仏教余話

その230
以下私の管見の範囲で、上記で言及された欧米諸学者の業績を、もう少し、紹介してみよう。まず、トム・ティルマンスは、主に、仏教論理学を専門としている。彼は、一時期、日本の広島大学に留学していたことがある。ドレイフィスも、もっぱら、仏教論理学を扱う。1997年に大著Recognaizing Reality Dharmakirti’s Philosophy and Its Tibetan Interpretatonを出版し、moderate realismなるダルマキールティ解釈を提唱した。ホセ・キャべゾンは、中観の専門家で、ツオンカパの弟子であるケードゥプジェー(mKhas grub rje 、1385-1438)などの研究で知られる。ロジャー・ジャクソンも、ツオンカパの弟子タルマリンチェン(Dar ma rin chen,1364-1432)の研究で知られる。すべて、学界を裨益する大事な研究を提示している。ここで、仏教研究の花形である中観に関する研究書の内容に触れてみよう。2003年に『自立派と帰謬派の区分 如何なる違いが、違いを生んだのか?』
The Svatantrika-Prasangika Distinction what difference dose a difference make?という本が出版された。この本の編者の1人は、前述のドレイフェスである。その第2部は、「チベットの伝統における区分の考察」Examing the distinction in the Tibetan Traditionと銘打たれ、タオシャー(H.Tausher)「自立派としてのチャパチューキセンゲ」Phya pa chos kyi seng ge as a Svatantrika、吉水千鶴子「チャンドラキールティの自立論証批判に関するツ
オンカパの再評価」Tsong kha pa’s Reevaluation of Candrakirti’s Criticism of
Autonomous Inference,カヴェゾン「14世紀チベットにおける自立派―帰謬派区分の2見解」Two Views on the Svatantrika-Prasangika Distinction in Fourteenth-Century Tibet、ドレイフェス「真の帰謬派は成り立つのか?ミパンのケースと見解」Would the true Prasangika Please Stand? The Case and View of ‘Ju Mi phamの4論文が掲載されている。中観派の区別として名高い、自立派と帰謬派という名称自体、チベットで作られた形跡もあるので、インド以来の中観派の意味を考える上でも、チベット仏教を無視することは許されない。

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