本気の遊びが本気の子供を育てる〜Accel Kidsの歩み〜

新しい陸上競技の形

 2012年、社会人の陸上競技クラブ「Team Accel(現:Accel Track Club)」を創部しました。もう10年前にはなりますが、当時私の目から見た陸上界は強豪の実業団チームではないと競技はできないように見えていました。私たちのような社会人フルタイムアスリートは極少数だったように見えました。

 そんな中、強豪実業団チームと渡り合うような新興勢力が出てきました。
現在はプロスプリントコーチとして活躍される秋本真吾さんが率いていたimaや都内で小学生〜シニアまでのクラブチームとして活動していたNew Mode(現ユメオリ/Roots)などが新興二大勢力として強豪と鎬を削っていました。

 既存の実業団チームに所属するには世界レベルに準ずる競技力が必須でした。そこに至らない場合には、どのように競技を継続するのか不透明でした。この2つのチームがこれまでにない在り方や戦い方を示してくれ、とても感銘を受けました。

なければ作ればいい。
競技レベルがそこまで高くなくても競技が好きならば身の丈に合ったサイズでチームを持てば良いのではないか?


 そんな安易な発想から大学の仲間と共にノリと勢いで創部したのが社会人陸上競技クラブチーム「Team Accel」です。
千葉県選手権でリレー走れたら良いよねくらいのテンションでした。

 そこから早10年。
2015 全日本実業団陸上競技選手権 100m 優勝(草野誓也)
2017 アジア陸上競技選手権 10種競技 準優勝(川崎和也)
2018 全日本実業団陸上競技選手権 400m 優勝(板鼻航平)
2019 全日本実業団陸上競技選手権 1600mR 準優勝 男子総合5位
2020 全日本実業団陸上競技選手権 100m(草野誓也) 400mR 1600mR 優勝      日本選手権リレー 400mR出場 1600mR 第6位
2021 シレジア世界リレー日本代表(草野誓也・板鼻航平)
   全日本実業団陸上競技選手権 400mR 9/10年 1600mR 10年連続入賞

 おかげさまで創部時にイメージの遥か上をいく成績をスプリント種目を中心に収めることができました。
まだ道半ばではありますが、様々なライフスタイルで陸上競技に関われるような場所を作りたいと思っています。

「本気の遊びが本気の子供を育てる。」

翌年の2013年には、「Accel Kids」が発足しました。千葉県習志野市を拠点に、小学生を対象としたクラブです。
 社会人チームの方はかなり競技性を求めるクラブになっていますが、キッズチー
ムでは全く求めていません。私たちのことをご存知頂いている方からは、社会人チームのイメージもあってかキッズチームでも専門的な練習に取り組んでいる印象を持たれることが多いですが、全くそんなことはありません。

 陸上競技をゆくゆくを選んでくれたら嬉しいなという気持ちではありますが、この活動を通じて自分自身が「本気になるってどういうことだろう?」というのを学んで欲しいなと考えています。そんな思いからキッズチームのコンセプト「本気の遊びが本気の子供を育てる。」が生まれました。
 週1回の活動では陸上競技らしい練習は1/3程度で、あとは体を使った運動“遊び”がメインです。概ね練習はドッジボールに始まり、手押し車や逆立ちなどの体を操ること、リズムとジャンプを取り入れ、簡単なスプリントドリルを行い、リレーで終わる流れになります。陸上クラブというにはおこがましいくらいの内容です。子供たちに養ってほしい能力、運動量を確保し、前のめりになって参加できるような取り組みを心がけています。 

①運動神経抜群の馬跳びができない5年生

”本気の遊びが本気の子供を育てる。”
 
このような活動に至った背景には、3つの理由があります。
 1つ目は、「サッカーは上手なのに馬跳びができない5年生」に出会ったことがきっかけでした。リフティングは軽々100回以上でき、サッカーチームでもレギュラーを取るようないわゆるスポーツ万能少年でしたが、二人組で行う馬跳びができませんでした。彼が持つサッカーのスキルよりも遥かに簡単で、基礎的な身体の扱いができないことに驚きました。
 サッカーや陸上に限らず、今は様々なスポーツにおいて体系だった指導が行われるようになってきました。SNSの普及も相まって、真偽はともかく情報を集めることが苦ではなくなりました。その結果、最短距離で成長確率が高い指導がなされているようになり、以前よりも世界で闘うアスリートが増えてきたなと思います。
 一方で、専門性を早期に求めるあまり、その年代で身につけておきたい運動感覚やスキルが不十分なままではないかと思うようになりました。特に、陸上競技では筋力的な土台があって初めてできるスキルもあると思います。専門性を高めることよりもたくさんの運動をして、身体の土台を作ることの方が大事だなと考え、運動量を確保する→子供の主体性を引き出す→練習よりも遊びの練習の方が夢中になれる。=”本気の遊び”と変換され、Accel活動を行っています。

