『愛し愛され喰い喰われ』(イグBFC2参加作品)

 なぜ真治の死体を食べたのか、ですか? その理由をここで証言することにこれっぽっちも躊躇は感じませんが、その前にちょっとトイレに行かせてもらうことは無理ですか? そうですか、分かりました。我慢します。でも、真治を食べた理由なんて、本当に必要ですか? 果たしてこの場にいる方々に理解できるかどうか……。

 じゃあ、そうですね。まず男同士の愛ってどう思いますか? 存在自体は尊重するが、個人的には理解できない? なるほど、ありがとうございます。まあ、別に理解してもらおうとは思ってないんで、どうでもいいですけど、そんなところでしょうね。

 僕らは真に愛し合っていました。周りから理解されなくても、僕らの愛は永遠だと思っていました。なのに、真治は死んでしまった。あっけなく。簡単に。それでも僕は真治を愛しています。だから、永遠に愛し合うために食べたんです。陳腐、ですか? 陳腐な理由はお気に召しませんか? 陳腐だからこそ美しいってこともありますよね。馬鹿な子ほどかわいいっていうじゃないですか。あれと同じですよ。いや、まあ、ちょっと違うか。

 真治と一つに? ええ、なりたかったですね。でも別に互いの身体を食べたりしなくても、僕らは一つでしたよ。愛し合って、心と身体を重ね合わせて、髪の毛から足の爪の先まで、僕らは二人で一つでした。間違いなく真治も同じように感じていました。だから、真治と一つになりたいから食べた、なんてことは全然当てはまりませんよ。愛する人と一つになるためにその肉を食べるだなんて、検事さんもけっこう陳腐なストーリーを思いつきますね。好きになれそうです、検事さんのこと。 いえ、皮肉じゃなく。

 ケンカ? 確かにあの前日、真治と言い争いもしましたけど、よくある痴話ゲンカですよ。前の男にもらった時計を使い続けていたのが気に食わなかったみたいで、いきなり捨てられたんです。結構気に入ってたのに。え? 報復のために、ですか。さすが、検事さん、人喰いについてよく勉強されてますね。確かにそういう理由で食べた事例もあるらしいですけど、僕は当てはまりません。そこまで思い入れのあるものじゃなかったですし、そのあとすぐ仲直りして、普段どおり愛し合いましたしね。

 もう一度いいますよ。永遠に愛し合うために、真治の身体を食べたんです。目的は食べることじゃない。愛し合うためです。

 普通、ものを食べたらどうなりますか。体に取り込んで、一つになる? それはもういいですよ、検事さん。吸収してさらにその先はどうですか。たどり着く先は。……そう、排泄です。口から入ったものは、最終的に肛門から出てくるんです。ここまでは分かっていただけましたか?

 ところで、僕らのような人間が、普段どうやって愛し合っているか知識としてご存知ですか? おっしゃるとおり。愛し愛され方なんて人それぞれだとは思いますが、オーラルセックス、アナルセックスがだいたい一般的です。口で愛し、肛門で愛される。ここまでいえばもうお分かり、ですよね。僕らは普段どおりに愛し合っただけなんです。食べるという行為を通じて真治を口で愛し、排泄するという行為で真治に肛門で愛されたかったんです。これが真治を食べた理由です。

 ほら、理解できなかったでしょう? 口、開いてますよ。

 ……え? 死体を食べきってしまったら永遠に愛し合えないじゃないかって? 真治は何度でも生まれてきますよ、僕の中から。僕を愛し、僕に愛されるために。それをまた食べればいいんです。そうしたらずっと愛し合えるでしょう?

 そういう訳なんで、そろそろトイレに行かせてもらってもいいですか?


                              (了)

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