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バニラ記念日#あの選択をしたから

24歳仕事が辛かった時の話



出会い

“あ〜疲れた。“
まだタスクが残っているパソコンを閉じ、今日は早めに会社を出た。
深夜1時。

今日は仕事から離れて飲むぞ!と、意気込んだ私が1人で向かったのは、私にとっては少し大人の街の恵比寿だった。
恵比寿の西口を降りて、1人でも入れそうなお店がないかと探していたら、男性3人組から声をかけられた。

「お姉さん、1人ですか?一緒に飲みませんか?」
「え?私1人ですけど、いいですか?笑」
「もちろん!!!」

その瞬間私の頭をよぎったのは
“もしかして私、この人たちとこの後・・・人生初の複数プレイしちゃう感じ?“
というほどで、その時の私は仕事に疲れて完全に理性を失っている状態だった。

「じゃ、いきましょう!!」

私たちは、西口を線路沿いに坂を登り、男性行きつけのバーに向かった。

「こんばんは!」
「いらっしゃい〜」

それがまりえさんとの出会いだった。
私より3歳上で27歳のまりえさんは黒髪ロングにぱっつんで、声をかけにくい見た目とは裏腹に、気さくに話してくれた。
バーの店内は、23時で終電間際なのに満席だった。

「はるなさん、ここ来るの初めてだよね?何歳?」
「あ、初めまして。そこの男性たちと道で出会って、つい(笑)24歳です。」
「えー!すごいね。男3人に、はるなさん1人?やり手だね〜(笑)」
「違いますよ〜(笑)」

そんなたわいもない話を、東京に来てからしたのは久しぶりだった気がする。
大阪から上京して2年。
東京に友達がいない私は、朝から深夜まで働き、寝て、起きて、また出社するという繰り返しだった。
側から見たら、いわゆるキャリアウーマンというやつに分類される。

だから、こんな生産性のない会話をするのは、初めはむず痒い感じがしたが、内心はすごく嬉しかった。
たわいもない話をしてくれる人がいて、聞いてくれる人がいる。
まりえさんは、ここのバーにはどんな人が多いとか、恵比寿は全然大人の町じゃないとか、いろんな話をしてくれた。

「あ、やべ。もうすぐ終電じゃん。明日も俺仕事だから帰るわ」

男性のうちの1人がそう私に声をかけた。

“あ、なんだ。複数プレイがしたくて誘ったわけじゃなかったんだ。たまには刺激的な夜があってもいいのに。“

そんな思いが顔に出てしまっていたのか。
まりえさんが私に試すような顔をしてこっちを見ている。

「はるなさん今、ちょっと残念って思ったでしょ?(笑)」
「な、何をですか?(笑)」
「別に何をってわけじゃないけど?(笑)」

そんな会話をして、また私たちは笑った。

本音

「でもさ、なんで1人で恵比寿にきたの?」

真面目に答えるか迷った。
仕事で疲れてるからなんていう話は、バーのお客さんからは聞き慣れた話だろうし、私はまりえさんが笑ってくれるような話をしたかった。

でも、正直私には限界がきていたのかもしれない。
もしくは、まりえさんだったら仕事が疲れたって話も笑って聞いてくれるかもしれないと期待をしたのかもしれない。
私は、大阪から送り出してくれた家族にも友達にも話さなかった本音を、まりえさんに話し始めた。

「仕事が疲れたからです。
就活が終わって、社会人成り立てのときはすごく楽しみだったんです。大人になって自分でお金を稼げるようになったら、何を買おうかな?とか。
深夜まで働いたって、それがきっと未来の自分のためになるって思ったら、なんの苦でもなかったですし。
でも最近、なんでこんなに働いてるんだろう?とか、
こんなに働いたところで私はスティーブジョブズにはなれるわけないのに、頑張る必要あるかな?とか。
そういうことを考えていると、やる気が出ないんですよね。
でもそういう時に限って上司は、私に大量のタスクを渡してくるんです!
それで今日は、全てを忘れて遊んでやろうと思ったんです!」

