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共通言語と動作の習得


共通言語の目的とは?

 昨年の夏頃から、共通言語の段階について考えるようになった。それは、指導をする中で、「この子はどれくらい理解してくれているのか?」「どの程度体現できている/しようとしているのか」と共通理解を深めていった先に共通言語が生まれると感じたからだ。引いては、この共通言語によってパフォーマンスを高める動作・スキルを習得してくことに繋がる。

 「共通言語」はスポーツ限らず、ある集団に置いての認識を揃える上で相違のない状態・表現である。個人間、チーム内においても「あれ」が指す意味に相違がないことである。

選手とコーチの意思疎通をはかるものであるし、チーム内疎通をはかるものでもある。「あれ」と言ってお互いのイメージが相違ないことが共通言語であると考えている。

 定義されている言葉あっても、環境が変われば意味する動作や評価が変わってくる。例えば「Push」という言葉も「地面を押す。」「地面に加える。」「地面をタイミング良くキックする。」「乗り込む。」「股関節伸展動作を速くする。」など同じ言葉「Push」という表現であっても意味することが若干異なる。このどれもが私自身が出会ってきた指導者や選手が実際に言っていた「Push」である。いずれの表現も疾走中の接地局面についての動きについて言及する表現であり、地面に対する鉛直成分を高めより大きな力を地面に加えるための動きになる。今回はどれが正解であるかということを言及していきたいということではなく、どれもが環境によっては正解になりうるということだ。

 パフォーマンス向上・改善に向けては選手と指導者の共通認識が不可欠である。
両者の認識の相違点を確認し、修正していく。時には、お互いのマインドセットの再構築の作業も必要とされる。この相違の確認・修正・反復によって、スキルとして習得される。このサイクルをいかに効率良く回していけるが、アスリートの成長速度に関係し、お互いの理想へ近づくプロセスだと考えている。
 センスのいい選手はこの微細な変化を感じ取れ動きを変化させられ、センスのいい指導者は選手の理解しやすい表現・環境の設定を用意できる人なのだろうと思う。

4つの段階

 共通認識を作り、動作を習得していく過程には4つの段階があると考えている。

①指導者の言っていることがわからない。
②指導者の言ってることがわかるが体現できない。
③指導者の言っていることはわからないが、体現できる。
④指導者の言っていることも理解し、体現もできる。
 
 ④を理想としそこを目指す過程に①〜③の段階があると考えている。しかし、③はいわゆる天才タイプで、過去の運動経験などからなんとなくやってみたらできた。熟練者の動きを真似てみたらできた。指導者の意図することを自身の理解が及ぶ前に体現できるパターンである。天才でなくとも比較的少ないトライでできてしまう経験を皆さんもしたことがあるかもしれない。しかしながら、なぜ自分ができているかを説明できないので、一度ズレてしまうと修正に時間がかかる場合もある。

 私が指導するレイヤーはジュニア世代が多いので①&②の段階の選手が多い。①の段階ではどのような動きをするか言葉で説明しても理解できないことが多く、まずはやってみる。やってみる中でうまく行うためにはどうしたら良いかを思考できるような感覚を養うことに重きを置いている。例えば、体の真下に接地するハイニーを行いたい時には横向きに行う。こうすることで前に急いでしまう動きを制限でき、体の真下につく確率が高まる。このような環境設定を用意することを意識している。
 また、正解とする動きだけではなく、不正解の動きを交えることで、正解とする動きの輪郭を形どっていく。大学先輩の高平さんに「足が遅くならない方法を知っておけばそれをやならければ遅くなることはない。」とお聞きしたことがあり、エラーとなる動きを覚えておくだけで結果的に正解の動きに近づけるかもしれないと考えるようになった。
 続いて②の段階である。小学生の高学年、中学生、高校生、はたまたシニアの選手に至っても②の段階を経由する。②の段階は2つのパターンに分けて考えている。

  A:エラーが自覚できない。 
  B:エラーが自覚できる。

同じ②の段階ではあるが、このAとBには大きな違いがある。
 チームメイトの山村はコクピットのエラーと表現していたが、うまい表現だと思う。Aはまるでコクピットが機能していない状態である。右に舵を切っているのに左に旋回したり、上昇していると自覚しているのに下降していたり、コクピットが機体のコントロールを失っている状態である。
 一方で、Bはコクピットは機能しているものの機体のコントロールが効かない状態である。この方向に進むように舵切りをしながらも機体が反応しない。そして、反応しないことを認識できている状態である。

クロックポジションで考える

 クロックポジション(アナログ時計を用いて方位を示す。正面が12時になり、6時が真後ろを指す。)で考えるとよりわかりやすい。
 3時の方向(右)に曲がりたいとしよう。Aではこの時に「3時の方向に行く」ということを理解しているが、2時や9時の方向に進んでしまっているがそのエラーに本人が気づけていない。出力に対する正確なフィードバックを得られていない状態である。これでは間違いに気づくことができない。
 Bでは、「3時の方向に進む」ということ理解しているが、2時や5時の方向に進んでしまっていることに気づけている状態である。自分が行った出力に対して、”正解とズレている”ことを理解することができている。この状態であれば、意識やイメージを変えることで正解に辿りくことができるだろう。十種競技出身のタレントの武井壮さんもお話されているが「身体を自在に操作できることが最強のスキル」というのはまさしくこのことだと思う。
 
 しかしながら、Bの状態にあっても正解に辿りつけないことがある。動画をコマ送りにしてポイントをチェックしても、理想とする動きとほぼ変わらない。しかしながら、実際に見るとそうではない。または、比較的ゆっくりなドリルなどではできているのに競技の速度で行った場合には理想の動きには届いていないことがある。これはサイズの原理(強度に合わせて選択的に筋繊維が動員されていく)で説明できる。その動作を行った際の出力でコントロールできない、そもそも理想とする動きに対してのフィジカルが不足しているために起きている。Bの状態では、フィジカルレベルがスキルのレベルを決定づけているとも言える。外見的な筋量だけでなく、支えるための関節や腱の強さも含めてのフィジカルである。

古代ローマから続くクラシックなトレーニングを。

 SNSの発達により多くの良いお手本を目にすることができる。もちろん私も自身の競技に、指導に大いに役立っていることに違いない。しかしながら、動きを真似することでコーディネーション能力は高まってもスキルが高まることは少ないように思う。コツを求めてしまう気持ちもわかる。私も苦手な英語については「スピーキング コツ」などとつい検索してしまうが、その度コツというより基礎の積み重ねた上でのスパイスなんだなと思う。陸上競技も同様に、コツを求めてしまうが自分自身と向き合い、試行錯誤を積み重ね、フィジカルを強化した先に目指すものはある。

 NBAの伝説的となっているコビーブライアント選手のトレーナーを務めたティム・グローバー氏のフィジカルトレーニングについて語るこの動画をぜひ見てほしい。


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