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6月が始まるまえに #非同期テック部 が放ったもの

2020年5月31日夜8時16分。

の予定だったけれど少しだけ遅れて、俳優のムロツヨシさん、ライゾマティクスの真鍋大度さん、ヨーロッパ企画の上田誠さんによる部活動「非同期テック部」の生演劇「ムロツヨシショー、再び」がYouTubeライブで配信された。

非同期テック部は、緊急事態宣言が発出された2020年4月7日、あるはずだったいろいろな予定が消えてしまったことを機に発足した(と思われる)。

今回の作品は5月5日にインスタライブで配信された第一回目のムロツヨシショーの続編とも言えるもので、第一回目の作品であらゆる電子端末の中に現れたパラレルワールドのさまざまなムロさんが、今度はムロさんのお宅に実際に集結する世界の話だった。あつ森ならぬ、あつムロ。

同一空間に同一人物が同時に何人も現れて、会話をする。(あとなんかおうち自体が大変なことになったりもする。)

非同期テック部のテックを担う真鍋さんと、一滴のテックを現実にぽとりと落として物語を錬る上田さんが咲かせた、生々しいSF。



前の日の夜にたまたま観た歌番組で、アイドルグループのメンバーがひとりずつパフォーマンスをし、その映像の合成でいつもどおりのパフォーマンスの画を作るというのをやっていた。どんな角度映されても、言われなければ気づかないくらい自然な映像だった。その映像の隅には、ライゾマティクスとのコラボレーションだと書かれていた。

人と人との身体的距離をとらなければならない今、お芝居に比べれば歌番組は比較的作りやすいのかもしれない。それでも集団パフォーマンスは難しい。これはどうしたら楽しく解決できるかなと考えたとき、同時刻に同じ場所にいない人どうしをあたかも一緒にいるように見せるそのテクノロジーが生まれたのではないかと思う(あくまで私の憶測です。別の用途発の既存技術だったらごめんなさい)。

「テクノロジー」というと大それたものと捉えられがちだけれど、その起点はいつだって、誰かによる目の前の課題解決だ。

エジソンだって、ある日突拍子もなく「電気を作ろう!」と思い立ったのではない。持続性に問題のあるライトが既にいくつも発明されていたから、克服すべき技術的課題を見出せたのだし、それが次世代の明かりになると信じたから、6000種ものフィラメントを試して最適な材料を開発するに至った。その前に長年取り組んでいたテレグラフの開発も、エジソンがもともとテレグラフのオペレータの仕事をしていたからこそ、「もっと便利にするにはどうしたらいいか」と、長きにわたり熱を込めて改良に勤しむことができたのだと思う。

5月31日のムロツヨシショーでは、"同時刻に同じ場所にいない人どうしをあたかも一緒にいるように見せる"という、今のこの事情だからこそ生まれたのかもしれないテクノロジーが、ひとりの俳優さんに適用された。それも設備が完璧に整ったスタジオやステージではなく、ムロさんのお宅で、生配信で。

本番当日になって、開演が危ぶまれるトラブルもあったようだ。「たまたまの成功はいらない。失敗の原因がほしい」というのが真鍋さんの非同期テック部での活動中の名言らしいけれど、原因不明のトラブルを解決することができなくて、延期の可能性が70%を超えた瞬間もあったという。それでも、5月31日にやる意味があるからと、ムロ部長が幕を上げる決断をなさった。

そして、ミュージカル「ムロイオンキング」は開幕した。壁に貼られたその文字を見たとき「イオン?」と思ったが違った。ライオンキングだった。あつ森にライオンキング。説明は極めて難しいので、本番の録画が公開されたら観て確認してください。



ムロツヨシさんは、かれこれ1ヶ月と3週間、毎日Instagramでライブ配信をやられている。いつしか定着した毎朝8時16分からの「インのスタのライブ」(とムロさんが呼んでいる)では、非同期テック部の活動進捗報告もさることながら、締めに医療、介護、販売、その他外に出て働いている職業の方へ感謝の言葉が贈られるのがお決まりになっている。子育て中の親御さんへの応援も添えて。

「ムロイオンキング」のキーフレーズは、本家ではひとりで叫ばれる
「心配ないさーーー」
ではなく、観客を巻き込んでみんなで呟く
「心配なくはないけどさ」
だった。決して光が見えているとは言えない日々。それでも一歩ずつ前に進めていこうよって、ひとりひとりをあったかく照らすエールみたいだった。

毎朝の感謝や応援の言葉は、本当に心の底から伝えたいことだったんだと思った。

今だから作れるものがある。今、届けたいから届ける。ふだん第一線を亜光速で駆け抜けるプロフェッショナルな方たちが技術を持ち寄り力を合わせた大人の部活動の作品は、ほとんど祈りのようだった。ショーのラスト、エンドロールを映すためにスマートフォンの画面をカメラに向けながら小さく震えていたムロさんの手を、忘れたくないなと思った。



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非同期テック部の表舞台の活動は、ショーの発表だけではありません。アフタートークも含めての部活動なのだそうです。「メイキング公開しますから、どうぞ真似してください」というホスピタリティ。「真似できるものならやってみてほしいですけどね」という副部長・真鍋さんからの果たし状。

↓↓ 6月8日編集 ↓↓

6月4日(木)の夜、アフタートークが開催されました。

連続して、アナログ俳優部にスポットを当てたスピンオフ回。この文章の2行目の「少し遅れて」の時間のことがとても詳しく明かされたのでした。


↓↓ 6月11日編集 ↓↓
副部長・上田誠さんによるあの日の日記が公開されました。




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