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永訣の朝2011*海嘯記

あっけなく別れてしまった

あの日青く青く広がっていた空
(誰も見てはいなかったけれど)

鳥たちが消えてしまった静寂
(あとになって気づいたけれど)

音をたてて崩れていく波の穂が
分厚く容赦なく黒々と落ちていく
(そのように呼吸を奪ってしまった)

水鏡に映る、天国と地獄の境目の大地
絶望で横たわっているというのに
(空からこぼれおちる3月のみぞれ)

目指す中心に無数の手が彷徨う
北から西から南から辿りついたのに
(空からこぼれおちる3月のみぞれ)

お父さんありがとう

お母さんありがとう

お姉さんありがとう

深く心の底から手を合わせて 叫ぶ

もう、誰を呼んでも私に答えてくれない

みんな群青色の海に消えた


見知った顔が新しい毛布を手に走りだす

ため息の人垣を掻き分けて

泥だらけになったお母さんの  胸と足を  別々に抱く

冷たい沢水を柔らかく絞って  丁寧にぬぐい続ける

こびりついた血の塊も  耳や鼻につまった泥も
もうお母さんの一部になってしまった

私を抱いてくれた私のお母さんを  今度は私が初めて抱く

私の明日のために見つかってくれた  私の優しいお母さん

なぜこの季節が選ばれたのだろう

私の希望を吹き消さないようにと
離れた心をまたひとつにつなぐようにと

真っ白な雪がとめどなく  しんしんとこぼれ落ちていく
(いつも春を呼ぶ3月のみぞれ)


3月11日の夜の星空は綺麗だった。
その夜は星空を見ながら、外で歯磨きをしていた。
家主が出てきて「綺麗だな」と空を見上げて、ボソリと言った。
私が歯磨きをしていた150メートル先には
瓦礫が積み重なり、その中にも2人いるはずだった。
(明日にはどうにかなるのかも知れない)と
夢のようなことを考えて眠りについた。
3日目には「何か必要なものはありませんか?」と
モトクロバイクの若い男の子の姿があった。
途方にくれて誰も答えられなかった。
何もかも途方にくれた。
1年位の記憶がぽっかり抜けていたけれど、
自身で読み返すことで、少しずついろんなことも思い出した。
出会ったいろんな人のことや、出来事や語られた話など。

2023年はいろんな紛争のニュースに心を痛めた。
外郭や目的がどうであろうが、常に弱者が窮地に立たされる。
気が付かないだけで、それは日々絶え間なく起こっていたことだ。
「〇〇小学校、〇年〇組、○○です。助けてください!」
そう叫びながら、引き波に連れられていった子供が亡くなり、
朽ちるだけの、何の未来も持たない私は生きている。
人が命を落とすということや、人は相和合して
暮らしていくべきだということを考えて欲しいと思う。
高祖父はバルチック艦隊との日本海海戦から戻ってきた。
曾祖母の兄は軍医だったが、外科まで上手になって戻ってきた。
祖父はフィリピンで戦死した。
後年叔父が探し当てたその場所は、
コーディネーターの人に言われるまでもなく、
部隊ごと餓死したのであろう場所だった。
小さな石碑を立て、翌年両親も訪ねた時は、
台座を残して、無残に壊されていた。
「日本軍に恨みをもっている人がまだ多いから」
安価な金銭で殺人も請け負う地域だと言われ、
その場所までも「絶対窓から顔を出すな」と、
銃をもった二人を従えて、訪れた最後の地なのだ。
テレビや教科書のうわっつらの言葉だけに騙されてはいけない。
私なりの反戦の思いが、若いどなたかにも届きますように。
記憶の底に沈めておきたいことを、
note に書き込んだのは、それが大きな理由だ。
目にして欲しい人の目と心に届くのだろうか。

2011年にクローズドの掲示板に投稿しつづけた散文を、
もう、空にでも手放してしまいたいと思う。
直したいと思う文章もそのままに。

数え切れない大勢の方に感謝と尊敬を込めて。
今日で毎日note109日目。

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