「A little dough」 第２章　プランを考えてみる　🅂8

➤会計の世界のルール
　前回はファインナンシャルプランのベースになる、ライフ・イベント表とキャッシュ・フロー表、それにストック明細表の概観を見ていただきました。家計管理というと大袈裟ですが、自己資金をコントロールするためには、多少の知識（金融リテラシー）と時間（手間）が必要です。だからといって前にも書きましたが、私などは年に１回家計簿の集約版をつけるだけですので、あまり面倒なことはしていません。最近ではちょっとお金をだせば、スマホの家計簿アプリがなんでもやってくれそうです。そういった便利グッズを使って手間を省くのも一考ですが、それでも最低限の知識は必要です。特に人生は長いので、その間のファイナンシャル・プランも長期的な視点で把握していく必要があります。専門用語は要りませんが、インとアウト、フローとストックといったお金の動き、あるいは状態を把握するための知識はある程度持っておきたいところです。

➤恐るべし！複式簿記
　簿記用語が出てくるだけで嫌がる方もいらっしゃいますが、複式簿記は中世イタリアの商業都市から始まって、現在まで脈々と使われつでけているわけですから、これはタブン物凄い発明なんだろうと思います。私も財務を何年かやっている間に、簿記三級入門といった類の本を読んだだけですが、これを考えた人（達）の偉大さに感心しました。ここで詳細には触れませんが、バランスシートの意味と損益計算書との関係について、少しだけ説明しておきたいと思います。

➤BS（貸借対照表）とPL（損益計算書）
　企業会計におけるBS（貸借対照表）は、左側に資産の内容、そして右側に負債と資本の内容が書かれています。つまり「左側は企業の所有する資産目録」です。そして「右側は、その資産を持つ為にどの様に資金を調達しているか、という説明」をしています。負債は他人のお金ですが、資本は自分のお金です。資本金（出資金）は他人のお金のようですが、会社としての返済義務はありませんから自分のお金として扱います。そして、この資本の中に「剰余金（過去からの利益の蓄積）」というものが含まれていますが、この中にＰＬの最下段の「当期利益」も含まれている、ということになります。

　一方PL(損益計算書）は、一定期間の収支を記録したものですが、キャッシュ・フロー表が現金の受け渡しベースで取引を把握するのに対し、PLでは契約などが成立した時点で取引を把握します。これを企業会計では「発生主義」と呼んでいますが、個人レベルでは厳密な区分は必要ないと思いますのでキャッシュフロー表を使うのが一般的です。

　言葉だけではわかりにくいので、個人のバランスシートを例示して説明してみます。下はＡさんの年末のバランスシートです。Ａさんは共稼ぎで毎年の収入は下の損益計算書に記載のように年15百万円、教育費や生活費を差し引くと収支は年５百万円ほどです。Ａさんはこれを定期預金で貯蓄しています。損益計算書の「今年度収支」は矢印で示したように、バランスシートの「資本→剰余金→うち今年度収支」の欄に転記されています。一方でそのお金は定期預金にしていますから「流動資産→預金」の欄の30百万円に含まれていることになります。Ａさんは前年末と比べて預金は５百万増え、これを自分の労働で調達した、ということになります。

　次にＡさんはが40百万円の住宅購入をしたとします。これが下の表です。先ほどの状態から、自己資金20百万円と住宅ローン20百万円で資金調達しました。資産の欄は、「流動資産→預金」が10百万円になり20百万円減少し、一方で購入した住宅の価格分「固定資産→不動産」が40百万増加しています。購入資金の不足分20百万円は、「負債→住宅ローン」が増加しました。

➤左側が「アクション・プラン」右側が「ファイナンシャル・プラン」
　バランスシートを想定すると、このように資産を持つということは、一方でそのための資金が必要になる、ということがわかります。左側全体（資産サイド）を増やすには、その分右側全体（調達サイド）を増やす。これは「何らかの行動を起こすことによって、資金の必要性が出てくる」というファイナンシャル・プランの原則と基本的に一致します。私たちのライフ・デザインをバランスシートに例えると、意思決定や行動などによるアクションプランが左側にあたり、それを支えてくれるのが右側＝ファイナンシャル・プラン、と考えるとわかりやすいかもしれません。

　いずれにしても、このバランスシートは私たちのファンナンシャル・プランの状況を把握するためにはとても便利なツールです。興味のある方は、ぜひ一度、会計の本にも目を通してみてください。