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エレベーターの中、秘密の時間 (3)【終】

前回の続き、今回で終わりです。
前回同様に、R-18ですのでご了承ください。


会社を出る前に化粧を直し、髪型を整え、消えてしまった香水を振り直す。ホテル前に着いたのは約束の時間の十分ほど前だった。真紀がラウンジを見渡すと菅野はソファ席に座りウィスキーのグラスを傾けながら待っていた。遅くなりました、と声をかけて向かいに腰を下ろすとファジーネーブルをオーダーする。
今までのことが妄想の中の出来事だったのではないかと思うほど穏やかな会話が続く。真紀の顔にも菅野の顔にも自然な笑みが浮かぶ。2杯目のウィスキーを飲み干し、真紀のグラスが空になるのを待つと、席を立つ。優しく肩を抱かれ誘導される。

エレベーターの奥の壁に背中を預け、指を絡め合う。菅野の体温が指先から伝わり、じわりじわりと真紀を高揚させる。部屋に着くとジャケットを脱ぎネクタイを緩めながらベッドの端へ腰掛ける。真紀はその様子をじっと見つめながら、ゆっくりと菅野に歩み寄る。瞬きをするのも忘れ見つめ合う。菅野の正面まで来るとそっと腰を引き寄せられ、その指先が背中へと移動する。真紀は菅野の頬に指を触れるとゆっくりと唇を重ねる。応えるように菅野の唇が真紀の唇を包み込む。次第に舌が絡み合い唾液が混ざり合い、ぴちゃぴちゃと音が部屋中に響く。真紀の熱を持った首筋に菅野の指が触れゆっくりと撫で下ろす。たったそれだけで声を上げそうになったこのに驚きながらも快感を受け入れる。菅野が真紀のブラウスのボタンに指をかけ、一つずつ外していく。真紀も菅野の首筋に唇を触れながらシャツのボタンに指をかける。スーツを着ていた時には見えなかった程よく鍛えられた身体が露わになる。
「綺麗…」
「何言ってる。君の方が綺麗だよ」
厚みのある胸板に指先で触れながら無意識に呟いた真紀に菅野は少し照れ臭そうに微笑みながら告げると、真紀のなめらかな背中を撫でていた手に力を込め、真紀を抱き寄せる。とっさのことに跨るようにして菅野に倒れこむ。ブラと肌の境目に菅野が優しく口づけ、くすぐったいような気持ちいいような感覚に身震いする。今度はブラのストラップに指をかけながら同じ場所を強く吸われ小さく声をあげる。真紀の白い肌が薄紅く染まっている。菅野は口元に淫らな笑みを浮かべながら真紀の潤んだ瞳を見つめている。その瞬間、真紀は自分の肉襞が潤いを帯び蜜が溢れ出していることに気づく。もうショーツにシミを作って触れればストッキング越しにもその潤いが感じられるほどだろう。片手で器用にブラのホックを外した菅野が真紀のブラを窓際のソファに放り投げ、真紀の体をくるりとベッドへ押し倒す。唇を塞ぎながらピンク色の乳首を弄ぶ菅野の指の感触に真紀の唇の端から甘い息が漏れる。もっと快感が欲しいと菅野の手を自らの胸に押し付けると唇を強く吸った。硬くなった真紀の乳首を優しく、時に強く刺激しながら太ももの間に膝を割り込ませ足の付け根に押し当てる。布越しに濡れているのが伝わってくる。
「あっ…」
強く押し当てながらグリグリと動かしてやると、背中を仰け反らせながら良い声をあげる。
「もうこんなに濡れてる」
「…菅野さんは?」
高揚と恥じらいで頬を染めながら訊ねる真紀の手を引き寄せ欲望で膨れ上がった自らの股間に触れさせる。
「もうこんなだよ」
布越しに伝わる体温が熱い。菅野も同じに昂ぶっているのだと思うと嬉しさがこみ上げる。
「お願い、早く…」
「ダメ、もっと味わわせて」
そう言うとストッキング越しに真紀の一番敏感な部分を指でなぞってみせる。与えられた快感に既に充分に潤っている肉壁の隙間から更に蜜が溢れ出す。菅野の指先は真紀の弱い部分をピタリと探り当て、これまでに感じたどんな快感よりも強く心地よく真紀を酔わせていく。真紀の体温より少し低い温度の菅野の唇が真紀のへその少し上にキスを落とす。ひやりと少しくすぐったいような感覚にびくりと腰が跳ねる。へその周りに軽いキスを繰り返し落としながらストッキングに手をかけゆっくりと脱がせていく。ストッキングを放り投げ真っ白で滑らかな真紀の太ももに口づけると、今度はぐっしょりと濡れたショーツに手をかける。そこが露わになる恥ずかしさと、早く欲しいと言う快感への欲望に身震いしシーツをぎゅっと握りしめる。
「あぁ綺麗だ。こんなに濡らしてヤラシイね」
「嫌いですか?」
「大好きだよ」
そう言ってぷっくりとピンクに膨れ上がった真紀の敏感な蕾を口に含みぴちゃぴちゃと音を立てる。
「んあぁっ!」
菅野の唇の感触と舌の動きに一瞬で頭が真っ白になる。声を上げ腰をひねり夢中で快感を享受する。真紀の反応に満足したのか菅野は体を離し唇を舐めながらベルトに手をかける。真紀は体を起こし菅野の前にひざまずくと菅野の手に触れる。
「私にもさせてください」
汚れちゃうからといいながらスーツを脱がせると、ボクサーパンツの上から膨らんだその部分にキスをする。ゆっくりとボクサーパンツを引き下ろすと隆起したその先端に唇を触れ、ゆっくりと口に含んでいく。奥まで飲み込み舌を絡ませる。菅野から熱い吐息が漏れるのを聞き胸が満たされる。じゅぷじゅぷと音を立て口の中に押し込んだ熱を感じる。菅野の手が真紀の肩とトンと叩く。
「もう良いよ」
真紀の髪を撫でながらそう言うと、ゆっくりと真紀を横たわらせる。ベッド脇のオレンジ色のライトに照らされながら見つめ合う。視線でキスをしているような濃厚な一瞬。

