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academist 公開、あれから10年

こんにちは!アカデミストの柴藤です。2024年4月10日で学術系クラウドファンディングサイト「academist」の公開から丸10年が経ちました。節目ですので「academist」の立ち上げ当時を振りかえりつつ、10年間の運営を通じて感じたことを2つの観点から整理していきます。

研究者が研究を魅力的に語る様子を日本全国に広めたい!

上記のモチベーションから研究者版TEDのような動画メディアを構想したのが2013年春。実際にプレゼン動画を撮影させていただくなかで、研究者には研究の魅力を動画で発信するインセンティブが小さいことがわかりました。「どうすれば研究者は研究の魅力を語ってくれるだろう?」と当時大学院生だった友人と考えたところ、研究の魅力を発信することで研究費が得られると良いのではないかという着想にいたり、2013年夏に研究費獲得特化型のクラウドファンディングサイトを作ることに決めました。

最初のチャレンジャーは僕の大学院生時代からの友人で「深海生物テヅルモヅル」を研究する京都大学(当時)の岡西政典さん。岡西さんに構想を話したところ「研究費に悩んでいたし、面白そうだからやろう!」と快諾してくれました。とはいえ、サイト制作を外注するお金はなくエンジニアの友人もいなかったため、自分で作ることにしました。Webサービスを作った経験はありませんでしたが、テヅルモヅルでクラウドファンディングにチャレンジしている世界を想像しながら半年かけて「academist」を作りました。(Webプログラミングの基本を教えてくれたドットインストールさんには感謝しかありません。)

2014年4月10日にサービスを公開したところ、著名人たちにもSNSで取り上げていただき、「academist」とテヅルモヅルの存在が世の中に知れ渡っていきました。ねとらぼ経由でYahooニュースに取り上げられたときは嬉しかったですが、喜んだのも束の間、サイトにアクセスが殺到してサーバーダウン。自力で解決しようとするものの解決の糸口は全く見当たりませんでした。この危機を救ってくれたのが当時利用していた決済サービス「WebPay」のエンジニアの方で、サービス公開時の恩人の一人として今でも感謝しています。

公開時の「academist」

その後もさまざまなトラブルはありましたが、たくさんの方々からのご支援とご協力をいただいたおかげで、サービス開始から丸10年を迎えることができました。現在では研究者400名以上が研究Visionを自分の言葉で発信し、そこに共感するサポーター20,000名以上から支援が集まるサイトに成長しています。「academist」で研究費を獲得した大学・研究機関は約170にものぼり、姉妹サイトの「academist Journal」には研究者800名以上の研究紹介記事が公開されています。

10年間の変化①:クラウドファンディング事業は継続できる?

当時よく言われていたことは、プロジェクトの目標金額達成時に支援総額の一部を受け取る「手数料モデル」だけで、クラウドファンディングの運営会社がサービスを継続できるのかということです。

2010年代前半の段階では、当時からクラウドファンディング業界を牽引していた「CAMPFIRE」と「READYFOR」の流通総額も小さかったため、事業の成長シナリオを描く難易度は高かったように思います。しかし2010年代後半になると、両社の大規模な資金調達に伴う組織やサービスの拡大をはじめ株式投資型クラウドファンディングの台頭等に伴い、クラウドファンディングの知名度は着実に上がり社会に浸透していきました。

モノ消費からコト消費へと言われて久しいですが、価値観の多様化と可視化が進んでいることもニッチ分野の支援を集めるクラウドファンディングが普及する追い風になっているように思います。今後も手数料モデルだけではスタートアップ的な急成長は難しいかもしれません。しかしサービス単体で黒字化を目指せるフェーズに入ったように思います。

そして2020年代はクラウドファンディングの本質をサービス内の機能または別サービスを通じて実践する「脱・クラウドファンディング」のフェーズに移ると考えています。クラウドファンディングのチャレンジャーが実践していることは「資金調達」ではなく「コミュニティづくり」であり、クラウドファンディングという言葉そのものがその本質を伝える妨げになっているからです。

「academist」はまだ赤字ですが、クラウドファンディングの大学・研究機関への浸透によるチャレンジのハードルに加え、クラウドファンディングの社会への浸透による支援のハードルが下がったこともあり、ようやく黒字化を見据えた事業計画を立ててサービスの成長を目指せる状態になりました。今後は academist なりの「脱・クラウドファンディング」を実現していく予定です。

10年間の変化②:研究支援ビジネスは成り立つ?

