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#SF小説が好き

SF小説への愛や、好きな作品・作家を語ってください!

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エクストラクト

 砂塵の向こうに霞む街が見える。  男は立ち止まっているとずぶずぶとブーツが沈んでいく流砂の流れに抗うようにして、一歩一歩街の方へと向かって行く。 (また蜃気楼じゃないだろうな)  空を見上げると、太陽すらも砂塵に翳っている。そこに雲がかかっているものだから、正午近い時間だというのに、辺りは夕刻のように薄暗かった。  以前こんな天候の中街を見つけたとき、遠くから見えた街は砂塵の黒と茶色の色彩の中にあっても、彩り豊かな街並みに見えたのだが、近づいてみて男は愕然とした。街は砂に埋

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先週末日記(プール/松の花)/先週のスキのお礼/週明けの空

先月末のコロナ罹患から3週間経ち、プール通いが復活した。 週末のプール(週末日記のメイン)その日のコースは空いておりマイペースでゆっくりと。 疲れを感じる前にプールから上がる。 先月、買い替えた水泳用具の使い心地は上々。 今まで使っていたものはパーツが固くなっていたようだ。 松の花 開花時期(4〜5月)松の花を意識して見たことがあるだろうか? 私は知らなかった。 拡大してみる。 先週のスキのお礼いつも記事をご覧頂き、ありがとうございます😊 個展予告とスキのお礼

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アイ、シオン

 ある日ぱたりと小説が書けなくなった。  山荘に籠って、食事の時に妻と会話する以外、人と接していないのだから、それも当然かもしれなかった。人間一人の頭で考えつくことなんて、たかが知れている。いわんや僕の頭をや、だ。  そこで悩みに悩みぬいた挙句、Amazonで「AIストーリー生成体験装置」なる巨大な、八畳の僕の書斎の大部分を占領するような機械をぽちっと購入して、この山奥に届くのを待った。その間、僕の小説は一行も進まなかった。危機に瀕して銃を出した主人公が、黒幕が愛する女だった

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Philip K. Dick::トータル・リコール ディック短篇傑作選【Memorandum, Reading impressions】

3冊目の感想文に時間が掛かってしまったので(途中で読むのを止めていた)4冊目以降は、読み停まる前に記事にしようと思う。 この本は随分前に文庫で読み、Kindleでも読み直した記憶がある。 何度か読んでいるので、今回の読書は記憶の確認であり追憶。 「トータル・リコール」の原題は "We Can Remember It for You Wholesale" 邦題は『追憶売ります』 「トータル・リコール」 We Can Remember It for You Wholesa

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チェリーブロッサム・ブリザード

 その店には生き物であれば、何でも揃っていた。蜘蛛でも、トカゲでも、猫でも虎でも。そして、人間であろうとも。ただし、すべては現身に過ぎなかった。  現身とは、本物そっくりに制作された人形である。ただし高度な機械技術で根幹を制作されており、動きは本物と遜色ない。精度の高い人工知能も搭載されているため、その動物らしく振舞うこともできる。猫であれば猫らしく。虎であれば虎らしく。そして人間であれば、人間らしく。  店の中に一人で踏み込んだ刑事、蛍は店の棚にずらっと並んだ現身を横目に、

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【小説】天国へのmail address 第一章・優君との出逢い

出逢い お天道様がまどろみから覚めて伸びをする。東の空から薄明かりが浮かび上がると夜空で躍り廻っていた星達の輝きを、魔術のように消していく。 朝顔のつるに溜まった夜露が、ぽたりと地面に落ちる音が一日の始まりを告げる。 朝日ケ丘公園のベンチには老人がスマホを片手に座っていた。 橘克巳(達ばなかつみ)はこの夏で定年を迎えた。会社からは延長の話もあったが体調不良を理由に退職の道を選んだのだ。事実、橘の体調は決して良いと言える状態ではなくなっていのだ。 主治医からは健康維持のため

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【追悼:山本弘さん】ぼくが世界でいちばん好きでいちばん嫌いな作家、山本弘とは何者だったのか。(第二回:小説作品編前編)

【『サイバーナイト』の思い出】 この記事は、亡くなった作家の山本弘さんを追悼した記事の第二弾である。  しかし、第一弾とはほぼ独立した内容になっているので、ここから読んでいただいてもかまわない。  それでも気になる方は前回の記事も読んでみてほしい。かなり長いけれど、そこそこ好評だったようだ。  前回は山本さんのネットでの一面を取り上げて、それで気力が尽きて終わってしまったので、今回はかれの小説作品を取り上げよう。  前回も書いたが、ぼくはかれの長編作品はほとんど読んで

