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ようかいに出会った。回想録

平日の東京で1人2000円を超えるスーパー銭湯はすいている。
雪の降る寒い日だったから快適に過ごせるだろうと、楽しみに出かけたんだ。

けれど、私はすっかりと忘れていた。

ジョウシキ人が出歩かない日は、

ようかいと出会う確率も高いことを。


ようかい

妖怪(ようかい)は、日本で伝承される民間信仰において、人間の理解を超える奇怪で異常な現象、あるいは、それらの現象を起こす不可思議な力を持ち科学で説明できない存在のことである。

wiki

子どもたちを連れてゆったりとお湯に浸かっていると、唐突に「ねぇねぇ」と声をかけられた。

カラコン、マツエク、アイライナー、キラキラのシャドー、ネイル、"マスク姿"。
もう一度確認するが、湯船の中である。

お風呂の中ではマスクの必要がない。
メイクも落とそうよと、私のジョウシキセンサーが反応する。

だからギョッとして見つめると
「間違えてマスクしてきちゃったわ」と彼女が笑った。
「間違えてマスクをしてきた」という意味に、私は安堵した。
少なくともこの人は、"お風呂の中ではマスクしない"ことを解っているんだ。


しかし大人しく湯船につかる同年代の女性たちとは雰囲気が違う。

贅肉がダルンと乗った皮膚は相応に年齢を重ねているけれど、顔だけとても若いのだ。

身体65歳、メイク19歳。

彼女は一方的な自己紹介と「若さの秘訣」を語り出した。

化粧水はつけないのよ
みて私の肌!シミひとつないわ
出てきてもターンオーバーで消えちゃうのよ
1番ダメなのはナイロンの身体を洗うタオル
私には40の子どもがいるのよ、65歳なの。
みえないでしょう?

ほら、マスクを取るから私の顔をみせてあげる...

ワタシ、キレイ?

ウフフ



銭湯という無防備な世界で、オンナである自己主張と自信の鎧を感じる。

永遠と続く鎧の話は、マスクによって雑音と同化していた。
そうか。話をしたいからマスクしたままお湯に浸かっていたのか。

「すごーい。」と雑音に対して相応のあいづちをしていたら、秘訣の粉で洗われることになってた。

秘訣の粉、コワイ。

こわい体験


銭湯で出会った65歳に、素手で全身を洗われるコワい体験をした。

お金を介せば、もしかしたらコワさが軽減できるだろうと思った。
だから粉を買おうとしたんだ。
「私は粉を売れないのよ」と、断られた。
コワイ。

こわがってるのが伝わったのか、それとも買えなかった事に対するお気持ちなのか、お持ち帰り用に粉をくれた。
コワイ。


「いい身体してるわねぇ」と言われながら洗われる。
コワイ。




「この粉はすごいから、泡のままお風呂に入っても水が汚れないのよ!だから入ってみて!大丈夫!」

コワすぎる。


銭湯での正しい過ごし方マニュアルを読破していたから泡まみれ入浴をお断りできて、私はえらかった。



私にとってのジョウシキは、誰かにとってのジョウシキではなかったりする。

イギリスのジョウシキは日本と違うし、隣の家のジョウシキは私の家のジョウシキではない。



ジョウシキって難しいから、マニュアルという名のお札を貼っておいてくれてありがとう。
お札に助けられた。

日本にはようかい封じのお札が至る所に貼ってある。
信心深い日本人は多いから、お札パワーは強力なんだ。

対処法

ようかいに出会った時にはどうすればよかったのか。
対処法を調べた。

べっこう飴や豆腐を与える
100円を投げつける
ニンニクやハゲ、犬が来たなどと言う
キレイ?と訊かれたら、ふつう。と答える。
褒め続ける

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地域によって色々なバリエーションがあるんだなぁ。他にもありそうだ。

相槌として唱えていた「すごい」という呪文は、正しい対処法である「褒める」に該当する。
同じようかいに出会って、もしも他の対処法を実践した人がいるならウケるなぁ。話を聞きたい。

「すごい」は汎用性のたかい魔法の言葉だ。
これからもどんどん使っていこう。


ようかいの近くに行かないことも大切だ。
妖怪ウォッチを持ってる友人がいるけれど、わたしと見えている世界が違うからびっくりするんだ。
彼女は街中で芸能人をみつけるのも長けている。
妖怪ウォッチを備えた人と行動すると、なにごともなく1日を終えることができるんだ。


私は妖怪ウォッチ持ってないけれど、無意識のうちに、わざと持っていないのかもしれない。
持ってしまったら、臆病なようかいは逃げてしまう。
おもしろくなくなっちゃう。

子どもの頃から妖怪の話は色々読んできて、好きなんだ。

でも実際はテレビや本、伝え聞いたりする距離感でコワがるのが楽しいよね。

観察

ようかいは面白いなぁと観察していたけれど、12歳の長女は気が気ではなかったらしい。

「お母さん、ヤバいのに絡まれてる...どうしよう」

不安そうに一瞥して遠くへ逃げてしまった。



ようかいになると人と世界が違って見えるから面白いのだろうか。
それとも、多数のジョウシキ人と対峙するために鎧が強固になるのだろうか。

わたしのジョウシキがあなたのジョウシキとかけ離れていませんように。

ようかいは あなたのそばにいるでウィス

おまけ

きっと今回の人は、粉を私に是非とも使って欲しかったんだ。

粉と彼女の美貌を多くの人に広めたかったのかもしれない。
難しいよね、知らない人にオススメするのは。

何かをオススメするときは、オススメしたい人のそばにそっと置いておくのがいい。
決して強制してはいけない。

例えばこのnoteの右下のハートみたいに。

読んでくれて、ありがとう。

ジョウシキとお札パワーが日本の秩序を守護して、あなたがいつもと変わらない1日を送れますように。

ポマードポマードポマード

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