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コロナ禍が進めた関係人口のオンライン化

前回「物語がつなぐ緩やかな紐帯=関係人口」の続きです。扉画像は総務省『関係人口』ポータルサイト からの引用。

複業とコロナ禍が増やすオンラインの「風の人」

地方創生の議論に際、地域外からやってくる「よそもの」を風の人、長く地域に暮す人々を土の人と呼ぶ事があります(参考記事)。ここでいう風の人=よそもの、とは観光でやってくる、おもてなしの対象である交流人口ではなく、地域と時には衝突も生みながらなんらかの関係を結ぼうとする人々=関係人口であると言えます。

こちらの藤代さんのコラムが寄稿されたのが2014年。すでにこの風の人がモノではなくコトを通じて、しかもソーシャルメディアでつながる(だから外部からは見えにくい)動きが紹介されていました。

その後、働き方改革の流れを受け大手企業を中心に複業を容認・奨励する動きが本格化していきます。そこに長きにわたるコロナ禍が訪れテレワーク=オンラインでの新しい働き方が推奨されるようになりました。以前、この日経COMEMOへの寄稿でも、複業が認められたドワンゴでマッチングサイトを用いて地方企業のウェブ構築を担っている方の事例を紹介しています。

地域においても今後は移住・定住を入り口とするのではなく、オンラインで緩やかに繋がる都市部の人材との関係構築の巧拙が問われることになります。そこでキーワードになるのが「プラットフォーム」です。

複数の汎用SNSを「関係人口プラットフォーム」化できるか?

プラットフォームは、電車の駅をイメージして頂ければ分かるように、人と人が行き交い、電車を乗り換えたり、乗り継いだりする場です。地方創生の文脈では地域に物理的に、あるいはオンラインでバーチャルに訪れる「風の人」とその地に暮す「土の人」が交わる場となります。

コロナ禍以前は、その土地のことをソーシャルメディアやSNSで認知したあとは、実際にその土地を訪れ共に作業をしたり、お祭りなどのイベントに参加するといったリアル空間での協働が関係人口の活動の中心であり、外部から見たときも可視化されやすいものでした。

しかし、オンラインマッチングで繋がった後も、打ち合わせや作業、そして成果物のお披露目さえもオンラインでほとんどの部分が完結することも珍しくなった今、SNSはコミュニケーションの本丸になってきており、「Instagramで写真が沢山シェアされたら良い」といった単なる認知獲得メディアといった位置づけではなくなっています。

一方で、以前やはりCOMEMOに書いたように地域内での交流を目的とした独自のSNSを運用するという取り組みは既に下火になっています。

Twitter・Facebookなどの汎用SNSを活用した上で、協働の取り組みを遠隔地ともSlackのようなグループウェアで行うという、いわば関係人口のDX・プラットフォーム化が欠かせなくなっていると地域にいると実感します。それなしでは、かつてと違い学費を稼ぐためのバイトや早期化する就職活動で忙しい大学生や、可処分所得も時間も小さくなってしまった若手の社会人は、地域活性化の取り組みに参加できる余地は現実的にほとんどないのが現状なのです。

では既存・汎用のSNSやグループウェアをどのように組み合わせるのか? 実際にわたしが学生と企画・運営している阿賀北ノベルジャムでは以下の図のような組み合わせで、全体としてみればプラットフォームとして機能する方向を目指しています。

筆者作成

図は縦に下に降りるほどコミットメントは高くなりますが、それに反比例してそこでの情報の拡散は図りにくくなります。そして当然ながら、コミットメントの高いコミュニティになるほど、そこに参加する人数は減っていきます。

Twitterは比較的若いユーザーも利用し、拡散力には優れるものの、TL上のインプレッションやエンゲージメントを得るのは色々と工夫と努力が必要です。著名人を招いた大きなイベントの告知や実況などを起点にフォロワーを得て、日々の活動をログしつつ、それらを広く知ってもらう可能性を残しておくといった活用が現実的でしょう。またここで得たフォロワーは必ずしも移ろいやすく、必ずしもコミットメントは高くないため、まさに「緩やかに繋がる」関係となります。

その先にあるFacebookは、若いユーザーが日常的に用いているSNSではありませんが、一方で地域の重要なステークホルダー、要は「おじさん」たちが積極的に活用しています。その空間に若者の取り組みを紹介し続けることは地域との関係構築に欠かせない、というのが3年間地域でプロジェクトを回してきた実感です。Facebookは比較的安価にターゲティング広告が打てますので、例えば「小説に興味のある新潟在住の10代~20代」といった告知で、イベントへの集客に繋がったこともありました。

そして最後に実際に「仕事」を回す場としてのSlackがあります。ここに参加するのはプロジェクトにコミットしてくれるメンバーですので、人数は非常に小さくなりますし、そこでの情報を拡散するというものではありません。重要なのは一連のプロセスが全体としてプラットフォームになっており、例えば「いまは本業が忙しいからSlackは抜けるけれども、Facebookでは繋がって最新の動向はフォローし続ける。また余裕が出てきて、手伝えそうなトピックが出てきたら復帰する」といった、人の出入り/行き交いがオンラインで実現できる、という点です。

従来の対面・膝詰め・飲み会ベースの関係構築はもちろんコミットメントは非常に高くなるのですが、時間的・金銭的余裕に乏しい若者にとっては「重すぎる」、そして都市部と地域をつなぐにもやはり「コストが高すぎる」のがネックです。オンラインでの一般的なメディア・ツールを組み合わせることで従来とは異なる「風の人」との関係構築を探る動きが各地域で拡がっていくことに期待しています。

※この記事は日経媒体で配信するニュースをキュレーションするCOMEMOキーオピニオンリーダー(KOL)契約のもと寄稿しており日経各誌の記事も紹介します。詳しくはこちらをご参照ください。

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