「なるほどね笑
めっちゃおもしろじゃん!笑」

“あ。よかった。真剣に受け止めずにやっぱりまりえさんは笑ってくれる人だ“

「複数プレイくらいね、遊びのうちに入らないよ?(笑)」
「なんでそれを(笑)?」
「わかるよそれくらい(笑)だって私も同じ、24歳は通ってきたし、こう見えてもちゃんと社会人してた時あったんだから!」

「さすがです(笑)全て見透かされてました(笑)でもなんで今バーで働いてるんですか?」

「え?聴いちゃう?(笑)真剣な話になるけどいい?」

告白

“もちろん。“
私はまりえさんが過ごした24歳を知りたかった。私と同じように苦しい24歳を生きたのだろうか。
社会人になって、泣く頻度が増えたように思う。誰かの前で泣くような子供ではないけれど、帰り道にこっそりシクシク泣いたり、時には赤ちゃんみたいにウワーンって誰もいない公園で泣き叫んだりもした。
こんな辛い24歳。早く終わってくれないか。25歳もまた泣いてたら嫌だなぁ。そう思っていたから、まりえさんなら、私のこの気持ちを少しでも軽くしてくれるんじゃないか。
そう期待した。

「私がここでバーをしてる理由はね、自分のためなの。」

“あれ。ちょっとがっかり。私と一緒じゃないか。自分のために働いて、稼いだお金で好きなことに使って・・27歳になっても、私もこういう感じでふらふらしながら生きてるのかな。“

「はるなさん、仕事って娯楽になりうるって信じる?」
「え?」
「私はね、仕事って娯楽になりうると思ってるの。

仕事は辛いもの、
できるだけ早く終わらせて、休憩はできるだけ長めにとって、土日はしっかり休みたい、ワークライフバランスは大事。そういう考えもあると思うし、別に否定したいわけじゃないよ。まぁ多分、はるなさんはそれと逆をいってると思うけど。
女だから何?って、男性と同じくらいかそれ以上に働いて、結果を出そうと頑張ってもがいてる最中だと思う。
だから、その中で辛いこととか、やってらんねえよってこともたくさん経験してると思う。頑張ってるね。えらいねって褒めてあげたい!
でも、私がそう褒めたとしても、はるなさんが次に進めるかって言われたら、それは一時の気休めにしかならないでしょ?
だからね、ちょっとだけ先輩の私から、一言だけ伝えるとしたら、

同じ目標を持った仲間を探して

ってことなの。

はるなさん高校生の時、文化祭あった?」

「はい。私の高校は演劇をしました。」

「高校の文化祭ってなんでかわからないけど、すごく燃えなかった?優勝したら何かがもらえるわけでもないし、頑張らなくても罰は与えられるわけでもないのに、死ぬ気でやった記憶が私の中にもあるんだよね。
振り返っても頑張れた理由は、楽しかったから。ただそれだけなんだよ。

じゃなんで楽しかったのかなって考えたら、
それはきっとクラスの皆が同じ目標に向かって、同じモチベーションで取り組んでいたからじゃないかなって思うの。

みんなが優勝、っていう目標に向けて、それぞれの役割をこなして、それぞれが自己ベストを出そうとした。だから、楽しかったんじゃないかなと。。。

じゃもし仮に、不謹慎かもしれないけど、私が日本に生まれていなかったら?ウクライナで今高校生をしてたら?そんな悠長に文化祭のために闘志を燃やせていたかな?って。
勝っても何ももらえないものにだよ?
絶対無理だと思う。
日本の、この時代に生まれてこれて、家族に恵まれて、友達にも学校にも恵まれたからこそ、私はその文化祭を楽しむことができた。
だから、文化祭は娯楽だったと思うんだよね。

