仏教余話

その224
さて、現代社会がチベットに興味を抱いた経緯も簡単に紹介しておこう。そのきっかけを作ったのは、紛れもなく、『チベットの死者の書』の出版である。この本は、エヴァンス・ヴェンツ(1878-1965)というアメリカ人が、20世紀の始めに、インドで発見した。その後、ドイツ語訳すると、有名な心理学者ユングがこの本を褒めたので、大いに、注目されるようになった。これが、第1次のチベット仏教ブームである。エヴァンス・ヴェンツという人は、オカルト好きで、一生、その方面の研究を続けた。ちなみに、エヴァンス・ヴェンツは、最初、ヨーロッパでは異端的な臭いが濃い、ケルト文化を勉強したらしい。ケルト文化について、私は、全くの門外漢であるが、ストーンヘンジという巨石の遺物であったり、文学者のイエーツやジョイスを生んだり、音楽ではエンヤや初期のロック界をリードしていたレッド・ツエッペリンを産するなど、その影響は計り知れない。一時、世界中で流行った「ハリーポッター」などの底にも、ケルトの伝統が息づいているのかもしれない。エヴァンス・ヴェンツとケルト文化で検索すると、長文のサイトがあり、そこでは、以下のような記述も見られる。
 〔エヴァンス・ヴェンツの最初の論文では、こう述べている〕。再生は、現代の科学では論じることができない次元のもの、しかし、数世紀前には馬鹿げたことだと思われていたことが、現代科学では照明されているのだから、キリスト教の論理と科学的見地から抹殺されたことも、将来に事実として認められる時代がくるだろう。(エバンス・ヴェンツ『ケルト文化における妖精信仰』)
これを見ても、彼の嗜好がはっきりわかる。ケルト文化は、その異端的、神秘主義的な側面から、神智学協会などの動きとも連動し、引いては、仏教にもつながってくるようにも思うが、それを論ずるには、私は、準備不足なので、今は触れない。ただ、ケルト学会、ケルト協会なるものがあり、いずれも活発に活動しているようなので、私のような興味の持ち方をしている人もいるかもしれないとは思う。恐らく、仏教学に比せば、世間的には、ケルトの方が、メジャーな分野のような気もするが、どちらも、マニアックな世界ではある。忌憚なくいわせてもらえば、マニアックであることは、恥ずべきことではない。むしろ、研究に当たっては、マニアックになってもらいたい。


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