上に心配してくれる
ストレスで不調になるのは人間だれしもあることだが、中でもハゲというのは見た目のインパクトがすごい。単純に胃痛になったり精神障害を患うよりも、第三者に訴えかけるものがある。たぶん痛みや恐怖やストレスはそんなに大差なく、みんな辛いのだが、ハゲは見るからにヤバいのが功をなし、周りが積極的にストレスを減らそうと努力してくれる。本来ならどの症状に対しても同じように気を遣うべきだとは思うのだが。

④シャンプーで贅沢できる
いや、これは普段からしてもいいのだが、どうしても貧乏性が出てしまい「そんなに効果が変わらないなら…」と一袋500円程度の詰め替えシャンプーを買ってしまう。しかし、ハゲはそんなこと言ってられない。むき出しの脆弱な頭皮と、残されたわずかな髪のために、少しでも低刺激で栄養価のあるシャンプーを求めずにはいられない。次世代がのびのびと成長できる土壌をつくってやることこそが使命であり、唯一私がしてやれることなのだ。そう言い聞かせて1本2500円の素敵なノンシリコンシャンプーを買った。うっとりする香りとおしゃれなパッケージが憂鬱なシャンプータイムを少しだけ前向きなものにしてくれた。

⑤自分の限界がわかる
一度は言われたことがあるのではないか。「若いうちに酒の限界を知っておきなさい」。これはつまり「気持ち悪くなるくらい飲んでみなさい」ということだ。ハゲも同じである。「若いうちにストレスの限界を知っておきなさい」。お恥ずかしい話だが、私はハゲたとき、それもおそらくストレスが原因だろうとされたとき、全くストレスを感じていなかった。「えーこんなんで私の体は限界なんだ!」というのが感想である。というか、どうやらストレスは抱えすぎると感じなくなるっぽい。つまりハゲ始めなければもっと抱え込んで、もっと深刻な病になっていた可能性や過労死していた可能性もあるのだ。そういったリスクを回避しつつ後遺症もなく、日常生活にもさほど支障を出さず、多額の治療費をかけることもなく復帰でき、ストレスの限界を知ることができるのはハゲである。

⑥生活態度を見直せる
ストレスの限界がわかるので、ストレスをためない生活を心がけるようになれる。例えば私は自室に服が散乱しているのだが、これは衣類の収納に使っている引き出しが使いにくいせいだ。部屋が片付いていないというのは小さいことだがストレスなので、改善したほうが良い。結果として服は引き出しではなく、箱にぽいぽい入れるだけにした。それから、「毎日欠かさずしないといけない」ことが結構ストレスだった。苦手なことを「やらなきゃいけない」と思うことが髪を駆逐してしまうので、やらなくてもいっか、気が向いたらやればいいと思うことにした。できる人には当たり前なんだろうが、何だかんだ几帳面でまじめな私にとってはなかなか革命的であった。ズボラでいていい理由をつくってくれたハゲは私を楽ちんな世界に導いてくれた伝道師である。

いかかでしたか?

私なりに調べた結果、ハゲにもたくさんのメリットがあることがわかりました。お世話になった皮膚科の先生によると、ハゲは遺伝的な面もあるようで、ハゲになれるのは才能のようです。一見悪いことしかないように思えることでも、良い面があるんですね。よかったらシェアお願いします。

とまぁ某サイト風は終わりにしまして、最後にこのノートで伝えたいことを書こうと思います。

ハゲたとき、人生オシマイなんじゃないかと悲観していたころ、毎日朝起きるたびに絶望していた私は、当然ネットで同じ症状に苦しむ人を探していました。本当はストレスじゃなくてほかの病気の症状じゃないのか? 二度と髪の毛は生えてこないのではないか? ウィッグを買ったところで外に出れないのでは?友人をなくすのでは? どうやってカミングアウトすればいいのか? と、いろんなことに悩んでいました。
けれど、同じ年齢・性別・症状で発信している人は見つからなくて、私の欲しかった答えは見つからなかった。自分が孤独になってしまったと感じて更に絶望した。ハゲはいいぞ、なんて書いているけれど、未だにあの頃を思い出すと辛くて怖くて悲しくて動けなくなってしまう。でも決して珍しい症状ではないし、同じ年頃で悩んでる人もきっといる。そういう人が少しでも救われるように、ただただ「おんなじようなやつがいた」ことを知ってもらえればと思ってnoteにしました。ハゲは簡単に再発します。現に私の髪の毛は一部分、第三世代です。
ストレスハゲは辛いことでいっぱいでした。でも、なってしまったものは仕方がない。ただでは転んでやらねぇぞ、なにか掴んで起きてやる、という気持ちも大事です。絶対にほかの女子大生が経験しないことを私は体験しました。『もののけ姫』のアシタカが髷を切って祭壇に備えるシーン、私は残ったひと房の自毛で真似してやりました。(新しく生えてきた第二世代と長さを揃えるため。)あれって結構切りにくいのよ。でも意外と楽しかった。悪いことだらけだったけど、全部ダメだったわけじゃない。だからこそ言いたい。ハゲて良かったこともある。

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