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数ではなく地域の「宝物」を1つ創り出す

前回は「ロケツーリズム」を起点に、地域の魅力を発信し、観光客の増加や地域経済の活性化を図れるのかを考えました。地域側から見るとせっかくロケを誘致できてもそこから通じて生まれるコンテンツ(内容)について深く関与したり、そのヒットに大きく貢献することは難しいというのが実態であると思います。そのため、確率論的に「数」が必要となり、その誘致のための継続的な投資が必要になります。しかしそれは恵まれた観光資源を持たない多くの地域にとっては、合理的な選択肢とはなり得ません。

実は、現在いわゆる「聖地」として盛り上がる地域は、ロケ誘致を積極的に行ってきた訳ではなく、コンテンツ制作側が自らその場所を気に入って、そこを舞台として撮影・制作を行い、ヒットした場所であるという事例の方が多数を占めます。昭和を代表する実写映画の1つ「幸福の黄色いハンカチ」の夕張市も、現在もヒットが続くアニメ「ガールズ&パンツァー」の大洗市も、舞台に選ばれたきっかけはロケ誘致によるものではないのです。

「でも、そんな偶然を待っていてはいつまで経っても舞台には選ばれないし、地域の魅力を発信できないではないか」という声が聞こえてきそうです。そんな疑問への答えの1つが「地域自ら、自分たちの魅力を発信するコンテンツを作ってしまう」というものなのです。とはいえ、そこには落とし穴(注意点)もあるのですが、まずは2つほど事例をご紹介したいと思います。

1つめはアニメの事例です。富山県南砺市に本社を置くアニメスタジオP.A.Works(ピーエーワークス)が2013年に制作したご当地アニメ「恋旅」です。

南砺市を中心とした観光スポットを舞台としたショートアニメ作品ですが、専用のアプリを用いて「その場所」に行かないと全編を見ることができないという仕掛けになっています。自治体が自ら企画・製作した作品ですが、「地域に物語性をどうインストールするか」という課題に対して、ストレートな答えを示した事例とも言えるでしょう。

2つめの事例は観光スポットではなく、地域の伝統やそこから生まれる「誇り」(シビックプライド)に焦点をあわせた実写映画。こちらはYouTubeで全編(約23分)が視聴可能です。

物語の舞台となった高岡市は銅器をはじめとした鋳物製造が江戸時代から盛んでしたが、近年は家庭での銅製品の需要が減り、売上の低迷や職人の高齢化に悩んでいます。そんな中、若手職人が中心となってマンガやアニメキャラクターの銅像を各地に収めるなど新しい市場の開拓に取り組んでいます。上記の記事で取り上げた境港の「ゲゲゲの鬼太郎」や妖怪たちの銅像も、実はここ高岡で製造されたものです。

この映画はそんな若手職人たちが集う高岡伝統産業青年会が積立金を取り崩し地元企業の協賛を得ながら、わずか5日間で撮影されたものです。しかしご覧頂くとお分かり頂けるように、過不足なく高岡の抱える問題とそれを解決しようとする人々の姿が描かれています。実話をもとにした物語であることも相まってエンディングで河原を歩く青年たちの背中には、強い連帯感や伝統工芸を担っていこうという誇りが強く感じられるのです。ロケ地に選ばれるのを待つのではなく、自分たちが暮らす場所の姿と物語を自ら紡ぎ出したと言えるでしょう。(画像は青年会ホームページより)

そして、この作品は「地域自らコンテンツを創り出す」際の落とし穴もうまく回避しています。制作の経緯を取材したところ、起点となったのは青年会の招きで講演を行った武蔵野美術大学教授で映像作家の菱川勢一氏の発案であったといいます。制作には菱川氏の研究室の学生が富山大学の学生と連携しながらあたっています。地域の魅力を描き出すことに軸足がありつつも、常に「外部からの目線」でそれが行われていたというわけです。地域の人々「だけ」でこの作業で行うと、得てして独りよがりであったり、他所から見たときにその魅力が伝わらないメッセージになりがちなのですが、地域の外の価値基準でコンテンツが設計されることの重要性をこの映画は同時に示してくれているように思えます。地域の人だけでなく、外からこの地を眺める人々にとっても、宝物となり得る何かをまずは1つ創り出す、そういったアプローチにわたしは可能性を感じるのです。


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