見出し画像

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を読んで、えいごを学ぼう!第一回目のテーマはビートルズ!

連載!などと大風呂敷は広げませんが、複数回投稿の予定です。初回テーマはここの基本コンセプトである「ネーミング」にしようと思ったのたですが、今日9月26日は53年前にビートルズが「アビーロード」をリリースした日だとテレビでやっていたので急遽変更しました。

とりあえず作者のウィアーはビートルズおたくのようです。
この『プロジェクト・ヘイル・メアリー』

FOR JOHN, PAUL, GEORGE, AND RINGO
ジョン、
ポール、
ジョージ、
リンゴに

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』著 アンディ・ウィアー訳 小野田和 早川書房 刊

という文からじまります。

インタビューでも現在制作中の映画版で主演を務めるライアン・ゴズリングもビートルズ・ファンなのだと浮かれ発言をしていて、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』中にもイースターエッグをちりばめたので「みんな探してみてくれよな!」的なことを言っていました。
 イースターエッグ(easter egg)というのは「隠れミッキー」みたいなことです。つまり「ヘイルメアリー」の場合は「かくれビートルズ」ってことですね。

さぞや盛り上がってることだろうとググってみたところ、ヒット作だけあって投稿自体は多いのですが、ほとんどが他のSF作品であるとか、或いは氏の他の作品とのリンクやオマージュなどについての考察が主でビートルズネタなどほとんどありません。
 これには少しホっとしました。(なぜホっとしたかについては後で書くとします。)

さて、「アビーロード」記念日ですね。
なんてタイムリーなんでしょう。
コレいちばんベタなやつです

Abby rode horses competitively and spent most of her time at her grandfather's dairy farm.
アビーは馬術競技をやっていて、いつも祖父の酷農場で馬に乗っていた。

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』著 アンディ・ウィアー訳 小野田和 早川書房 刊

Abby rode=Abbey Road

なんか馬術競技をやっているという説明の唐突さがイースターエッグありきのぶっこみ文な気がしました。カウボーイの国とはいえ競技馬術となると、そこまでメジャーではないでしょうし、まあまあ金持ちの趣味。(スプリングスティーンの娘が東京五輪に出てましたね。)っていうか、なぜここで過去形?

↓↓↓↓なんだか気になってしまったので馬術のコストについて調べてみました。興味のある方はとんでみてください。

あとアビーというと字面はシンプルなんでありふれた名前に見えてしまいますが、なかなかのマイナーネームです。あるデータでは全米で500人くらいしかいないとか。

ぶっこみ系がもう一か所

I said. “It's not like we'll have a line of people saying, ‘Oh, me! Please! Please me! Pick me!' ”
「みんなか列をつくって『ああ、わたしを! お願いだ! お願いだから、わたしを! わたしを選んでくれ!』というたぐいのものじゃない」

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』著 アンディ・ウィアー訳 小野田和 早川書房 刊

はい「Please Please me 」ですね。

ビートルズの曲名のほうは、「どうか私を喜ばせて」と品詞違いのPleaseを並べた言葉遊びのような構造ですが、「ヘイルメリー」のほうはただしつこく同じ意味のものを並べただけなので、意図を感じてしまいますw

品詞違いを並べるということでは、こんなの知ってますか?

●I think that that that that that boy wrote is wrong.

●Buffalo buffalo Buffalo buffalo buffalo buffalo Buffalo buffalo
どっちも、一応、文として成立しています。
ググれば出てきますので、興味のある方は。

さてイースターエッグですが日本語訳だと訳者の判断でバラしてる場合もあります。

John, Paul, George, and Ringo get to go home, but my long and winding road ends here.
ジョン、ポール、ジョージ、リンゴは家に帰るか、ぼくの長く曲がりくねった道はここで終わる。

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』著 アンディ・ウィアー訳 小野田和 早川書房 刊

英語で読んでる人にとってはイースターエッグとして成立しているということでしょう。

“Now you do. I'm gonna get that Astrophage now. I've got to make sure these beetles will be able to…‘Get Back.' ”
“Okay.”
He frowned. “ ‘Get Back.' It's a song. It's by the Beatles.”
“Sure. Okay.”
「もう覚えましたよね。これからアストロファージをもらいにいきます。ビートルズかちゃんと…… ゲット・バック″するようにしなくちゃいけないんで」
 「オーケイ」
 彼が不服そうに眉をひそめた。「『ゲット・バック』。そういう曲があるんです。ビートルズの」

