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ソイル氏は 第3話

彼女は窓にて

「懐いてるみたい」
彼女はそう言うが、何を見て懐いていると思うのだろうか。世辞か、あわよくばこの生き物の世話を押し付けようとしての発言ではあるまいな。
「全然わからないって顔だね。」
その通り。鏡を見なくともわかる。私は今まさに彼女の言うことが何を意味するのかわからないという顔をしているはずだ。だってそう思ったんだから。
私のトートロジーのような思考回路を全く気にしていないのか、例の生き物がこちらを見ている感じがする。例の生き物はどこか彼女に似ている気がする。
 待て。おかしい。私は私を支配していたある一つの事象に気がついた。

<例の生き物についてわかっていること>
・目に見えない
・位置を追える
・小さくて素早い
・音はしない
・<可愛い>らしい
・懐いているらしい
・どこか彼女に似ている気がする

例の生き物の存在に気がついたのは、彼女が私に気づかせてからだった。つまり、彼女が示唆しなければ気づかなかったに違いない。目に見えないし音も聞こえないのは、自分の知覚を通してそれを認識しているからじゃなくて、彼女の視線やしぐさや言葉を通してそれを追っているからではないか。小さくて素早いのは、必然的に彼女の視界に収まる大きさで、彼女が視線を素早く動かすからではないか。<可愛い>とか側から見て懐いているというのが理解できなかったのは、彼女の主観だからではないか。どこか彼女に似ている気がするのは、私がそれを自分では認識できず、彼女を通してのみ存在が分かるからではないか...