仏教余話

その61
後は、シャンバラ(シャングリラともいうことがある)についてだけ、簡単な情報を付け加えておこう。密教に詳しい田中公明氏は、こう述べている。
 〔後期密教の聖典〕『カーラチャクラ』の教説の一つとして有名なものに、シャンバラ伝説がある。シャンバラは、近代に入って西洋の神秘思想家から注目されたので、欧米でも広く知られるようになった。シャンバラは本来、ヒンドゥー教の『プラーナ』に説かれた一種の理想郷である。…その後のインド・チベットの仏教徒にとっては、シャンバラ王ラウド・チャクリンの出現と、仏教の復興というテーマが重大な関心事になった。とくにイスラム教徒の侵入と、インド仏教の滅亡を目の当たりにしたチベットの仏教徒は、これを『カーラチャクラ』の予言が成就したものととらえ、仏教が復興するまでの期間シャンバラに往生して、イスラム教の迫害から逃れることが真剣に検討された。(田中公明「『カーラチャクラ』 インド仏教の総決算」『インド後期密教』下2006所収pp.199-202、〔 〕内私の補足)
田中氏は、別著で、欧米のシャンバラブームにも触れ、こう述べている。
 近代に入ると、シャンバラ伝説は欧米でブームを巻き起こし、本家であるヒンドゥー教ヴィシュヌ派のカルキ伝説以上に知られるようになった。しかし西洋に知られたシャンバラ伝説のくつかは、はるか後代に成立したチベット人の空想の産物だったのである。(田中公明『超密教 時輪タントラ』1994,p.87)
他に、新しい研究として、西岡祖宗「シャンバラ国について」『印度学仏教学研究』55-1,2006,pp.474-468がある。

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