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シリーズ 日韓請求権協定 徴用工に補償してないって本当!?

1965年に締結された日韓請求協定によってそれ以前の請求権は全て清算されたが、いまだに「日本は韓国に賠償をしろ」という声が根強くある。無償3億ドルはあくまでも経済協力や独立祝い金という名目であり、いわゆる徴用工の補償は含まれていないと言うのだ。 今回は「日本は徴用工に補償していないって本当なのか?」をテーマに解説いたします。


請求された徴用工補償

日韓請求権協定について合意された議事録に以下のようものがある。

『日韓請求権並びに経済協力協定,合意議事録(1)』

意訳すると、完全かつ最終的に解決された請求権に関する問題には「韓国の対日請求要綱(いわゆる八項目)」(以下対日請求要綱)が含まれているので、今後はいかなる主張もできないとことが合意されたという説明です。この中で言及された「対日請求要綱」とは韓国から日本に提出された請求書で、これをベースに日韓の話し合いが行われました。現在、日韓の問題になっている徴用工問題に関係するのは、対日請求要綱の5項にあります。

第5項(4)「戦争による被徴用者の被害に対する補償」

『対日請求要綱』

韓国は対日請求要綱によって徴用工の補償を日本にしっかり請求していたことが分かります。


補償内容は慰謝料

対日請求要綱5項(4)の請求について1961年5月10日「第5次日韓全面会談予備会談の一般請求権小委員会の13回会合」でこのようなやり取りが行われました。

『第5次日韓全面会談予備会談の一般請求権小委員会の13回会合』

日本が「被徴用者の補償とは、遺族扶助や埋葬料などの救護措置という意味か?」と尋ねると、韓国はそれを否定し「肉体的、精神的苦痛に対するもので、生存者に対して含まれている」と説明しております。給料に関しては5項(3)にあるので、ここでは純粋に“慰謝料”ということになります。請求額の内訳は以下の通りです。

労務者667,684名、軍人軍属365,000名のうち、生存者930,000名に一人当たり200ドル、計1億8600万ドルを請求

『日韓会談における韓国の対日請求8項目に関する討議記録』


日本は請求を受諾した

これに対して日本は「当時の韓国人は日本人と同じ法的地位にあり、日本人については何ら補償措置を行っていないから、この請求に対しても同様の扱いをするしかない」と拒否するかまえを見せましたが、外地にいた日本人に対して引揚者給付金を支給したことと同じように考えると、日本にいた韓国人に同様の救護をすることも一つの方法であるという考えから、結局この請求を受けることになります。 そもそも徴用自体は合法なので、本来これに補償する必要は全くありません。ですから当然日本人の徴用工に対しては行っていませんし、現在の韓国でも徴兵に対する慰謝料を支給しているとは聞いたことがありません。つまり日本は、この時点で国際的な慣例や国内法を逸脱し大幅な譲歩を行ったことになります。

1962年2月23日「一般請求権徴用者関係等専門委員会第3回会合」において数のすり合わせが行われます。そして法律上の義務に基づかない善意による支払(ex gratia)として国内法と整合性を取り、大蔵省と外務省にそれぞれ試算させます。(名目は「労務者見舞金」)

● 大蔵省案 36万5千人(全労務者)×1/2(朝鮮帰還率)×1万7600円×70%(韓国分)=22億4800万円
● 外務省案 36万5千人(全労務者)×2万円×95%(韓国分)=101億8400万円

『日韓関係想定問』

二つの違いは、外務省案は全ての労務者を生存者として含めたこと、一人当たり2,400円外務省案が多いこと、工業地帯の多い北部(北朝鮮)より、農村部の多い南部(韓国)の被徴用者を多めにしたなどです。当時の池田勇人総理大臣は、より金額の多い外務省案を採用して、韓国との交渉に臨むように指示をします。しかしこの数字は総額7千万ドルの時のもので、結果的にはその4倍以上に当たる総額3億ドルで決着したので、400億円以上が考慮されたとみることもできると思います。

『日韓会談における韓国の対日請求8項目に関する討議記録』より作成


韓国国内の対応

国民の補償は、それぞれ自国で行うことで合意されたので、韓国は以下の法律を立法して国民に補償します。
①1966年2月19日 請求権資金の運用及び管理に関する法律
⓶1971年1月19日 対日民間請求権申告に関する法律
③1974年12年21日 対日民間請求権補償に関する法律
④2007年12月10日 太平洋戦争前後国外強制動員犠牲者等支援に関する法律

①~③に関しては死亡のみ、④でその対象は負傷、障害まで拡大されたが、日本が計上したはずの「精神的慰謝料」までは支払われませんでした。

このような状況で2018年10月30日に韓国の最高裁にあたる大法院は、いわゆる元徴用工に一人1000万円の損害賠償を命じた。この中で大法院は「(対日請求要綱第5項4の)発言内容は大韓民国や日本の公式見解でなく、具体的な交渉過程における交渉担当者の発言に過ぎず、13年にわたった交渉過程において一貫して主張された内容でもない。『被徴用者の精神的、肉体的苦痛』に言及したのは、交渉で有利な地位を占めようという目的による発言に過ぎない」とにわかには信じがたいことをいとも簡単に認定しました。

『新日鉄住金徴用工事件再上告審判決』

たとえ会談の発言が韓国担当者の“ハッタリ”だったとしても、国内法や国際慣例を越えて日本が対処したことが消えてなくなるわけありません。自分たちのミスを正当化して、相手国に更なる補償を要求する行為はとても信じられるものではなく、絶対に応じてはならないと私は思います。 また対日請求要綱をベースにした13年にも及ぶ話し合いを根底からちゃぶ台返しをする行為も決して許されるものではありません。


まとめ

・韓国は徴用工の肉体的、精神的慰謝料を日本に請求していた
・日本は1965年に国内法、国際慣例を越えて善意による支払いをすでに行っていた
・韓国は日本に慰謝料を請求しときながら、国民に支給はしていない

参考資料(順不同)

韓国の対日請求要綱(8項目)、日韓請求権並びに経済協力協定,合意議事録(1)、第5次日韓全面会談予備会談の一般請求権小委員会の13回会合、日韓会談における韓国の対日請求8項目に関する討議記録、日韓関係想定問、Ex gratia 支払い方式による日韓請求権処理(討議資料)、一般請求権徴用者関係等専門委員会第3回会合、日韓政治折衝に臨む日本側基本方針、新日鉄住金徴用工事件再上告審判決


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