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さく癖と疝痛

馬の悪癖のひとつに、「さく癖(ぐいっぽ)」というものがある。
下の写真の様に柵や馬せん棒、窓枠などの固定された物に上顎の切歯を掛け、頭頸に力を入れながら空気を飲み込む癖のことである。
馬房にいる時間の長い競走馬等が退屈しのぎで覚えることが多く、頻繁に行うと風気疝(消化器官にガスが溜まることで起こる腹痛)を発症し易くなる、と言われている。
覚えたてのうちは矯正も可能だが、習慣化してしまうと止めさせることは難しい。

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写真から分かる通り、スぺさんにもさく癖があった。
放牧中でも食事中でもお構いなし、しかもスぺさんの場合一度に飲み込む空気の量が多く、獣医さんも苦笑してしまうほどの「ぐいっぽ上手」だった。

2年前スぺさんと暮らし始めてから、スぺさんは季節の変わり目の度に疝痛を起こしていた。
特に秋から冬にかけての昼夜の寒暖差が激しいころが最も多く、一昨年11月に発症したときには腸変位を併発してしまい開腹手術も覚悟した。
(その時の治療や経過に関しては、また別の記事に纏める…予定)

そんな厄介なさく癖だが、無理に止めさせるとかえってストレスになるのではないか?そもそもさく癖だけが疝痛の原因なのか?としばらく「様子見」、有体に言えば「見て見ぬふり」をしていた。
窓を物理的にふさいでみたり、馬せん棒を鎖に変えてみたり、さく癖防止用のクリームを柵に塗ってみたり、いくつかの対策は取ってみたが、結局のところ止めさせるなら徹底的に止めさせないと効果は無いことが分かったからだ。
例え馬房の中のさく癖ポイントを全て潰したとしても、放牧すれば牧柵がある。牧柵にクリームを塗っても薄いところを狙ってグイグイ。
もちろん雨が降れば流れてしまうので、その度に塗り直す必要があり、コストがかかり過ぎる。
そもそもスぺさんの場合は ぐいっぽしたい欲 >クリーム嫌 なので慣れてしまえばほとんど効果がない。
かといって馬房に閉じ込めっぱなしというわけにもいかず、せめて乾草を多めにあげて、出来るだけ暇を潰せる様にしてやることぐらいしか出来なかった。

ちなみにさく癖バンドも試してみたが、スぺさんの長~く空気を飲み込むさく癖に対しては効果をほとんど感じられなかった。

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放牧用の口かご(飲食可)も試してみたが、スぺさん的にかなりストレスだったのか数日で破壊されてしまった。

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「見て見ぬふり」とはいえ、こうして書き上げてみると色々試行錯誤はしていたみたいだ。
だが先ほど書いた通り、止めさせるなら徹底的に対策しないと効果がない。
馬房は窓をふさげば何とかなる。

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問題は放牧中、どうするか。

実はひとつ、「ほぼ確実に効果はあるだろう」と思いつつ費用と手間、失敗した場合のリスクを恐れて尻込みしていた方法があったのだが、昨年いくつかの切欠もあって踏ん切りがついた。

もうこれで無理なら諦めよう。そう決心して設置したのがーーー

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電気柵(電柵)である。

効果は、てき面だった。今までの苦労が何だったのかと思うほど。
初めの数日こそ何度か柵に近づきさく癖を試みようとしていたスぺさんだったが、何度か触れて感電(強めの静電気ほどのショックだが、馬は電気が苦手なので効果抜群)するうちに柵に触れること自体が無くなった。

馬房でも放牧地でもさく癖をしなく(できなく)なったスぺさん。

・疝痛を起こさなくなった。

・消化吸収が良くなり馬体がふっくらしてきた。

・放牧中一か所にとどまらず、よく歩くようになった。

・柵を壊してしまう心配がなくなった。

良いこと尽くめである。なぜもっと早くに試さなかったのか…。
牧柵には単管を使っているので、そこにどう柵線を張るのか(そのまま張ると漏電してしまう)という課題もあったが、単管の杭に絶縁体のチューブ(ホースでOK)を結束バンドで固定、その中に線を通すという方法で何とかなった。

この方法は、個人で馬を飼っている環境だからこそできたことであり、一般的な乗馬クラブさんや牧場さんではなかなか難しいかもしれない。
それでも、もしさく癖による疝痛に悩まされている馬飼いさんがいるなら、試していただく価値はあると思う。

今回設置にかかった費用は、全部で35,000円ほど。
周辺環境や放牧地の広さによって前後するだろうが、この額で疝痛を防げるなら「安い買い物だった」と、私は思う。

お読みくださりありがとうございます! いただいたサポートは全て、スぺさんの飼い葉代・馬具代に使わせていただきます。