「もう我慢できないんだ。ごめんね」
「良いんです。早く来て…」
菅野の熱い欲望の塊が真紀の潤う肉壁を割って侵入する。ずっと求めてきた瞬間に身体中に電気が走ったように快感が突き抜ける。やっと一つになれた。エレベーターで初めてキスを交わしたあの夜からずっとこの瞬間だけを待っていた。お互いを求め合うように隙間なくぴったりと絡み合い体温を分け合う。
「中、こんなに締まって俺のこと求めてくる」
「だって、ずっと待ってたから」
奥を何度も突き上げられる快感に耐えきれず声を上げ、菅野の肩に爪を立てる。溢れ出す蜜のぐちゅぐちゅという音がいやらしく響き渡りシーツに垂れ滲み広がる。菅野が動く度に快感と幸せで満たされていく。こんなにもこの人の欲望を、この人の愛を求めていたのかと、自分自身の願望に戸惑うほどだった。
「もうだめぇ」
上り詰める快感にそう叫ぶと背中を大きく仰け反らせて絶頂を迎える。
「うぁ」
肉襞がキュッと締まり菅野を締め付けると、菅野の唇の端から声が漏れる。絶頂を迎えた敏感な身体に容赦なく快感を与え続ける。真紀は震える体で菅野にしがみ付き声を上げながら小さく痙攣を繰り返す。
「俺もイって良いかな?」
「お願いです。私の中で…!」
分かったよと言い終わる前に真紀の奥の壁を激しく突き上げ始める。我慢しようとも喘ぎ声が漏れてしまう唇の端からは涎が垂れ首筋まできらりと筋を描く。二人の激しい呼吸と喘ぎ声が溶け合い、真紀の中で菅野が果てる。

真紀の体を気遣いながらも体位を変え何度も交わり、愛しさと快感を求め合い与え合った。菅野はすっかり満足し疲れ切った真紀を腕枕しながら抱き寄せ、髪を撫でる。夢現つの中で、この満たされた時間が永遠に何にも侵されることなく続けば良いのにと願いながら菅野の胸に顔を埋め、匂いを吸い込む。きっともう朝方でチェックアウトまでの時間は迫っているだろう。今だけはこの愛しい人を独り占めしたい。溶け合ってこのまま一つになって形など無くなってしまいたい。
「愛してるよ。今はさようなら」
静かに寝息を立てる幸せな寝顔に優しくキスすると、菅野はホテルの部屋を後にする。

目を覚ますとベッドに一人取り残されている。昨夜の快感の痕跡はいたる所に残っているのに、菅野だけが足りない。あんなに愛し合ったのに、あんなに感じ合ったのに、自分一人を置いて帰ってしまうなんて。愛しいと思ったのは、すべて欲しいと思ったのは自分だけだったのか。シーツに涙がこぼれ落ち、滲み広がる。夢の中で聞こえた菅野の声、愛してるよなんて妄想が作り出した幻聴なんだ。溢れる涙を拭うこともせず、無造作に放り投げられたショーツを拾い上げ身に付ける。昨夜の快感が冷たく触れる。ブラウスにはうっすらと菅野の匂いが残っていた。

翌週、菅野は会社に来ておらずほっとしたような寂しいような気持ちを抱えていつも通りに仕事を進める。だが、どこを探しても菅野から指示があった書類が見つからない。指示の詳細が書かれたメールも見つからない。探しあぐね、同僚にどうしたらいいだろうかと声をかける。
「すがの?誰よそれ?」
「え…菅野係長だよ」
誰に聞いても、どれだけ説明しても、そんな人いないという答えばかり。終いには千條は残業しすぎておかしくなったのか、と笑われる始末だった。
居なかったことになっている。存在しなかったことになっている。なぜ、自分だけが覚えている?なぜ、他の人間の記憶からはこぼれ落ちてしまっている?それとも、あの夜からひどく長い鮮明な夢を見ていたのだろうか。

分からないことだらけだった。それでも、今起こっていることは現実だと信じたかった。残業終わりのエレベーター。菅野なんていう男は存在しないと言うなら、今目の前に居るのは誰なのか。淫らな笑みを口元に讃えて、真っ直ぐにこちらを見据えるこの人は。私の愛しい人では無いの?見つめ合ったまま歩み寄り唇を重ねる。

事実なんてどうでも良い。一瞬でも幸せで満たされるなら。


〜あとがき〜
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
数ヶ月前に初めて最後まで書き終えた短編です。大好きな唯川恵さんの影響をもろに受けまくっていますが、いい影響も悪い影響も吸収して次の作品はもっといいものが書けたらいいなぁと思っています。
今後も、暇つぶし程度に読んで頂ければと思います。

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