見出し画像

フォニックスと発音記号

フォニックスの指導と発音記号のお話です。

教えているクラスで、英語を発音記号で書き始めた子どもたちがいます。彼らにとっては、発音記号が暗号みたいでおもしろいらしく、辞書を使って書いています。こういうことって今までなかったので、どうしたもんかな、と。

この子どもたちをそのまま見守っていいかなぁ、と考えていた時に、ナイスなタイミングで私の記事にコメントしてくださった山口敦子(kiki)/詩が好きさん。

ところで、ATU英語さんが有名ですが、
その方は発音記号で単語を読むとおっしゃってましたが
この辺はどう思われますか?
フォニックス読みと発音記号読みについて。

発音記号について、今まできちんと考えたことがなく、他の先生方はどうしているのかなと思いまして。知り合いの英語・外国語教育に関わる方々と話題にしてみたら、とても興味深い議論となりました

今回、ここで書いているのは、たくさんの先生方からいただいた知恵と経験です。私自身もとても勉強になりました。

対象と成り立ちが違う

まず大前提として、「フォニックス」と「発音記号」を端的に説明してくれた先生方の言葉を引用。

発音記号はすべての言語を対象にした記号です。フォニックスはあくまで英語だけです。」

フォニックスは、まず『書きことばとしての英語』があり、その英語を読んだり書いたりできるようになるための工夫として発達したもの。一方で発音記号は、『音声言語を記述する』ために工夫されたもの。指導の目的に応じて使い分けてよいのでは?」

ちなみに、発音記号の参考として:Full IPA Chart

IPAは、音声学者の代表的な組織であり、最も古い組織。
目的は、音声学の科学的研究と、その科学のさまざまな実用化を促進すること。
すべての言語の音声表現のための表記基準である国際音声記号(IPA)を提供している。IPAアルファベットの最新版は2015年に発行。

フォニックスは英語ネイティブの学び方

ある先生は、発音記号を読めないネイティブスピーカーはいる、ネイティブは発音記号に頼らず読める、母語だから経験数の違いなのではないか、と言っていました。

英国と米国の友人に聞いてみると、この記号を知らないし、学校でも習わないそうです。その代わり、フォニックスの指導は子どもの頃にありました。ある程度フォニックスに慣れると、初めて見る単語でも発音の推測が可能になります。この「音を推測する」という感覚はとても大切だと思っています。

発音記号の役割は、単語の音を正確に伝えること

英語ネイティブの人たちが発音記号がなくても正しく発音できるのは、彼らが産まれた時から、耳で英語を聞いて、周りの大人から英語の音を教えられているからです。

そのような環境がない場合、正しい音を調べるのに発音記号は役に立つと思います。発音記号を知っていて正しく発音できるのであれば、知らない単語に出会っても発音記号から音を導くことはできるからです。

また、正確な発音をそのまま発音記号でメモができるようになれば、その言葉の音を再び再現することができます。同じ単語でも地域で異なる発音、いわゆる方言も、発音記号なら表現することができます。

一方で、発音記号は音を記録するためのものなので、メモした発音記号を実際の英語表記(スペル)と結びつけるのは、フォニックスを知らない場合はなかなか難しいのではないかと思いました。

初学者を対象とした場合は「フォニックス」から

実際に指導されている方々は(私の周りでは小学校や中学校が多いです)初期段階ではフォニックス的なアプローチで指導する意見がほとんどでした。

理由は、音と文字をダイレクトに結びつける、書くことと連動させやすいフォニックス的アプローチの方が、学習者はわかりやすいし有益感があると、指導を通して感じているからです。

発音記号は、その記号を覚えることが必要になってきます。子どもの場合、アルファベットの大文字と小文字を覚えるのでも精一杯になることがあります。発音記号まで覚えることが難しい場合は、フォニックス読みで、音を表記するときはフォニックスのルールに沿って表すと負担が少なくなると感じている先生もいました。

発音記号はコミュニケーションの道具でなく音声学の記述用のものだから、比較言語学的な知識を与えることを目標に据えるなら指導はありだと思うが、ただでさえ複雑な英語の音と綴りの関係を理解させるだけでなく、別の表記システムを追加して生徒を悩ませる必要はないのでは。」という意見もありました。

