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ぷちえっち・ぶちえっち25 初めてのソープランド

この連載はちょっと笑えるちょっとエッチなエッセイです。今回は「ぶちえっち」編。ちょっと際どいお話です。


 もうずいぶん前、バブルの頃である。僕は大学のサークルの1年上の先輩、佐藤さんと高田馬場で飲んでいた。お金がなくてひーひー言っていた僕にご飯をおごってくれる、というので、勇んで駆けつけたのだ。


 佐藤さんは卒業して、誰でもが知っている大手の証券会社に就職した。そのころの証券会社というのはもう、株価が上がりに上がって、誰も彼もが株に手を出す時代で、今では考えられないぐらい儲かっていたのである。


 佐藤さんも、大学時代バイトに明け暮れていた頃とは見違えるようであった。黒のスーツをパリッと着こなし、いっちょまえのビジネスマン、といった風情である。


 その日はいつもの激安居酒屋「清龍」ではなく、ちょっと小洒落た料理屋に連れて行かれた。
「おう、あべちゃん、何でも好きなモノ食えよ」。
と太っ腹だったのだ。何しろボーナスが入ったばかりの時期だったからだ。

当時、証券会社は、新入社員にも100万円以上のボーナスが出たのだ。あーうらやましい。


 大学時代の話で盛り上がって、飲んで食べて、すっかりご機嫌になった佐藤さんが、
「あべちゃん、ソープランド連れて行ってやるよ」。
と言い出したのだ。


 ソープランド――。なんだかとてもすごくムフフないいことが行われているということはわかっていたが、具体的にはわからない。なんたってアルバイト学生には高根の花である。行ってみたい気持ちはあったが、とても手が出なかった。そこに連れて行ってくれるというのである。なんという幸運であろう。


「行きます行きます!」
僕が勇んで答えると、佐藤さんは満足そうにうなずいたのだった。


 連れて行かれたのは新宿3丁目のソープランドだった。これは後になってわかったことだが、総額3万円ぐらいの中級店であった。それでも、待合室のソファは結構豪華な革張りで、水槽には熱帯魚なども泳いでいらっしゃる。なんともいい感じではないか。


 先に佐藤さんが呼ばれて、
「あべちゃん、終わったら待合室で待ってて」と言ってボーイに連れられて部屋を出た。いよいよ次は僕の番である。5分ほどして、
「お客様どうぞ」。とボーイに呼ばれた。

部屋の外には赤いじゅうたんが敷いてあり、階段の前に一人の女性がひざまずいて頭を下げていた。
「かおりさんでございます。それではごゆっくりどうぞ」。
ボーイが言うと、女性が顔を上げた。


 年は30前後。落ち着いた感じで顔立ちは整っていた。美人の部類に入るであろう。まあ、若くてかわいい子好きの僕の好みとはちょっと違うが、十分許容範囲である。なんたってただなのである。これは「当たり」といえるだろう。


 かおりさんに手を引かれて階段を上がり、2階の部屋に入った。手前にベッドと小さなテーブルがあり、奥に浴槽があった。


「ここはよくいらっしゃるんですか」。
かおりさんが聞くので、
「あ、いえ。こういうところは初めてです」。
と僕は緊張しながら答えた。
「もしかして童貞?」
と聞かれたので、
「いいえ、それは違います」。
と答えると、かおりさんは、
「そう。それじゃ大丈夫ね」。
と艶然とほほ笑んだ。僕も顔をこわばらせながらほほ笑んだ。


 促されてベッドに腰掛けると、かおりさんが一枚一枚丁寧に服を脱がせてくれる。靴下やパンツまで脱がせてくれるのだ。子どもに戻ったような不思議な感じだが、悪くはない。いやが上にも期待は高まる。僕のわがままムスコは早くも臨戦態勢になっていた。


 ここまではよかった。


 僕が真っ裸になった後で、かおりさんも服を脱ぎ始め、裸になった。その時である。
 かおりさんの背中には、一面に大きな入れ墨があった。色も鮮やかな「女郎蜘蛛」の入れ墨だった。腹部の黄色と黒の模様が毒々しく生々しい。


「極道の女やん!」。
そんなすごい入れ墨を生で見たのは初めてである。とっても怖いおにいさんがバックにいるのは明らかだった。


 僕はすっかりびびってしまった。僕のムスコもあっというまにしなしなしな、とうなだれてしまった。何か失礼なことをしたら、
「おう、ワレ。俺の女に何してくれてんねん。東京湾に沈めたろうか」。
 となるのではないか。


 それからかおりさんはたくさんいいことをしてくれたのだが、僕のムスコは恐怖と緊張でうなだれたままであった。かおりさんの機嫌も悪くなり、ほほ笑みが消えた。僕はおどおどするだけである。


 とうとう途中でかおりさんはやめてしまい、ベッドに座ってたばこを吹かし始めた。僕はかおりさんの横で、本人とムスコともどもひたすら小さくなっていた。地獄のような時間がようやく過ぎて、僕は解放された。


 佐藤さんはすでに待合室で待っていた。
 「どうだった。よかったろ」。ニヤニヤしながら聞くので、
 「はい、とてもよかったです」。と僕はそれだけ言った。


それがトラウマになり、僕の頭の中には、「ソープランドってとっても怖いところ」という印象がくっきりと刻み込まれた。僕はその後10年以上、誘われてもソープランドには足を踏み入れなかったのである。


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