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自分の小説が今まで読まれた頁数を確認してみた 『安定を重視して就職したつもりの会社が・・・ブラックな地球防衛隊?だった件』

今まで書いた小説で、Kindle出版した物語は1つだけ。 とはいうものの、長編なので全10冊。   Amazonから久し振りに、振込み通知のメールが来た。 売上は全て Kindle Unlimited。 今まであまり気にもしなかったが、どれくらい読まれたのかを確認してみた。 (全記録を見る方法を初めて知った)   同じ小説が無料で読める「小説家になろう」のアクセス数(購読数)は、桁違いに多い。   「小説家になろう」へ連載を始めたのは2019年末から。 KDPと期間は異

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平和を願うテロリスト

桜舞う躍動の季節。 草木は生い茂り、水の流れが耳を刺激する。 太陽の陽が大地を照らす。 俺には家族がいる。 愛する妻と子どもたち。 豊かな生活とはいえないが、小さな幸せを抱きしめる日々を過ごしていた。 美人の妻と無邪気な子どもたちに囲まれて暮らすのが夢だった。 そう、あの日がくるまでは。 食料を調達するために出稼ぎに出た俺は、 隣町の知り合いの家に宿を借りることにした。 昔ばなしが弾み、時間が過ぎるのを忘れ、深夜まで話し込んでしまった。 翌朝、食材の買い出しをして、足

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聖者の揺り籠(前編)

 エリス・如月は殺すな。生け捕りにしろ。  教官は命令の最後にそう付け加えた。それを聞いて教官の教えに人一倍素直に従ってきたグレンは初めて疑問を抱いた。  エリス・如月は世界を混沌に陥れ、破壊と死の風をもたらした魔女だとされている。ならば、これ以上世界に悪を成さないように速やかなる死を与えるべきでは。万一仕損じでもしたら、厄介なことになる。グレンは正直者だったために挙手をし、その旨を教官に直接ぶつけた。  教官は火のように顔を赤くして、グレンの頬を激しく打った。「愚か者が。貴

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『野菜大王』と『文具大王』最終章

ネロがくれたもの  放課後、防災無線が地域の方々へ児童の下校見守りをお願いしていた。康太も普段の道を下校していた。前にはサッカー部の先輩が女子に囲まれて歩いている。先輩はエースストライカーで勉強も学年でトップクラス、康太とは比べ物にならないヒーローだ。網に入ったサッカーボールを左の肩から下げて、右手でペン回しをしながら歩く姿は格好が良い。そんな平和な風景に、突然春風が襲い掛かった。クルクルと先輩の右手で回っていたシャープペンシルが風にあおられ地面に落ちてしまった。コロコロ転

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『野菜大王』と『文具大王』第7章・さよならネロ

前章までのあらすじ 食べ物を粗末に扱い不思議に星に囚われてきた康太はカンボジアの少年ネロと知り合う。ファームでピーマンを育てながら二人の友情が深まった時別れの時がやって来た。 さよならネロ プシュ―という音と共にドアが上に向かって開いた。それはまるで康太が普段使っている筆箱その物が大きくなり、窓が付いているようであった。 「康太は一両目に、ネロは二両目に乗車しなさい」鉛筆の化け物が指示をした。言われるままに康太とネロはそれぞれの車両に乗り込んだが、車内は自由に行き来出来る

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Philip K. Dick::アジャストメント ディック短篇傑作選【Memorandum, Reading impressions】

フィリップ・K・ディックの短編集。 読書感想文というより、どちらかと言えば読書記録。 「アジャストメント」 Adjustment Team  犬に召喚係をさせてはダメ 「ルーグ」 Roog  真実は吠える番犬しか知らない 「ウーブ身重く横たわる」 Beyond Lies the Wub  ウーブが憑依するのを知らないのは… 「にせもの」 Impostor  偽物はニセモノにも分からない 「くずれてしまえ」 Pay for the Printer 『創作とコ