②苦手≠嫌いではない

 2つ目は、活動当初参加してくれた子は決して運動能力が高い子ばかりではなく、クラスでは埋もれてしまうような子供が多く在籍していました。自己記録を目指して!運動会で1等賞を目指してといってもなかなかピンとこない子達です。
 だからといってその子たちは運動が決して嫌いなわけでも、苦手だと自覚しているわけではありません。他者との比較によって、自分は苦手なのかもと思ってしまっている子たちでした。リレーの選手になるような子だけが走ることが好きなわけではなく、クラスで下から数えた方が早い子でも案外走ることは好きだったりします。練習後に、50mを測ることがあるのですが、タイムを更新しようと何度も何度も走り1時間近く挑戦することもしばしばあります。運動能力がそれほど高くない子でも走ること自体が嫌いなわけではないことに気づきました。苦手についても同様でマット運動は苦手だから後ろ向きでも、ドッヂボールだけは目を輝かせて参加する子もいます。苦手なものはあっても身体を動かすことが嫌いなわけではないことを彼らを通じて教えてもらいました。
 苦手でも、嫌いでもないなのであれば、こちらの工夫でそれならやってみたいという練習を用意すれば子供たちは参加してくれます。ゲーム感覚ででき、こちらが少しでも運動機会や体性感覚を養ってあげることができれば、知らず知らずのうちに能力が向上していきます。このように腿を上げてといってもなかなか伝わらないことも、ミニハードルなどをおき、メトロノームのリズムに合わせて超えてと伝えるとこちらが意図する動きを引き出せたりします。
 子供たちが夢中になれて、こちらが意図する動きを引き出せるか。毎回の練習が子供たちとの戦いです。

③”つぶし”が効く能力

 3つ目に、指導する上で重視している能力についてです。
 この秋で10年目を迎えるAccel Kidsですが、中学、高校で陸上に入った子は10人ちょっとです。陸上以外のスポーツに進む子もおり、それはそれで「やってみたいこと/やりたいこと」を見つけることができているんだなと思います。現に小学校ではあまり運動が得意ではなかった子が、テニスの道に進み県大会でも上位に行くようになり、スポーツ系の大学で続けたいという子も出てきました。
 この子のように、どのスポーツを選択するか分からない中で、伸ばすべき能力は何か?を考えるようになりました。多くのスポーツに共通する動きは何かを考えた時に、股関節を使わない種目は少ないだろうと思い、股関節の屈曲・伸展力を高めようということに行き着きました。スポーツテストで言うところの「立ち幅跳」の能力です。静止した姿勢から、一気に股関節を伸展させる動き、能力はどのスポーツでも役立ち、また後追いであまり変化しにくい能力かなと感じています。遠くに飛ぶためには筋力的な要素も必要ですが、股関節の屈曲の深い位置から一気に力を発揮する感覚を養っておくことはジュニア期から取り組んでいいことかなと考えています。これが専門化していった時に、物体に力を作用させる感覚、体を移動させる感覚を養う際に役立つのではないかなと考えています。

習い事は”Accel”

 以上がAccel Kidsの活動の紹介になります。冒頭で書いたように陸上クラブと呼ぶより運動クラブと呼んだ方が適切かもしれません。私たちが思っている以上に、たくさんの可能性を子供達は持っていますし、子供達が知っている以上に世界は広いです。大学の恩師に「何かに集中することは、その他の可能性を捨てること」とお言葉を頂いたことがあります。何にでもなれるところから〇〇なりたい。と思える何かに出会って欲しいと思います。
私たちが陸上競技に熱中してしまったように。
 最後に、笑い話にはなりますが子供たちが陸上競技を習っているとは言わずに「Accelを習っている」と友達に言うようです。子供達がいう「Accel」の輪郭は掴めませんが、私たちの想いが少し伝わっているのかなと思います。
Accelで育った子供たちが陸上競技に限らず活躍する姿を楽しみに活動を続けて行きたいと思います。

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