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☆ウイスキーと私☆ その捌 もし僕らの調査がウイスキーのためであったなら 編

こんばんは、A Whisky Studentです。
今回は、前々職時代に実施することがあった泥炭調査について書きます。
道東で8年間にわたりウイスキー製造に携わる前は、札幌の建設系のコンサル会社の環境部門で11年間働いておりました。当時の仕事は室内化学分析と屋外環境調査です。

室内化学分析では、滴定をはじめとした手分析と、各種クロマト・分光分析といった機器分析を行っており、酒造とは切っても切れない各種分析に直接的に活きる知識や経験に繋がりましたが、そのお話はまた別の機会に。

屋外環境調査では、河川や地下水、土壌が対象でした。調査地は現在過去未来の工事現場やその周辺地域で、市街地のみならず中には廃鉱山や田畑などにも行ったものです。

調査のなかで土を掘った結果として泥炭が出てくることもありましたし、そもそも泥炭について把握することが目的の調査もありました。泥炭調査では調査地内での2次元あるいは3次元の分布につなげるため、あるいは調査地点での泥炭の性状を知るため、掘削を行います。

私が経験した泥炭関係の現場では掘削の方法は4通りありました。
①重機によるピット掘削→農地沿いの大径管敷設のための調査で、V字型に2~5mくらいバックホウ掘削して、断面の層分布を確認しつつ途中と底部で人間がササッとサンプリングした記憶があります。
②ボーリングマシンによるコア掘削→10mあるいはそれ以上といったある程度の深さまで土層分布が確認でき、しかも掘削孔を地下水観測孔に仕立てることも可能なので、大きな工事のための事前調査から工事後のモニタリングも含めた計画のなかで実施されていたようです。
③簡易ボーリングによるコア掘削→土壌汚染調査の現場でそれ用の簡易ボーリングマシンを使用している際に泥炭が出てきたこともあります。それとは別の現場で、調査地における泥炭の2次元あるいは3次元の分布を把握することをもともとの目的として、ピートサンプラーと呼ばれる人力ボーリング器具で一定間隔で掘削点を決めて何十箇所も掘削したこともあります。人力の掘削は最大でも5m程度までですが、ピートサンプラーを抜き差しするのはかなりの重労働です。
④人力/スコップによる一定区画の掘削→ブロックサンプリングなどと呼ばれます。それなりにサンプルを確保または確認してもきれいに復旧できる特徴がある手法で、ほとんど表層のみのごく浅い部分だけで事足りる草地事業などの関係の調査だった気がします。タイトルの写真はこのブロックサンプリングによる調査状況です。浅いとはいえ、やはり人力での掘削ですのでこちらもかなりの重労働でございます。

人力の現場は掘削自体が重労働であるだけでなく、器具やサンプルの運搬や現場の復旧など自分たちで全部やらなければならないので、本当に大変なのでした。そんな大変な泥炭調査のときはよく思ったものです。『嗚呼、この泥炭がウイスキーに使われたらどんなに嬉しいだろう。もし僕らの調査がウイスキーのためであったなら 』と。

それから僕はそのことをすっかり忘れてしまっていた。
でもね、いいかい、2018年5月のある雨の日、はじめてほんとうに、僕はウイスキーのための泥炭調査をしたんだ。
北海道の東の、とある蒸溜所―—僕はすでに退職したけれど―—のウイスキーのためにね。
そのとき、僕の頬を雫がひとつ流れた。
それは降り始めた雨だったのかもしれないし、ピートサンプラーを地面から抜いた勢いで飛んできた飛沫(使ったことがある人ならみんな経験するだろう)かもしれないし、昔ながらの肉体労働の汗だったかもしれないし、感無量の涙だったのかもしれない。

完璧な雫は存在しない。完璧な涙が存在しないようにね。
やれやれ。僕はグラスに残ったウイスキーを飲み干した。

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