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空を飛びたくて

小学生の頃
傘をよく壊した

「また!壊したの?傘だって安くないのよ!」

そう言いながら、傘をくるくる回し
「全く、どうしたら、こんな壊し方になるの?」と母は言った。

私の傘は上から大きな石が落ちて、潰れたようにひしゃげていた

「あのね、空を飛ぼうとして…」

母に怒られるたびに言おうとして
口をつぐむ

そんな事言ったら、
傘を壊した事ではなく、
『また、ヤンチャな事をして!』って怒られるような気がしたから

自慢じゃないが、私は女性である

だけど、やる事は男の子まさりで
膝小僧の怪我は勲章だった

「女の子ってこんなに暴れ回るもの?」

父も呆れていたらしい

ちなみに4つ下の妹は大人しくて、私の影に隠れているような子で、みんなにかわいい、と言われていた。まぁ、それも小学生までだけどね
その後、バイクを乗り回して…
なんて、誰が想像できただろうか…

そんなヤンチャな私が目をつけたのが
『傘で空を飛ぶ』という事だ。

なんでそんな事を思ったのか…

多分、映画の影響だ
小学生の時、幼馴染数名と保護者で見た
『メリーポピンズ』
傘を刺して、空から降りてくるというシーンが頭にしっかり刻み込まれた。

幼馴染が映画に飽きて、映画館内を歩き回ったり、出たり入ったりしてたので、退場を言い渡されて、最後まで見れず、どんな話だったかはわからない。

空から傘で…
小学生の私には衝撃的で脳裏に焼きついたのだ

翌日から自主トレが始まった

おあつらえ向きに
近所に小高い丘があり
飛べそうだと踏んで
チャレンジ

高く舞い上が…るわけもなく
落下して、尻餅

何度かやるうちに
これは風がないと無理なんじゃ?と気づいて風の強い日を待った

ついに、その日はきた!

傘が風を受けてバタバタと揺れる
よし!いい風!
私はパイロットになったような気分で
スタートラインにつく。

いい塩梅に傘が風を受けている
崖の上まできて
よし!と足を離した

…ずずずーー

私は背中から崖を滑り落ちた。
したたかに腰を打った

「大丈夫ーー?」
友人の声がした

痛いのを堪えて
「だ、大丈夫」と答えると

友人は傘を拾って
私のところまで来て言った
「無理だと思ったんだよね。
私はやめておくね」

傘を私のそばにおくと
友人は静かにその場をさった

傘はぼろぼろだった

また、怒られるな…
壊れた傘と破れた洋服をみながら
今日は傘だけでなく、洋服も…

こっぴどく怒られたのは言うまでなく
今度、壊したら、二度と傘は買わないからね!と言われたので、空を飛ぶ事は諦めた。

結婚して、子供ができて
傘を壊してくるたびに、あの日の母のように叱りながら
「あなたも空を飛ぼうとしたの?」と聞いて見た。

キョトンとした顔で
「かあちゃん、何言ってるの?傘で空なんて飛べないよ」
という子供

強い風が吹き、傘が舞い上がろうとすると
『実は飛べるのでは?』
なんて、今でも、ふと、思ってしまう。

ただし、あの頃よりも数倍も重くなってしまった体をなんとかする方が先かな…

なんて思いながら、強い風に傘を奪われないように必死に傘の柄を握りしめるのだった。

#創作大賞2023 #エッセイ部門

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