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ぷちえっち・ぶちえっち35 声のおおきな女の子

この連載はちょっと笑えるちょっとエッチなエッセイです。今回は「ぶちえっち」編。結構エッチなお話です。


 大学1年生の時、僕は東京・荻窪の築35年の木造アパートに住んでいた。6畳1間、台所、トイレは共有で家賃は1万5000円。

敷金、礼金はゼロで、大学生協に張り出されていた物件のうち最も安いモノを選んだ。

とにかくお金がなかったのである。雨風しのげればいい、という感覚であった。

外見は民家のような2階建てで、10室あり、住人は男ばかりでほとんどは僕と同じ貧乏大学生だった。


 当時僕は同い年の直子と言う子と付き合っていた。

直子はショートカットで、顔が小さく、ちょっと中性的な魅力のあるとてもかわいい子であった。

早朝3時に新宿の歌舞伎町でナンパしたのである。最初、直子は高校生だとウソをついた。十分に高校生で通る童顔だった。


 僕も童顔である。二人で歌舞伎町を歩いていると、私服刑事に声をかけられ、
「高校生がこんな時間に何をしているんだ」。


と職務質問されたくらいである。僕が大学の学生証を見せて事なきを得た。


 やりたい盛りのころである。付き合うようになってからは、僕の下宿で、二人は毎日のように愛し合った。かわいくて、感じやすい直子が愛おしくて仕方なかった。


 ただ、直子には1つ問題があった。あのときの声が大きいのである。 


 「あん、あん、あーーん」。


 とハイトーンのかわいらしい声であえぐのだが、その声がかなり大きい。

壁の薄いおんぼろ下宿なので、周りに丸聞こえである。僕はむりやりキスして声を防ごうとするが、それを避けて

「あーーーーん」。

と余計に大きな声を出すのだ。

まだ経験の浅い僕のテクニックで、そんなにビンビンに感じるとはあまり思えない。 

わざとやっているんじゃないか、とも思ったが、もう途中からは開き直って、直子のしたいようにさせておいた。


 そんなある日のことだ。


 僕たちがいつものように愛し合っていると、木製の引き戸の部屋のドアが「ガタン」と音を立てた。

「うんん?」


 僕は直子を愛しながら、ドアのほうに意識を集中した。


 人の気配がするのだ。誰かがドアの外に立っている、と思った。

しかし、僕の息子も立っていて収まりが付かない。


 一戦を終えてから、僕はそっとドアの方へと歩み寄った。そして、がらりと勢いよくドアを開けた。


 4人の人影がはじかれたように走って逃げた。

下宿に住む貧乏男子大学生たちが、僕の部屋のドアの前で聞き耳を立てていたのである。

走り去る後ろ姿は見たが、4人ともものすごい勢いではじかれたように逃げたので、個人を特定するには至らなかった。


 「ごめんね、何か聞かれていたみたい」。


 直子に言うと、
「別に聞かせておけばいいじゃない」。


と直子はセブンスターをぷかりとふかしながら言った。


 この子はかわいいだけじゃない。すごい度胸も据わっている、ということを、その時初めて知った。

僕が初めて「女の怖さ」を知ったのはこのときかもしれない。


 僕は直子のことが心底好きであった。付き合ったのは3カ月程度の短い期間だったが、思い出は尽きない。またエピソードをぽつぽつ書いていきたいと思う。
 

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