発音記号の方が面白いと思う子どももいるのかも

感覚的に、
・主に他人とのコミュニケーションのための発音を学ぶなら「フォニックス読み
・主に自分とのコミュニケーションのためなら「発音記号読み
と表現した先生がいました。

これ、私はとてもしっくりきたのですが、「decodeにおいて、記号にも何かその(暗号解読みたいな)イメージがあり、文字だと学びが困難になる子も、記号なら学べそうな気もした」そうです。

これって、私の現場で起きている「発音記号でメモ」につながるのかな、と。彼らにとっては、アルファベット文字で書かれた単語よりも、発音記号で書かれた単語の方が興味があるわけです。

子どもの興味につながるものであれば、そしてそれが子どもの学習につながるものなのであれば、フォニックスと発音記号をうまく活用していくこともありだなぁ、と思いました。

フォニックスから繋がる発音記号

フォニックスから発音記号へのつながりを研究された方がいました。院生さんとどの程度フォニックスと発音記号が対応するか・一致するかみてみたところ、これが結構な割合だったそうです。

発音記号を一度に教えこむのは反対ではあるけれど、タイミングが来たらポイントで発音記号を見せることで、子どもたちの中にストンと落ちる瞬間を体験されていました。「フォニックスは必要です。でも、発音記号に親しんでいると、未知語を自分で調べて読めるようになります。それが学習の自律性になると思います。」

フォニックスを通して耳を育て、それがうまく育ってきているのであれば、あとは発音記号を子どもの様子を見ながらうまく展開して、一つの学びをできるだけ応用できる方向に持っていく。

発音記号は英語だけのものではありません。発音記号を知っていると、英語も便利ですが、英語以外の言語でも便利なことに気がつきました

「フォニックスのアプローチで初期は教えますが、早い段階から辞書の発音記号も見せるのが好きだ」と言う先生もいました。この先生は、発音記号の導入タイミングを実際の指導の中で実感されていて、英語以外の言語の解読で、発音記号が役に立つという授業をされていました。なるほど!

また、別の先生の言葉でハッとしましたが、発音記号に詳しくなると、日本語だって発音記号で表せるようになるわけです。学習の出発点になる母語に、より敏感になれる機会だって生まれるのかもしれません。この視点はなかったです。確かに!

中学校の先生は、教科書に発音記号が登場し、普段の授業でも辞書を使わせているので、英語の特徴的な音を示す発音記号は中1から扱いますが、文字認識自体が難しい生徒もいるので情報過多にならぬよう留意してるそうです。

実際に目の前の子どもたちの様子を観察しながら、負担にならないように、そしておもしろがるような仕掛けで、子どもたちが発音記号を知っていく。そういう指導ができないかなぁ、と思いました。

最後に

私はATU英語さんを知らなかったのですが(山口さん、教えていただきありがとうございます)、この方のコンテンツを拝読しての感想です。

Reading 読む活動とWriting 書く活動をメインとした場合はフォニックスの方が、Speaking 話す活動をメインとした場合は(覚えられるのであれば)発音記号が、活動を支えるスキルとして有効なのかな、と思いました。

要は、何をメインとして考えているかだと思います。スピーキングを重視する場合、発音に意識が向くのは自然だと思います。ATU英語さんはそちらをメインにされているような印象を受けました。

今回の議論で、発音記号は英語のスピーキングだけではなく、英語以外の言語の解読にもつながるものだと気がつきました。最後にある先生のコメントで締めます。

「発音」なのか「読み」なのか「書き」なのか、
・つけさせたい力ごと
・子どもの学び方(学びやすいやり方)ごと
で柔軟に決めていってはどうかな

私のクラスで「発音記号」書きしている子どもたちのことも、今後どのように発展するのか興味を持ちながら、見守っていこうと思いました。

彼らが発音記号に詳しくなって、日本語も発音記号で書き出したら…と思うとワクワクしますが、こちらから誘導はしないように気をつけたいと思います (^^)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?