仏教豆知識

その8
答えの出しにくいテーマを種々、講義してきましたが、終わりに、雑談として、チベット仏教の瞑想について触れておきます。これは、吉村均「チベットに伝わる心の訓練法(ロジョン)と現代」『明治学院教養研究センター紀要カルチュール』5(1)、2011、pp.79-93などでもマインドフルネスを意識した上で、詳しく論じられています。ネットでも見ることが出来ますので、興味のある方は御覧ください。簡単に説明だけしておきましょう。チベットの瞑想法、ロジョン(blo sbyong)は、「浄(じょう)覚(かく)」と和訳されることもあります。「心を浄化すること」です。はじめは、秘儀(ひぎ)とされていました。先年、チベットを扱った映画「ルンタ」が公開されましたが、そのルンタという言葉は、ロジョンでも説かれています。直訳すると「風の馬」という意味で、ロジョンでは、修行法の中に登場します。マインドフルネスとどう結びつくのか、宗教色や仏教思想と切り離せるのか、などいろいろ問題はあると存じますが、今は、チベットの古い仏教史書からの、簡単な紹介のみにとどめておきます。こうあります。
 浄覚の口伝とは、〔そもそもは〕セルリンパが、アティシャに説いたものなのです。…〔後年〕、チャチェーカーワは、専ら、自分だけ御実践になり、1人か2人ずつに、秘法として〔説示〕なさったことを踏まえて、多いなる利に成ると御賢察になり、デブ(‘gres phu)で、公の教えとしても、お説きになりました。意味を7つの内容次第〔として〕、偈文置いたので、『浄覚七義』として知られているのです。
ここに名が出てくるアティシャは、インドからチベットに渡り、チベット仏教を再建した有名な人です。後に前に紹介した、ダライ・ラマのゲルク派につながるようなことをした人物です。そのアティシャに浄覚を教えた人としてセルリンパと言う名が挙がっていますが、この人はジャワに住んでいたという伝承があり、この辺りも謎ですね。とにかく、秘伝とされていた浄覚が、やがて公のものとなり、今では、先に伝えたように、吉村均さんの研究で日本語でも読めるというわけです。

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