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おかえり、マルコム。

書棚の整理をした。ここ数か月で増えたビジネス書やライフハック本をかきわけると、私のヒーローたちがひょっこり顔を出した。

私のヒーローたち

昔から、小説よりも自伝やルポルタージュが好きだった。「マルコムX自伝」、「深夜特急」、「もの食う人びと」、「インパラの朝」、「印度放浪」・・・。時代に流されない強い信念を持つ人たちは、いつも淡々と落ち着いた声で語り掛けてくる。

__1つのことに対して自分の立場を決めるなら、それを多方面から客観的に観察してから。立場を決めた後でも、間違いに気づいたら心から反省し、なぜ間違えたのかを考えなければならない___

彼らは私のヒーロー。心が乱れたときにはいつも手に取って、自分のペースを取り戻していた。

ライフハック本棚革命

2021年、Webライターを始めるのと時を同じくして、本棚革命が起こった。連絡手段は電話とFAXという法曹業界から一転、私はWebメディアの合理的で無駄のない働き方を追求するようになっていた。私の本棚の最前列は、あっという間にビジネス書やライフハック本に埋め尽くされた。

・Googleの働き方
・Amazonのすごい会議
・マーケティング手法
・ロジカルシンキング
・人を操る禁断の文章術

これらは合理的でもあり、実に本質的でもある。今までの考え方を見直すきっかけにもなった。いつしか本たちは形を失い、ブルーライトを発するようになっていった。

時代に遅れることへの恐怖

次第に私は、自分の考え方を古臭いと感じ、恥じるようになっていった。Twitterで収入報告をする若きビジネスマンたちをうらやましく思った。時代は若者が作る。時代に遅れてはいけない。若者の考え方を見習わなくては・・・。「情弱」、「働かないオジサン」という単語に少しだけ傷つきながら、底知れぬ怖さと焦りを感じていた。

しかし、違和感は常にあった。深さのわからない、足もつかないプールの中を、なんとか息継ぎしながら進んでいるような、不気味な感覚だった。

紆余曲折。

紆余曲折を経て、私は違和感を信じた。そして私にとって違和感のない道に進むことにした。
私は今、Webライターから取材・インタビューライターになろうともがいている。例え売れないライターでも、足を動かし自分の目で見たものを伝えたい。そう決めた時、心からほっとした。

私の足は、プールの底についた。かなり深いが、溺れるほどではなさそうだ。

おかえり、マルコム。

本棚の最前線に復帰したマルコムXを、また読み始めている。何度も読み返して茶色くなったページからは、懐かしいにおいがする。「私」が急速に戻ってくる気がした。

時代をキャッチアップし続けることと自分の信念を貫くことは、二律背反している。つまり、お互いに矛盾しているにも関わらず、成立する。案外自分の信念を貫いている人が、新しい時代を切り開いていったりするものだ。

時代をキャッチアップしなければと焦っていた私は、いつも時代の最後尾にいた。

「マルコムX」のキーワードでググっても、この記事が検索上位に出てくることはない。この文章は、今の私を本当に応援してくれる方にしか届かないだろう。

それでも私は今、一銭にもならない文章を、悩みながら書いている。

おかえり、マルコム。


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