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写欲と生存本能(後編)

オーロラの撮影に話を戻そう。

これはグリーンランドまで来て延々と悪天候で、一枚もオーロラが撮れないまま1週間が過ぎようとしていた時のことである。

場所も色々変えてみたがどこへ行っても天候が良くない。世界一晴天率の高い場所だと言ったのはだれだよ!!(当時のグリーンランド航空の代理店の社長だ^_^)

イルリサットでは氷の浮かぶ海に船で乗り出し巨大な氷山や鯨など撮影したが晴れ間は一瞬も訪れ無かった。
夜を待つ間イヌイットの家を訪ねてアザラシをご馳走になってみたり、(猛烈に血生臭い!)凍てつく大地や氷原に佇む事しばしば、、

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世界一晴天率の高かったはずのカンゲルルススアークでも、どんよりとした空の下でもがく日々。

「やるだけやったがしょうがない、俺の負けざまをみとけ」

ぐらい言ったその夜、
アシスタントが一台しかないプロトタイプのカメラをもって、極寒の原野に一人で向かってしまったのだ。

ホテルの僕の部屋のドアには「テスト撮影してきます」と張り紙が、、、

真冬のグリーンランドの、悪天候の夜である、、、
待機だと言っておいたのだが、彼の写欲は僕の指示を無視し、生存本能をも押さえ込んで出かけてしまった。

行く場所はおそらくあそこだ。

僕はすぐに装備を整え青ざめて追いかけた。

凍った河のほとりにポツンとアシスタントの姿が見えた。安堵と憤りが同時に湧いてくる。
じわじわと近寄りふんづかまえて、締め落とすギリギリでこう言った

「おれに堕とされるのと、ここで凍え死ぬのとどっちか選べ」

まあ、もちろんちゃんと連れて帰ってきたが、そんなもんだよなあとも思った。でも、これでこのアシスタントもバランスが取れるようになった筈である。

その日、天候はさらに悪化して翌朝帰国予定だったのだが飛行機は飛ばす、一泊延長、の、その夜に嘘見たいな見事なオーロラが現れ、無事撮影に成功した。

「ほら、生きてればチャンスが有るんだよ。」
  

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 自然相手の撮影には危険は付き物みたいなものだ。

まあだが、なにもかにも臆病になれということではない。大事なのはバランスなのだ。虎穴には入るが、虎に噛まれてはいけない。

虎でおもいだしたが、ビクトリアフォールズではもう一つ、初めての経験をした。
夜、滝のまえでルナレインボーを狙い、嵐の中で出もしない月を延々と待っていた時の事。

流石に雨風が強くなり、今日は帰ろうと荷物をまとめ、もと来た道を帰ることにした。道はジャングルのなかを通る細い一本道で、車のある所まではくねくねと10分ぐらいの場所だった。

かるく舗装されているので分からなくなる様なルートでは無い。無いのだが、帰ろうと振り返った先には道がなく、なにか戦車でも通ったように木々が倒れ折り重なり、ぐちゃぐちゃになっていた。

え、道は、どっちだっけ?
真っ暗闇の中で、頭が真っ白になる。
刹那、一緒にいたコーディネーターがガタガタ震えだす、

「南雲さん、ヤバイ、まぢ、ヤバイっす」

「道わかんなくなった?、え」

「いや道はそこです」

倒れた木々の下に、辛うじて道が見えていた、

「え。どういうこと?、いたずら?」

「カバです。ほんとヤバイ、申し訳ないですけど、これから一か八か全力で走って逃げます、あの木が倒れてるところをゆっくり抜けたら、ダッシュです。」

「まぢか、、」

「近くにいたら、アウトかもしれません、覚悟きめてください。最悪カメラはほん投げて、」

戦慄が走った、カバはあの見た目から想像がつかないほどじつは獰猛で、この辺の漁師の脚が無いのはカバに食われたからだと聞いていた」

カバは道を歩く事はなく、行きたい方向に木々をなぎたおしながら歩いていくのでこういう事が起きるのだという。
 
カバが通ったであろう場所は撮影ポイントからせいぜい10mあるかないかの距離だ、滝の爆音と雨風で全くカバが通り過ぎたのに気がつかなかったのだ。いや、へたに気がつかなくて良かったのかもしれない。

雨と。汗と。脂汗で身体がびしょびしょになり、寒いのか暑いのか感覚がわからなくなる。鳥肌が立ち、皮膚がビリビリと震える。

「行きましょう!」「わかった」

あたりを伺い、音を立てないように倒れた木々を超え、全力で暗闇のジャングルを走った。 
手も足も恐怖で痺れ、あまり感覚が無い。小さなライトの細々とした光が照らす道のわずかな反射、濡れた葉っぱ、小枝、そんな記憶が断片的にだけ目に焼き付いている。

「来るな、来るな、頼む。」

結局機材は持ったまま、なんとか投げ出す事もなく走りきった。ゲートまで3分程だったとおもうが、空撮の3倍は怖かった。

ゲートの扉を出て、反対側からガチャっとその扉を閉めるまでの間、本当に生きた心地がしなかった。。

これも。生存本能に強烈な刺激を与える出来事だった。

「いや、ほんと、やばかった。」

次の日の空撮は、これが免疫になって乗り切れたような気もする
そして考えてみれば、このロケがこの先に進む分岐点だったのかもしれない。

「生きててよかった。。」

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写欲と生存本能 完


自分の生命を感じる瞬間シリース

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↑凍ったバイカル湖にて、命は氷上のものと感じたり^_^


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↑ザキントスのジップレックビーチを望む300mの断崖絶壁のヘリにたってみたり。(空撮より怖い)

 

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↑ペットボトルの水8本持っていかないとダメと言われて地図のない灼熱の大地を歩き続けたり(しかも2日連続)2日続けてTHE WAVEに行った日本人って他にいるんだろうか(^^)

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