当初アカデミストは「学術系クラウドファンディング」の会社という見られかたをしていましたが、次第に「研究支援」の会社と言われるようにもなりました。その背景として、この10年間でLabbaseさんやtayoさん、Co-Labo Makerさん、DeSci.Tokyoさん、De-Siloさんのように民間起点で研究活動の活性化を目指す組織が増えてきたことが挙げられます。

研究支援にもさまざまな形がありますが、コアとなる仕事は「研究者や研究の価値を言語化して個人や企業に適切な形式で伝達し、伝達先に特定のアクションを促すこと」だと考えています。研究支援者には専門性が問われるため仕事が属人的になりやすく、また短期的な売上につながりにくいことから民間だけでまわしていくことは困難です。だからこそ研究支援者は国主導で育成されており、ほとんどの方々は大学・研究機関を拠点に仕事に取り組んでいるのではないかと思います。

しかし「研究支援」の取り組みを中長期的に拡大していくには、公的資金のみではなく民間資金を研究支援者に投資していくことが必要です。公的資金のみでは予算の切れ目が仕事の切れ目になることに加え、研究支援人材の流動化が進まないからです。10年前は企業内に研究支援者を採用するニーズはありませんでしたが、最近では大学と企業の大規模な包括連携やディープテック領域への民間投資の拡大など、企業の行動が変容しつつあります。これは企業が長期的視点で研究支援に取り組みはじめた表れでもあり、私たちアカデミストはもちろん国内で活動するURA1,600人の方々が活躍の場を民間に広げるチャンスではないかと考えています。

また今後は「研究支援」から「研究協働」に言葉や実態をアップデートしていくことも大切です。「支援」という言葉にはどうしても「不足しているものを補う」という意味合いがありますが、本来は研究支援者(研究協働者)は「新しい価値を社会に実装する」というマインドセットで動き、具体的なアウトプットで仕事の価値を評価されるべきだからです。

私たちはこれから「分散型研究所」の実現を通じて、研究支援者(研究協働者)がプロフェッショナルとして活躍し、多様なステークホルダーとともに研究者の研究Visionを追求する仕組みを作っていきます。

これからのアカデミスト - 分散型研究所の実現を目指して

10年間の成果を一言で表すと、学術系クラウドファンディングの社会実装を通じて「学術系クラウドファンディング」と「研究支援」の枠組みを超えて研究者と新しい価値を共創する基盤を整備できたことです。この先にあるのは、研究Visionを起点に多様なステークホルダーが集い研究を推進する「分散型研究所」の実現です。

分散型研究所では、研究者の研究Visionを起点に多様なバックグラウンド持つ人たちが集い、コミュニティ全体で新しい価値を継続的に生み出すことを目指します。たとえば「AI for Science」をコンセプトに研究者や研究協働者がVisionを掲げ、関心を持つ研究者や研究協働者、起業家、VC、事業会社の方など100名程度で研究コミュニティを構築し、Vision実現に向けた研究活動を進めていくイメージです。この仕組みをWeb3の思想と関連テクノロジーを軸に展開していきたいと考えています。

また分散型研究所の実現には思想とテクノロジーに加えて、研究Visionを掲げて研究所を率いるリーダーとそこに参画する多様な個人や企業が欠かせません。そこで2024年度は「3つの1,000」を掲げて既存事業を推進し、分散型研究所の構想を具現化していく予定です。

  1. 1,000 True Fans:academist Prize 第4期のチャレンジャーの募集を2024年6月4日より開始します。テーマは「1,000 True Fans」。それぞれのチャレンジャーが研究活動を応援するファン1,000人つくることを目指します。ご関心のある方はアカデミストの公式Xをフォローのうえ、続報をお待ちください!

  2. academist Crowdfunding:アカデミスト初となる目標金額1,000万円のプロジェクトの実施を目論んでいます。チャレンジにご関心のある研究者の皆さんからのご連絡をお待ちしています

  3. academist Grant:研究者との価値創造を目指す企業さんと研究助成プロジェクト(研究費総額1,000万円)を実施したいと考えています。少しでもご関心のある方はこちらよりご連絡ください!

最後になりましたが、これまでに academist にご活用いただいた研究者・大学院生の皆さま、大学・研究機関の皆さま、サポーターの皆さま、事業会社の皆さま、ありがとうございます。また、Team academist のメンバーと、これまでアカデミストの価値向上を共にしたOB・OGメンバー、そしていつも支えていただいている株主の皆さまに、改めてお礼申し上げます。

ひきつづきVisionである「開かれた学術業界(Open academia)」の実現に向けて邁進していきます。最後までお読みいただいた皆さま、今後ともさまざまな協働をご一緒させてください!


アカデミストでは「Open academia」を実現するスタッフを募集しています。少しでもご関心のある方は、お気軽にご連絡ください!

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