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🅂19 異次元のレバレッジ率

「A little dough」 第4章 支出して生活する 🅂19 住まいにかけるお金

 現代に生きる私たちが「生活する」ためには様々なものが必要です。一人暮らしを始める時を想像していただければわかりますが、まずは住む家、家具や電化製品、電気・水道・ガス、そして空っぽの冷蔵庫に電源が入り食料とビールを入れてやっと一息付ける?と思ったりします。その始まりは住むところであり、私たちはこれが決まらないと何とも落ち着きようがないことだけは確かなようです。

➤借りるにしても買うにしても…
 とにかくなかなか面倒なのが「住居の選択」です。昔から「購入vs賃貸」などと特集記事が良く組まれていますが、シンプルに考えれば「家」とは「土地と家屋」です。そして土地は劣化しない資産で、一方木造の「家屋」はほぼ30年で不動産としての価値は「0」になる減価資産です。こうした異なる金銭価値を持った資産を一纏めにして、買うか借りるかという二者択一を迫られても、なかなか判断しがたいものがあります。実際こうした選択について、その金銭的価値からの損得を理路整然と説明されても、なんだか釈然としないものが残ってしまいます。
 もしそんな感覚を体験してみたいという方には、その昔「海外投資を楽しむ会」という会が出版した「ゴミ投資家のための人生設計入門」という本をお勧めします。同シリーズでは各方面の金融投資関係の書籍が出版されていましたので、ご存じの方も多いかと思います。この書籍には、賃貸であれ購入であれ、金銭的な面のみに注目すれば基本的な条件はほぼ一緒だということが順を追って、かつやや過激に説明されいます。興味のある方には一見の価値があると思います。

➤異次元⁉のレバレッジ率
 
この書籍でも指摘されていますが、仮に住宅購入を検討すると考えた場合、最大の問題点は「多額の住宅ローン」にあると思います。ファイナンスという視点で捉えると、この住宅ローンはある意味「異次元の存在」なのです。これを理解するためには、まずレバレッジ効果について正しく理解しておく必要があります。

レバレッジ効果
 
レバレッジ効果とは「てこの原理」のことを指しますが、例えば株式の信用取引などでは、30%の委託保証金を差し入れることで売買が可能になります。つまり30万円差し入れれば、100万円までの株式売買が可能になる訳です。これを使って100万円が120万円になった場合は20%の値上がりですが、元手は30万円ですから(20万円÷30万円)で+66%の効果があったことになります。逆にリターンが▲20万円だった場合は、投資額100万円に対しては▲20%ですが、元手の30万円に対しては▲66%となります。このケースでは、±20%→±66%ですから、レバレッジ率は3.3倍になります。
 レバレッジの倍率をあげると、ハイリスク・ハイリターンの典型的な投資手法になるということが理解できると思います。更にこの住宅ローンには、頭金なしの「フルローン」というものも存在しています。頭金がなくとも年収やその安定度からそうした契約がありうることは理解できますが、レバレッジ率からするとこれは「無限大」ということになってしまい、それが異次元!?と記載した理由です。

レバレッジ率を下げる 
 尤もレバレッジをかけて「購入する」のは住宅であって株式ではありません。「投資目的で購入するのではないから大丈夫」と考えがちですが、住宅には「土地」が含まれており、これには相場があり価格は変動します。1980年代後半のバブル景気のあと東京都の住宅地の平均公示価格は平米辺り80万円近くあったものが、半分以下の30万円台にまで下落しています。こうした状況下において病気やリストラなどの理由で返済ができなくなると、資産を売却しても残債を完済できないため、結果的に自己破産者が急増するという事態を生み出します。
 現実的な手法として住宅ローンは必要なものだと思います。ただ不動産価格の上昇に伴い借入額が年収の7倍~10倍という水準になっています。それでも頭金を2~3割程度用意できていれば良いのですが、そうした貯蓄の実績もない人の場合は、特にリスクは大きいと考えるべきです。
 一定の頭金を用意する(=レバレッジ率を下げる)ことは、住宅ローン借り入れのための導入ステップとしても機能しています。家賃の支払いや教育費の準備をしながら、頭金のための貯蓄を行うわけですから、一定の期間の質素な生活が必要になります。5千万円の住宅を買うために、10百万円の頭金(20%)を貯蓄する助走期間があれば、スムーズに住宅ローンの返済に移行できる可能性も格段に高くなります。「単なる損得以上にリスクをしっかりと意識し対処することが重要」であり、これについては第三章の自己管理能力のセクションでも記載しています。

➤多額の借り入れとメンタル
 実際こうした借り入れを行う際にあまり考慮されないのが自分自身や家族に対する将来の心理的なリスクです。購入当初は新しい住まいの満足度が高く精神的にも充実しますが、「地位財(※注1)」が与える満足感は陳腐化しやすく、やがて些細な問題点がボディブローのように効いてきます。
 まず住居費用が増加することで今まで以上に他の生活費の圧縮を迫られるため、倹約中心の生活になりがちです。その結果個人的な趣味やスポーツ、家族や友人とのコミュニケーション費用などの非地位財の削減を余儀なくされ、家族全員の生活満足度が次第に低下していきます。地位財である住宅購入の満足感が一巡すると、不満が徐々に表面化するようになり、家族全体にストレスがたまり、幸福度は著しく落ちてしまう可能性があります。
 序章のコラムで記載した映画「億男」には、住宅ローンではありませんが兄の連帯保証人になり3千万円の借金を背負ってしまった男性が描かれています。彼は懸命にこれを返済しようと頑張りますが、どんなに真面目に借金を返済していても、それだけで家族が納得できるわけではありませんし、幸福にもなれないのです。重要なことは家族を繋ぐ「非地位財(※注2)」に回す資金を用意できるかどうかにあるようです。どんな時であれ、「人生を楽しむ」という心を置き去りにしないことが、私たちの日々の充実感に繋がっています。この映画では「娘のバレェ」が非地位財として扱われています。

(※注1)地位財:他人との比較優位によって価値の生まれるもの。具体的には、 所得・社会的地位・車・家・高級ブランド品など。
(※注2)非地位財:他人との比較に関係なくそれ自体に主観的な価値を感じているもの。具体的には、休暇・愛情・健康・自由・自主性・社会への帰属意識・良質な環境など。

 

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