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』著 アンディ・ウィアー訳 小野田和 早川書房 刊

こうなるとイースターエッグでもなんでもなく、ただのビートルズのゴリ押しですw。

さらに登場人物が普通に説明しちゃってるパターンはもういっちょ。

It’s been a hard day. Night. Whatever. A hard day's night.” I lie back in the
bunk and pull the blanket over me.
“That sentence make no sense.”
ハードな日だったよ。夜も。まさにア・ハード・デイズ・ナイトだ」横になって、毛布をかける。
 「その文章はおかしい」

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』著 アンディ・ウィアー訳 小野田和 早川書房 刊

このくだり、日本の、特に若い読者は一体何を言ってるんだろう…って感じではなかったでしょうか?
 これ誤解されがちなんですが文法的には何もまちがってはいないのです。「Day」という非生物の所有格がヘンだというわけです。同じ理由で「Tomorrow never knows」も当時としてはヘンテコな表現だったと。(それにしても、この微妙なニュアンスをなぜエイリアンがわかる?)

「Beatles+coined」で検索すると、当時ヘンテコ表現など物議を醸したフレーズたちが出てきます。それらの中にはBeatlesはシェイクスピアなみに新語を生み出したとかなんとか称えるサイトもありました。新語というほどのものではない気がしますが、ある人たちにとってはBeatlesはほとんど宗教なので、なにかにつけそうした大げさな表現はつきまといます。多分ウィアーも信者でしょう。それらを見回っていて笑ったのはドラッグでハイになった状態を表現した「Day tripper」はいまや日帰り旅行の広告に使われるとかなんとかw ホント?

ヘンテコリストには「Eight days a week」もありました。ビートルズよりも先に「一週間に十日来い」を生み出した日本の歌謡界はすごいと思ってしまいますが、これって「24時間戦えますか?」と同じ過労死案件なので喜んでもいられませんね。

ただ、その20年後にナイトレンジャーが歌った「The secret of my success」の歌詞には

The secret of my success is I'm living 25 hours a day
私が成功できたのは1日25時間生きたから

…なんて一節がありました。
 80年代のアメリカは日本企業に押されがちだったので、日本を見習ったのでしょうか。あるいは強烈な皮肉なのでしょうか。ところでこの曲、ナイトレンジャーにしてはアレンジがセンスよすぎですが、きっと映画の主題歌ということもあって、プロデューサーのデビッド・フォスターがいじりまくったのでしょう。


さて、この「ハードデイズナイト」はウィアーの発想の源泉のひとつとなっていることがうかがえます。それはライランドがエイアンの言語を解析するためにフーリエ変換です。

There’s a lot of complicated math on how to make it happen, but the end result is this: if you run a sound wave through a Fourier transform, it will give you a list of the individual notes being played at the same time. So if I played a C-major chord and let this app listen to it, the app would tell me there’s a C, an E, and a G. It’s incredibly useful.
複雑な計算の山の上に成り立っているものだが、結論はこれ―波をフーリエ変換すれば、どんな音が同時に鳴っているかリスト化される。つまりぼくがCメジャーを奏でてこのアプリに聞かせれば、アプリはこのなかにはCとEとGがあると教えてくれるわけだ。

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』著 アンディ・ウィアー訳 小野田和 早川書房 刊

実は「ハードデイズナイト」のイントロの「シャーン♪」をどう弾いてるのかが長きにわたりファンの間では論議の的となっていたました。

それをある数学者がフーリエ変換を用いて解明したというニュースがネットを駆け巡ったのです。

http://www.mscs.dal.ca/~brown/n-oct04-harddayjib.pdf

ウィアーは情報源はほぼGooleと豪語してることもあり、元ネタが実にわかりやすい。それにしても、プロの作家がGoogleだのみとは…
彼ほどの人物ならリテラシーもあるので何も問題ない?
少なくとも私はつっこみどころは満載だと考えています。
それについてはいずれ「英語学習編」とは別に、「つっこみ企画」としてアップしたいと思います。

それでは、突然ですが、来るべきつっこみ編に備えての準備運動として「ウソの付きかた」というものを考えてみました。

I get back in the EVA suit, grab the doohickey, and head out into space once again. I don't need to work my way across the hull with tethers this time. I just clip my tether in the airlock.
 またEVAスーツに入ってブツをつかみ、もう一度、宇宙空間に向かう。こんどはテザーを操って船体を移動する必要はない。テザーはエアロック内に留めたままでいい。