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陽だまりに月

 ある日突然太陽が黒化した。熱は変わらず放射し続けるものの、光を放たなくなった。つまり、世界は闇に閉ざされた。電気の存在が辛うじて人間の文明の命を繋ぎ留めていたものの、資源の消費量は倍増したのだから、寿命としては確実に縮んだだろう。  そんな中、日本のある鉱山跡から発掘された石が、黒化した太陽の下では、太陽に代わるように眩い光を放つことが判明した。電気の代わりを務めることになったその石は太陽石と名付けられ、日本は勿論、世界へと輸出されるようになった。太陽石はなぜか日本からしか

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『野菜大王』と『文具大王』第5章・台風襲来

前章までのあらすじ 裁判にかけられ有罪となった康太は、ファームの師匠パプリカーンと出会った。厳しい農作業に耐える康太に比べてネロは成れたものだ。パプリカーンはネロに遣り過ぎたと教える。康太の為にならぬと言うのだ。日々ピーマンを育てる康太とネロの絆が深まる中、農作物にとって最大の敵がやって来る。 台風襲来  きっかけは、住所の交換であった。お互いの住所を交換したが紙に書かれた言葉は互いに読む事は出来なかったのだ。「康太! 僕に日本語を教えてくれないか」  ネロの希望で康太は

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我が町のSF小説(間宮改衣の「ここはすべての夜明けまえ」に寄せて)

 ちょっと変わった読み味の本に出会いました。  それが、今作でデビューとなる間宮改衣さんの「ここはすべての夜明けまえ」という本で、第11 回ハヤカワSFコンテストの特別賞を受賞した作品です。  二一二三年十月一日ここは九州地方の山おくもうだれもいない場所、いまからわたしがはなすのは、わたしのかぞくの話です。  身体が老化しなくなる手術を受けた「わたし」が、今から100年ほど経った世界で、いなくなった家族について手記(家族史)を書き始めることからこの本は始まります。  

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『野菜大王』と『文具大王』第4章・パプリカーン

パプリカーンとの出逢い  前章までのあらすじ 食べ物を粗末にして大王の星に連れてこられた康太は、牢獄の中でカンボジアの少年ネロと友達になる。ネロは鉛筆を万引きして文具大王に摑まったのだ。そして、ふたりの大王裁判が始まった。 裁判の結果、康太は有罪となりファーム行きを命ぜられる。一方ネロは無罪になったが、自分も康太と一緒にファームへ行くと大王に頼み込む。 ふたりを乗せたかぼちゃの飛行船はファームに降り立った。そこで待っていたのは…… 農業の厳しさを知る康太 康太達が外に出

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物語ドロップス ―無意識革命―

あれ?スマホがない。 ついさっきまで手に持っていたのに。 台所に置いてしまっただろうか。 それともトイレに持ち込んだまま置いてきたか。 あるいは...... 1分後、スマホは僕の左ポケットから発見された。 こんなにも近くにあったとは、灯台下暗しとはまさにこのことだ。 無意識のうちにスマホをポケットに滑り込ませていたのだろう。 こういうことはよくある。 物を失くすときはだいたい気づかぬうちにどこかに置いて行ってしまうものだし、癖なんかもその類に入ると思う。 僕は整理整頓が好

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『野菜大王』と『文具大王』第8章・大王の正体

 パプリカーンは野菜大王と向かい合って座っていた。 「台風まで起こしたらしいな。そこまでやる必要があったのであろうか?」野菜大王は言った。 「山村康太に対する教育だけでは必要なかったでしょうな」 「ならば何故?」 「康太とネロの絆を深めたかったのです」 「なるほど」 「野菜大王、なにをお惚けです。大王は既に見抜いておいででしょう。ですからお互いの街を見せて帰すようにガジャジャにご指示なさったと私は思っておりますぞ」 「さすが王国一の指導者と言われるパプリカーン先生じゃ。しかし

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第一次家庭大戦

 昨晩夫と大喧嘩をした。結婚して十年。これまでにないような激戦だった。第一次世界大戦と言っていい。夫のキヨくんが日本なら、私はドイツだ。キヨくんの強引かつ電光石火の攻め手の前に、私は私の南洋諸島や青島を放棄せざるを得なかった。屈辱的な敗戦と言える。  そもそもの戦争の発端は、キヨくんが右手を高性能ロボットアームに替える契約を勝手に結んできてしまったことにある。 「バカなんじゃないの? この値段。高級外車が余裕で買えるよね。こんなお金ウチのどこにあるのよ」  私はキヨくんが浮か

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