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延年の旅*オーバーツーリズム

瞬間の感動というものに、時々出逢う。

山の稜線に沈みかけた夕日に立ち会う瞬間。

空の、水色から白をはさんで、
優し気な金色に変わりゆく色の流れを、目で追うと、
過ごした一日の時間のあれこれが思い浮かび、
なんとはなしに(これで良かったのよ)という安心感に触れる。

利休梅の枝に張り巡らせたソーラーライトの電球が、揃って光始めた瞬間。

一秒早くても一秒遅くても出逢えないオレンジ色の突然に、
足早にやってくる夜を思って、まだ一番星も見えない空を見上げる。

お天気が良かったので、相変わらずの花畑で土いじりをした。

仕事ではないので、あちらの草を抜いて一休み、花を植えてみて一休み、
鳥のエサ台にくず米を置いて一休み、一休みの時間の方がきっと多い。

お気に入りのマクビティ・ビスケットに冷たい水を入れたボトルを持って、
丸葉ユーカリの木陰の下でおやつタイム。

連休に入ったので、なんとなく車の往来も増えた気がして、
聞いていた音楽のボリュームを心持ち下げる。

見たことないくすんだ青の鳥がやってきた。

さっきまで、雀が二匹でついばんでいたのに。

足元に咲き始めたシラーの花と、来客の青い鳥と交互に眺める。

もしかして新しい場所に警戒があったのか、
くず米を確かめたようなそぶりだけで、羽を広げて飛んでいった。

鳥にだって、いつも何かしら新しい出来事がある。

「よいしょっと」

誰かに聞かせるわけでもなく、
自分へ、一瞬の旅の終わりを言い聞かせるように、
座っていたベンチから腰を上げる。

見おろす家々の灯りがともり始め、
空の水色は誰かが塗り替えたように、滲んだ色に変わっている。

毎年、補強のために白いペンキで塗り上げるこのベンチ。

(青のペンキを買って、今年残った白と足せば水色のベンチになる!)

突然のひらめきを来年の計画に入れる。

でも予定はいつも未定。

どんな旅も予定通りに行かないから面白い。

連休であちこちの観光地の様子がテレビニュースに映し出される。

家族のために、並ぶ並ぶ並ぶ。

家族のために、休みこそ休まない休めない。

時間は写真を撮るためだけに費やす。

時にそんなことを感じて「もう、若くないってことかな」と独り言。


着物や帯を見るのが好きなので、たまにいろんな動画で楽しむ。

いつのまにか見ているのはオーバーツーリズムの、
その現実に変わったような気がしてしまう。

あちこちを旅行しているような動画を楽しんでいるうちに、
旅というものは、いろんなものや場所や、
ひとに触れ合うものだと思っていたのに考えが揺らいでしまう。

私は私の歩ける範囲で、このひとり旅を続けようと思った。

一日一日が楽しく過ごせれば、この旅の醍醐味が分かってくるに違いない。




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