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ラーメン屋【あなたへの手紙コンテスト】

おやじさん、元気にしてる?

もうすっかり秋も深くなってきて肌寒くなったね。

だんだん、おやじさんのあの醤油ラーメンが恋しくなる季節になってきたけど、もうとっくにおやじさんは店を畳んじまったもんなぁ。

常連の誰にも言わずに、貼り紙一枚で、急に辞めちゃってからもう何年? 5年くらい経つ?

あの時はみんながっかりしたよ。ひでえよなぁ、おやじさん。俺たち常連がどんだけおやじさんの店を憩いの場所にしてたか。

俺は混んでる時間は避けて閉店間際に行く事が多かったから、常連との交流は少なかった方だけど、近所に住む噺家さんなんかと顔なじみになったりして、楽しかったなぁ。

おやじさんの友達の息子が噺家になったって聞いて驚いたけど、それがたまたま俺がよく聴きに行ってた噺家だったってわかった時は、お互い「すごい偶然があるもんだ」って驚いたよね。あの時の目を丸くしたおやじさんの顔にも笑ったな。

そんでお互い招待状が届いて、真打昇進披露パーティに出席したけど、あの時も傑作だったよ。普段からは想像がつかない変身ぶりでさ、雑誌のモデルかと思うほどのちょい悪ぶりで、おやじさん、イケてたよ。

あ、モデルは言い過ぎだけど。

そんで翌日店に行ったら、有名人とのツーショット写真をどれだけ撮ったかを嬉しそうに見せてくれたおやじさんのミーハーぶりに辟易したっけ。

先代の店主はおふくろさんで、カウンターの端っこにおふくろさんの遺影が置いてあってさ。それがなんかいいなっていつも思ってた。小さい時は店の二階の6畳ひと間で家族四人が生活してた話とか、地元の思い出話をいっぱい聞かせてくれて、お客を爆笑させてたおやじさんの笑顔を見ると明日も頑張ろうって思えたりしてたんだ。

そこだけ昭和を残した店の佇まいも、屋台に毛が生えたような雑然とした狭い店内もすごい良かったよ。たまらなく好きだったよ。

もちろんおやじさんの面白くてちょっと頑固で余計な事を言わない、そんな人柄も大好きだったよ。

ごめんよ。なんも事情がわからないくせにああだこうだ書いちゃって。

どうしようもなくてあの店をやめたんだろ?

おやじさんが一番辛かっただろうって、みんな言ってる。

今はもう、孫たちに囲まれて穏やかな余生を楽しんでればいいけど。

そうそう、俺、結婚したんだ。

相手はなんと噺家さん。

おやじさんの驚いた顔が目に浮かぶよ。

うちの奥さんをおやじさんの店に連れて行って紹介したかったな。

あのラーメンを食べさせたかったな。

でもさ。そのうち寄席でばったり会える気がしてるんだ。

くれぐれも身体だけは大事にね。

じゃあまたね。


🐈 🐈 🐈

今回は普段から仲良くして貰ってる水野うたさん初主催企画ということで、

これはぜひ参加せねば! ということで、参加させて頂きました!

たぶん、この企画がなければ書かれなかったお手紙です。

うたさん、良い機会をありがとごじゃいます!




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