芥川龍之介『蜃気楼』
岩波『河童・他二篇』より
「5分ばかり経った後、僕らはもうO君と一緒に砂の深い道を歩いて行った。道の左は砂原だった。そこに牛車の轍が二すじ、黒ぐろと斜めに通っていた。僕はこの深い轍に何か圧迫に近いものを感じた。たくましい天才の仕事のあと ーーそんな気も迫ってこないのではなかった。
「まだ僕は健全じゃないね。ああいう車のあとを見てさえ、妙に参ってしまうんだから。」」
私はふと天才の像について考えた。芥川龍之介はヒョロい。「「たくましい天才」?なんのことだ」と引っ掛かったのだ。