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理想のキッチン探し㉜光が丘

 家を買うことはあきらめても、10年の定期借家権の期限までには、今の部屋を出なければなりません。私が納得する部屋を見つける大変さを実感している夫が、「とりあえず勉強を兼ねて」と、町と部屋を吟味するために、URの物件が出たという練馬・光が丘へと誘います。前から光が丘の話は出ていたのですが、何となく団地だらけのイメージに抵抗感があって、前回は行きませんでした。でも、URは何しろ更新料なしで、うるさく人を値踏みする営業マン・ウーマンがいません。頑丈でキッチンの設備はいい。そこで、行ってみました。

 光が丘の駅周辺は予想以上に団地だらけです。URの営業マンの人によると、分譲の民間マンションも多いそうです。あまりに広大なマンション群に「ここは昔、どういう場所だったんですか?」と聞いたら「飛行機の滑走場だったらしいです」とのお返事。隣の練馬一の規模を誇る光が丘公園は、米軍基地跡。都区内でもそうした広大な敷地を確保できたときがあったのですね。そもそも、練馬は巨大な団地が多い印象があります。令和の今も、新興住宅地のたたずまいが残っており、更地やら建て替えやらも多い。それは、農地だったところも多いからでしょうか。

 駅前はビル群の中にショッピングエリアがあります。イオンとかの大型スーパーが二つほど。手土産になるエキナカ店みたいな食品ブランドが並ぶコーナー、質のよさそうなちょっと割高の鮮魚店、八百屋、肉屋が並ぶコーナー、紀ノ国屋が入ったところ、さまざまなファッションブランドが入ったフロア、書店、ユニクロ、無印、レストランフロアと、駅ビル的な一通り必需品がそろったビルがあります。

 光が丘公園は広大で桜が咲きかけ。ピクニックを楽しむ人たちもいます。フリーマーケットも開催中。大きな図書館は、「練馬一巨大で、蔵書と音楽関係のそろいがいいらしい」と夫。

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 巨大な団地群という、庭もなく均質で圧倒的なビジュアルさえ慣れれば、こんな便利なところはありません。大江戸線に乗れば、新宿、神楽坂、六本木、青山、清澄白河など行き放題です。電車の音が乗っているときに、かなりうるさいのが気になりますが……。

 物件は、遊歩道を通った公園内のマンション群の中にありました。1階角部屋で、入り口を入ってすぐ。木立があるので、窓からの眺めはどの部屋も素敵ですが、自転車置き場や歩道が目の前なのでちょっと人目が気になるのと、木立のせいで日当たりがいまいちなのが気になるところです。

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 広さは77㎡の3DK。梁が少なく天井高が2400ちょっとなので、今、天井が低くて床に置かざるを得ない本棚の上置きを再び本棚の上に置くことができそうです。ただ、ガスの空調が各部屋に置いて壁の一部を占領しています。あと、お風呂は廃熱を利用して沸かすので追い炊きができないそうです。キッチンと洗面所はきれいでしたが、お風呂は前の部屋みたいなシンプルなFRPで、暖かさがちょっと心配。窓の景色がよいけどいまいち暗くてお風呂がというと、前の部屋と条件が似ています。ここに住んだらまた冷え性が戻るかもしれません……。

 キッチンは3.9畳。廊下とリビングに通じる2ウェイ動線で、今の部屋とあまり変わらない感じですが、棚を二つ減らさないと入らないです。コンロの横がベランダへの勝手口になっていてドアはガラス。便利なのか寒いのか微妙なところです。部屋は南向きなのでドアの位置は東側かな。3口ガスコンロでキッチンの幅も2500ぐらいと今より少し幅があります。収納が引き出し式で一番下も入るので、収納力はアップしますが、引き出しがでかいのと、せっかく買ったコンロ下収納を全部捨てないといけなくなりそうです。

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 図面上はこんな感じ。

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 微妙な感じです。今の部屋は80㎡弱。3㎡しか違わないはずなのに、どうも廊下もキッチンも狭く感じます。実際には私が仕事部屋で使っている部屋が6.5畳で寝室も同じなので、それぞれがゆとり分の0.5畳ずつ減らしたらちょうど合うはずなのに……。

 何より、周りが全部団地というのが……。夫は「慣れる」と言うのですが、昔から均質なものが並ぶ光景が苦手なんです、私。結局どこに住みたいのか、という話になり、私は考えてみれば、東京に来て「ここに住みたい」と強く思った場所がないことに気づかされました。だからこそ、物件を手掛かりにあちこちの町を巡り、そこで暮らしたいかどうかを考えなければならない、と夫は言います。

 同時に、何だか急速に時代に置いて行かれている感があります。商店がほぼなく飲食店も少なくカフェももちろんない駅前、あるいは商店街はあるが生鮮食品など生活必需品を扱う店がほとんどなくチェーンの居酒屋とドラッグストアだらけになってしまった駅前、便利かと思えば巨大チェーンが入った駅ビル群。昭和な商店街を実は私は求めていて、そういう町が少ないこと。あっても私と同じような希望を持つ人が多いためか、その手の町はだいたい物件が高い。暮らしが変わり続けるこの数十年、巨大化しなければ店は生き残れないし、そうするとモノも店の雰囲気も画一的になってしまう。個人の店がやっていきづらくなっている中で、町や店に個性を求めること自体が贅沢になってきている気がします。自由が丘や下北など観光客を集める人気の町は個人の店がありますが、おしゃれだけど実用的ではない雑貨屋やら、あきらかに観光客向けの店だらけになって、「昔はいい町だったんだけどね」と昭和世代に言われる状態になってしまいがち……。

 エリア的にも制約があります。私は東側エリアはアウエー感があり、夫も城南・横浜エリアの光が好き。関西人が西のエリアを求めて住むのはなぜか、私たちは痛感しています。しかし西は家賃が高め。郊外へ行くと安めになりますが、やはりフットワークや刺激を必要とする職業柄、あまり遠くへは行けないことが、大船に行ってみて痛感しました。

 それと、3月になって物件巡りを再開してから、夜あまり眠れなくなっていました。今の部屋を見つける去年も、やはりつらかった。それはなぜか、夫とよく話し合いました。不動産を探すと、どうもサラリーマンと主婦でないこと、子どもがおらず私がフルタイムで働いていること、フリーランスであることなど、選んだ生き方が間違っているような気にさせられます。そうした一般的な基準で不合格な自分、というモノを突き付けられる。ふだん評価されている作家としての自分がどこかへ行ってしまう感じ。世間的な「当たり前」に自分を無理に合わせようとして落ちこぼれ感を抱かされてしまうことに、ようやく気付きました。だから、自分はダメな人間だと思ってしまったんだと。

 私が求める町は、個人商店があって、個人のカフェや気取らない食事ができる店があること、可能なら本屋もあること。そして緑があって、駅から15分以内で、渋谷から(夫がメインで行く場所)40分以内、そして家賃が高くない物件であること。キッチン以前の問題が浮上してきたのを意識しながら、まず理想の町探しから始めなければなりません。

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