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』著 アンディ・ウィアー訳 小野田和 早川書房 刊

I get back in the EVA suit, and back outside. Again. Bouncing in and out is getting kind of annoying. I hope this tunnel thing works.
 またEVAスーツに入って船外に出る。まただ。出たり入ったりかちょっと面倒臭くなってきている。このトンネル計画がうまくいくといいのだが。

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』著 アンディ・ウィアー訳 小野田和 早川書房 刊

さてこの中にもビートルズの曲が隠れてます。
どれでしょう?
それは「back in the EVA」です。
え?そんな曲ないって?
EVAスーツって、どこ製でしたっけ?
そうです。
「Back in the USSR」ですね。

え?無理がある?
だってwearですむものをわざわざ、こんなカタチに仕上げているところが不自然でしょ?
実際、他の箇所での表現は

but, wearing this EVA suit
while wearing my EVA suit
at least I'm in an EVA suit
My EVA suit
without wearing the EVA suit
I have my EVA suit

と、こんな感じで、こうなると「the」すら不自然にみえてくる。

…というウソ。

一般的には日本語の作文だと言いまわしや単語のセレクトは統一するのが、お行儀のよい文ということになりますが、英語の場合はボキャブラ自慢の伝統なのか、おなじことを表すのに色んな言いまわしを駆使すると賢くみえるということで、これは普通です。
それに↓

The Russian-made suit is a single-pressure vessel. Unlike American models where you put the top and bottom on, then a bunch of complex stuff for the helmet and gloves, the Orlan series is basically a onesie with a hatch in the back.
 ロシア製のスーツは一体型の耐圧容器だ。アメリカ製のモデルは上と下を着てからヘルメットとグローヴ用の複雑な部品をあれこれ装着するが、オーラン・シリーズは基本的に背中にハッチがある上
下一体型―ワンジー―だ。なかに入ってハッチを閉めれば、それで完了。

…というのことなので、むしろ「in the」がいちばんしっくりくるくらいです。実際のところ、in theは多いのですが、わざわざ再検証する人はいないだろうという前提のやり口だったのです。
「だったらカバンの中見てみろよ!」とか、或いは、調べやがれとばかりに服を脱ぎ始めるというような種類の卑怯な手法ですw
ですが先述の「他の箇所での表現」については実際に存在しているので
「ウソはついてない」と言い張ることはできます。

「ウソはついてない」
「可能性はゼロではない」
なかなか厄介なフレーズです。

さて、こんな話題で終わるのもなんですから、今一度ビートルズのタイトルさがしにもどってみましょう。
「You Can't Do That」というフレーズは2回出てきます。
「What You're Doing」
「I'm So Tired」
「let it be」
「Chains」

は、それぞれ1回づつでてきます。

その大半はもはや偶然かもしれませんが、以下のやつらも見つけたので列挙しておきます。
(タブでとばした右の数字は出現回数です)
逆にこれ以外にもあったら教えてください。

Something 193
Because 146
Wait 135
help 46
The End 31
get back 28
I Will 23
The Word 16
Flying 9
Slow Down 8
I Want You 6
yesterday 4
Rain 5
Good Night 3
I Need You 3
I'll Be Back 3
revolution 3
Tell Me Why 2

何の参考にもならなかっでしょうかw

あ、そうそう
洋書ってけっこう図書館にもあったりしますよ。
この「PROJECT HAIL MARY」もざっくり横断検索してみただけでも江戸川区、世田谷区、練馬区、武蔵野市そして都立中央図書館にはあるみたいです。
 これから自力で買おうという方には電子書籍がおすすめです。もっというなら、どなたかオーディオブックに挑戦してみてください。音楽が言語になっているというあのエイリアンの発声がどう再現されてるか気になりませんか?聞いた方は是非どんなだったか教えてください。

それでは第二回ネーミング編で会いましょう!

↓次回引用する文にもビートルズのかげ(予告もかねて)

“What would you call an organism that exists on a diet of stars?”
I struggled to remember my Greek and Latin root words. “I think you’d call it ‘Astrophage.’ ”
“Astrophage,” she said. She typed it into her tablet. “Okay. Get back to work. Find out how they breed.

Project Hail Mary - AndyWeir

この記事が参加している募集

宇宙SF

SF小説が好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?