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【乙庭植物図鑑】20230125 エリシマム ‘レッドジェップ’ (Erysimum 'Red Jep')

これまで、著書や歴代ブログやwebメディアなど、さまざまな媒体に植物の解説を書いてきましたが、結構情報が散逸している状態になってきたので、マイペースではありますが、note.に私の植物や植栽に関する知識をまとめていきたいと思います(ライフワークにできたらいいな😊)。

今日は、乙庭農場でもぽつらぽつら開花が始まった、冬場のメタリックなダーク葉色と咲き進むにつれ花色が変化していくド派手めな花色がたいへん乙庭好みな植物 エリシマム ‘レッドジェップ’  を紹介します。

撮影:2023年3月17日

エリシマム ‘レッドジェップ’  は、早春〜春にかけて、濃厚派手なオレンジピンク色で咲き始め、咲き進むにつれ赤紫〜紫に花色が移ろい、1株で複色咲きのようになる美しい花を楽しめるだけでなく、特に冬の寒さに当たると色みが冴えるダークグレーメタリックがかった深緑色の葉も素敵でたいへん魅惑的なアブラナ科の宿根草です(日本の気候では夏の高温多湿で弱りやすく短命になりやすい)。

エリシマム属は、世界で80種ほどの原種が知られ、ヨーロッパを中心とするユーラシア、北アフリカや北アメリカなど広範囲に分布が見られる属です。

エリシマムの仲間ではニオイアラセイトウ、あるいはチェイランサスの名で知られる一年草タイプのエリシマム ケイリィ(Erysimum cheiri)などが、園芸の分野でも色鮮やかで香りの良い花が好まれ古くから観賞用として植えられてきました。

城壁や石垣のような石のすき間などでもよく育って色鮮やかな花を咲かせることにちなみ、英名で「ウォールフラワー」と呼ばれます。

私が自身の園芸人生の中でもとても大切に思っている一冊の本、映画監督 デレク・ジャーマンが人生の最期に作った庭の記録「Derek Jarman's garden」にも、荒野の自然と彼岸が融合したような庭の植栽に、彼の庭を象徴する植物、海キャベツ(Crambe maritema)やカリフォルニアポピーなどとともにウォールフラワー(=エリシマム)も植えられていたという記述が散見されます。

石垣の隙間のような乾いて厳しい環境に耐えて、鮮やかな花を咲かせる性質にデレク・ジャーマンの植物の好みを窺い知ることができますね。

日本では、エリシマムは、常緑性でまだ寒さが強い早春期から鮮やかな花を咲かせることから、冬〜春の庭を彩る一年草扱いでビオラやストックなどと同じように園芸店でも流通します。

撮影:2023年3月22日

本種 エリシマム ‘レッドジェップ’  は、エリシマムの中でも多年草タイプの品種で
ド派手なオレンジピンク〜赤紫〜パープルへと移ろう濃厚な花色によって複色咲きのような様相を呈す花姿が面白い品種です。

派手な花色に反してアブラナ科らしい4弁の素朴な花容は、とても親しみやすく春を謳歌する庭にとてもよくなじみます。

撮影:2023年3月8日



冬期常緑性で、ウィンターガーデンに緑を添えてくれる素材でもあります。
本種は、ややダークグレーメタリックみを帯びた深い緑色の葉色も美しく、この葉色は特に冬の寒冷期にこっくりと色濃くなり濃厚派手な花色とのコントラストも
パンチが効いていて美しいです。

多年草タイプのエリシマムは、年数が経つと下葉が枯れ上がった幹が露出して
枝ぶりが楽しめる樹形のような姿になり、寄せ植えなどにつかうと盆栽的な樹形効果も演出できます。

撮影:2024年1月23日 暖冬傾向のせいか今年はとても早く開花しはじめました。

冬〜春にかけて、ビオラやハボタンなどのいかにも系 冬の彩り素材やチューリップなどの春咲き球根類と合わせても確実によく似合いますし、もう少し趣向を凝らして冬のリーフ素材として楽しめるアブラナ科の冬野菜 ケール ネロディトスカーナ、パウダリーな灰紫色の葉が美しいキャベツ レッドヒューゴ、春の花モノとしても楽しめる野菜、コールラビ デリカシーパープルや穂先ブロッコリー アーリーパープルスプラウティング など葉や花が美しい冬野菜と合わせて、アブラナつながりのポタジェ的な美しさを強調しても楽しいですし、ユーフォルビア、セリンセなどと合わせて、春のオーナメンタル植栽に加えても美しいでしょう。

比較的短命になりやすい多年草で、数年立つと株が老化してくるので、花後の大胆な切り戻しや挿し木をすることで、株をリフレッシュすることができます。

また、エリシマムは夏の高温多湿が苦手です。水はけの良い乾燥ぎみの場所、夏の厳しい西陽を避けられるような場所で、風通しよく管理するとよいでしょう。


■ エリシマム ‘レッドジェップ’
■ 学名 : Erysimum 'Red Jep'
■ アブラナ科 耐寒性宿根草 冬季常緑性(日本の環境では短命になりやすい)
■ 花期 : 冬〜春
■ 草丈 : 30~40cm程度
■ 耐寒性 : 強い
■ 耐暑性 : 強い
■ 原産地 : アメリカ南部


最後に私 太田敦雄の著作や掲載誌をいくつかご紹介します。
2024年1月16日発売(本記事執筆時点では発売前)のガーデニング雑誌「Garden&Garden vol.88 (Spring 2024)」。
巻頭特集「風景ガーデニング」にて、私 太田敦雄 / ACID NATURE 乙庭 を8ページにわたり掲載いただいています。私の設計案件の中でもこれまで一般誌で解説紹介していない2つの住宅を実例に写真豊富に、自分が思い描く植栽風景を形にしていく思考のコツなどについて解説しています。私のページ以外も人気ガーデナー、ガーデンデザイナーさんの多様な植栽事例をお楽しみいただけます。


私と、おぎはら植物園の荻原範雄さん、フローラ黒田園芸の黒田健太郎さん・和義さんご兄弟との共著作「グリーントータルプランツブック」。前半の1/3を私が執筆担当しており、実例も交えた植栽論と植物の解説をしています。


私の最初の著作本「刺激的・ガーデンプランツブック」は、出版社のご都合で現在絶版となっていますが、この本に書いた内容も含めて、今後の出版物に盛り込んで、なんらかの形で情報としてこれからも手に入るようにはしていきたいと思っています。


noteの「乙庭植物図鑑」では、これまでの著書では解説していない植物も積極的に取り上げていく予定です。
自分だけの特別なお庭造りの参考になれば幸いです😊✨




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