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機微

しゃんしゃんしゃん。心地よく刻む鐘の音。境内に響く笑い声。
新しい年を迎えた日の朝は「清々しい」という言葉がよく似合う。
ツンと冷たい風は私を律し、気持ちを新たにしてくれる。

空は快晴。雲ひとつない。
冬の澄んだ空気に光が反射して、辺りがきらきら光って見える。
まるでガラス玉をちりばめたかのようだ。

ー今年はどんな一年になるだろう。
淡い期待と少しばかりの不安を胸に参拝の順番を待つ。

思えば去年は目まぐるしい一年だった。
環境が変わり、周囲の人も変わり、私自身も変わった。
いいことばかりじゃなかったけど、けっして悪くはない一年だった。
お世話になった人たちの顔が浮かぶ。
くだらない話で笑い転げたり、べろべろになってみたり、
まぶたを濡らした夜は朝までつきあってもらったっけな。
大抵のことはそつなくこなせるつもりだけど、
こと人間関係においてはびっくりするくらい不器用でお行儀よく悩んでしまうから、
離れずいてくれる人たちのことはちゃんと大切にしたい。

そんなことを考えていたらあっという間に私の番がやってきた。
背筋をぴんと伸ばし、ゆっくり丁寧に手を合わせる。
ー紡いできた縁には目一杯の感謝を。
ーこれから結んでいく縁にはささやかなご加護を。

赤い鳥居をくぐろうとしたその時,ポケットの中が小さく震えた。
ふと覗き込んだ画面にはよく知った名前。
思わず頬がほころぶ。
予感が確信に変わる。
石段を下るその足取りは軽い。

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