「A little dough」 第４章　支出して生活する　🅂22　教育にかけるお金

　住宅にかけるお金は何らかの形で一生涯負担するものですが、教育資金は期間限定的なものです。そもそも子育てそのものが人生のオプションと考えるなら用意する必要がない場合もあります。しかし仮に子育てを熱望していなかったとしても、実際に子育てをしてみると、その魅力にすっかり憑りつかれてしまうようなことが起こります。
　私は二人の子供がいますが、生まれた時から愛情溢れんばかりに振る舞う母親の気持ちはなかなか理解できませんでした。しかし１か月、半年、１年と時間の経過に伴い表情が豊かになり、こんな父親であっても100％の絶対的信頼を寄せてくれるあどけない姿を目の当たりにすると、何としてもこの子を素直な良い子に育てなければならない、と漠然とした強い思いに駆られるようになりました。
　かくして、教育費は家計の重要な予算として認識され、パートナーと異なる価値観をすり合わせながら、ひとつの道を選択していくことになります。

➤どんな風に育ってほしいのか
　長女の幼稚園の面接に際して、幼稚園を選んだ理由と教育方針についてレポート用紙に１枚程度書かされた記憶があります。実は詳細は殆ど忘れてしまいましたが、結局のところ親が何を意図しようが、子供は親の価値観というフィルターを通して世界を見ているところがあります。良いことも悪いことも親の行動を真似ることで、日々多くの情報を吸収しているのです。そうした意味を踏まえて「親が正しい行動をすることで、子供に手本を示していきたい」といった主旨のこと記載したように思います。よく言われるように、「子供は親の背中を見て育つ」ということかもしれません。いずれにせよ、親がそうした自覚を持ち、幼い頃には時間を充分に共有し、成長と共に一定の距離感を保ちながら見守ることができれば、子供はすくすくと育っていくような気がします。

►例えば「教育方針」といった言葉をWEBで調べると、家庭においてなすべき教育についていろいろと書かれています。以下のようなものです。
・物事の善悪など倫理や道徳的な価値観を正しく伝える
・子供の個性を尊重し、自己肯定感を育成する
・好奇心や探求心を刺激し、学習行動の基礎を身に着ける
・家庭内でのコミュニケーションや豊かな感情表現を心がける
・日常生活の中で責任と自己管理の大切さを教え、計画能力を育む
・家庭内で共感を協力に結びつける力を育てる
・夢や目標を持つことの大切さを伝える

►また一方で「教育に関するNG」について調べてみると、以下のようなものがあげられています。
・体罰や暴力
・否定的な言葉や子供同士の比較
・過保護
・感情の無視
・趣味や活動の強制（親の意思の押し付け）
・恐怖や脅し
・性差別や偏見
・無理な期待や過度な要求　など

　いずれも一通り眺めてみると、なるほどと思うものばかりですが、実際の世の中では上段に記載した教育方針は度々無視され、結果的に下段のNGが連発されるようなことが起きてしまいます。こうしたことが起きてしまう理由はいろいろと考えられますが、そこに共通しているのは、私たちの「親としての未熟さ」ではないかと思います。

➤親となって未熟さを知る
　当たり前の話ですが、私たちは育てる子供がいて初めて親となります。子供の頃から様々な形で「子供から見た親の情報」を持っている訳ですが、これらの情報は「親としての適切な情報」になるとは限りません。むしろ偏向性が強く、極端な対応に繋がる可能性も高いと考えておく必要があります。例えば、厳しい躾を受けた子供が親になると、過度に自由放任になってしまうといったことが考えられるからです。
　また「大人になること」という教育の結果を正しく理解していたとしても、そこに導く過程で「どう伝え理解させるか」という点では、全くの素人であることを自覚すべきです。そうした「自分自身の能力や行動を客観的に観察すること」つまり「メタ認知におけるモニタリング活動」を通して、まず「初めての親としての自分」を知る努力をする必要があると思います。
　「未熟な親」としての自覚が持てるようになると、子供の為に「あれをしよう、これをしよう」といった親としての役割を、やみくもに果たそうとすることもなくなると思います。子供には子供の人生がある訳ですが、私たちも自身のライフデザインをしっかりと描けているとは限りません。そのくらい進むべき方向とは不明瞭ですし、朧げに見えてくるのにも時間がかかるものです。
　また、急ぐ必要も全くありません。もし突出した才能があれば、その結果は嫌というほど見せつけられるもので、結果として親も腹が決まるのです。３歳の子供にピアノのおもちゃを与えるのはいいと思いますが、興味を示さない子にピアノのレッスンを行うのは酷というものです。
　親になると日々やるべきことはたくさんあります。ただそうした日常においても、子供たちが具体的に何に興味を持ち、その時どんな行動をとるのかという、子供の視点を「ゆっくりと時間をかけて知る」ことが、初めての親の仕事として一番大事だと思います。