じゃ、元に戻って仕事は?って。
一つの目標に向かって、同じモチベーションを持った仲間と、何か取り組むことは出来ないか?
これは私の経験上できるんだよ。

ここにお客さんとしてきてくれる人たち、みんな楽しいことも寂しいことも、辛いこともいろんな話をしてくれるんだけど、私はその人たちとね、同じ目標を持ってるの。

例えば、一緒にきてた男性いるでしょ?
あの子はね、ずっと彼女が欲しいって言ってたの。だから一緒にどんな女の子だったら彼に合うか、どこで出会うか。出会った後どうやってその子に気をもってもらうか。そんな小さな目標なんだけど、私は彼と同じ目標を持って、そのために同じモチベーションで彼と一緒に目標達成のためにめっちゃ考えたの!
そしたらね、ちゃんとできたんだよ彼女が。ほんとにそのときは嬉しかったなぁ。
泣いてよろこんだよ。一緒に。彼女できただけなのにね(笑)

他にもね、いろんなお客さんと一緒に目標を追いかけてるの。
毎日どうしよっかなって悩むけど、でもその分目標を達成できたらほんとに嬉しいから、私は毎日幸せだな〜って。

私はここでお酒を作ったり、お客さんとお話しすることが仕事だけど、だから私にとって仕事は、辛いものじゃなくて、娯楽なんだ。

だからね、はるなさんとも一緒に目標を見つけたいの。慰めたり、褒めたり、そんな上からの立場じゃなくて、同じ位置に立って、同じ目線で、一緒に叶えていこう。

最初は小さな目標でいいと思う!どうする?」

さっきまで、今日タスクを終わらせずにパソコンを閉じたことを、少し後悔をしていたけど、そんな後悔は一つもなくなっていた。
まりえさんが、私の目標を一緒に喜んでくれる。それだけで明日会社に行く足取りが軽くなるようだった。

「じゃ、上司によくやったって言われたい。こんな目標でもいいですか?」
「いいよいいよ!むしろ最高に面白い目標じゃん(笑)」

じゃ、そのためにどうすればいいか、考えようよ!
ちなみに、ひとつ言ってもいい?上司もね、人間なんだよ(笑)
だからね、上司と同じ目標を握るって言うのもひとつ手なの。
難しいって思った?大丈夫、はるなさんならできるよ!
例えば、仕事の中で悩みがあるとするじゃん。このクライアントがなかなかYESって首を縦に振ってくれないとか。
そういうのがあったらチャンスなんだよ。
上司にさ、なんでこのクライアントにYESって言ってもらいたいか、ここがYESって言ってくれるとどんないいことがあるか?話してみな。
上司もその気になるから。
そしたらもうこっちのもんだよね。上司もさ、はるんなさんの悩みを一緒に考えてくれる仲間になってるのよ。
それでこまめに、上司に今こんな状況で、ここに困ってるんですって話をするの。
そしたらまた上司が、悩んでくれるわけ一緒に。多分ね、はるなさんが考えてない間も考えてくれるようになるよ。
それでさ、そのクライアントがYESって言ってくれたらさ、上司もずっと悩んでたことだから、やった!って一緒に喜んでくれるはずなんだよね。
同じ目標をもった仲間がいて、その仲間が同じモチベーションを持っていたら、上司とか部下とか、取引先とか関係ないよ。
みんながはるなさんと仕事をするのが楽しくなると思う。

考えてたら私も楽しくなってきた(笑)

だから1人で頑張らないで。ね?
喜びをシェアできるように、私にもちゃんと会いにきてよ〜?はるなさんが悩んでる時間以外も絶対私悩んじゃってるから!(笑)」

「はい!」

バニラ記念日

もう辺りは、日が昇り始めているのか。窓を背にしていたから気づかなかったが、もう朝の5時だ。
始発の山手線が動き始める音がしている。

今日は金曜日。
平日に朝まで飲んだことに後悔なんてひとつもない、といえば嘘になるかもしれない。
眠いし、少しは寝たほうが仕事も生産的になる。
でも、それ以上にまりえさんに出会えたことの方が大きかった。

“仕事は娯楽になりうる“かぁ。

よし。私は力強く、席を立ちお会計をした。

「はるなさん、またきてね!」

まりえさんはそう言って、私にハグをした。
私と同じ柔軟剤の香りだ。フレンチなんとかの香り。甘いバニラの香りだ。

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