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大石Dの稽古場潜入レポート

こんにちは。「既成戯曲の演出シリーズ」ディレクターの大石です。
先日、『特急寝台列車ハヤワサ号(以下、ハヤワサ号)』の稽古場にお邪魔して、通し稽古を見学してきました。
上演を楽しみにしていただくための読み物として、その時の稽古場の様子を潜入レポート風にまとめました。

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18:50
『ハヤワサ号』の*通し稽古を見学させていただくためにKAIKAにやってきた。稽古場にお邪魔するのは初めてなのでとても緊張している。なんせ面識のある人がほとんどいない現場なのだ。
 (*本番と同じように全てのシーンを最初から最後まで”通して”行う稽古。)

稽古場は18時ごろから開放しているらしく、すでに演出の山口さんや役者の方々が集まり、アップをしたり、段取りを確認したり、新しい小道具の確認をしたりして過ごしている。

そして、稽古場に入った私は、思わず口にしていた。
「人、めっちゃ多いな…!」

すでにチラシやSNS等で発表されているように、ハヤワサ号は出演者がめっちゃ多い。
THEATRE E9 KYOTOのここ1、2年の上演記録をいくつか見てみると、だいたい5〜10人ぐらいの作品がほとんどであった。
昨年、この既成戯曲シリーズで上演した『アルカディア』は出演者数が12名で、それでも多い方ではあるのだけど、今回の出演者はなんと28人である。

28人。ちょっとした学級だ。

さて、この時点ではまだ全員は揃っていないが、だいたい15人ぐらいは集まっている。すでに『アルカディア』よりも多い。

19:15
稽古が始まり、現在は山口さんの号令の元、チームごとに別れて情報共有を行っている。

チームごとの話し合いの様子

今回は出演者が多いこともあり、他の作品の稽古や、仕事の都合などで全員が揃っての稽古ができないこともしばしばあるらしい。
そこで、各チームごとに稽古で決まった段取りなどを共有する時間を設けているらしい。

ちなみに、どのようなチーム分けになっているかは下の記事を参照ください。
個室寝台チーム
開放式寝台チーム
地理学・気象学チーム
哲学チーム
天文学チーム
形而上学チーム

19:30
本日出席できる役者が全員集まり、山口さんからいくつかの方針が示された後、ついに通し稽古が始まった。
ハヤワサ号はすでに戯曲として出版されている作品なのでネタバレということも無いとは思うが、なるべく演出的にも作品的にも核心的なことには触れないよう書いていきたいと思う。

——余談ですが、「先に戯曲を読んで行く」という見方も既成戯曲を観劇する際の楽しみ方の一つだと思います。
劇書房の『ソートン・ワイルダー一幕劇集』が一番手に入りやすいかと思いますが、それでもすでに絶版している書籍なので、図書館等で検索してみてください。京都府民の方は京都府立図書館で借りることができますので、興味ある方はぜひ。

さて、そうこう言ってる間にシーンが進んでいる。
この作品はニューヨークからシカゴに向かう寝台列車の客室のシーンから始まる。
舞台上にはパイプ椅子と丸椅子が並べられて、何人かの役者がそこに座っている。どうやら椅子たちは客室のベッドに見立てられているようだ。
ワイルダーの作品にはよく”見立て”が用いられている印象がある。「なぜ見立てをよく使うのか」について話し出すと長くなるので割愛するが、なんにせよワイルダーの作品は”見立て”が多い。
ハヤワサ号の戯曲にも*ト書に「椅子を用いる」というようなことが書いてある。
 (*脚本でセリフの間に書かれる、役者の仕草などを書いたもの。)

この椅子たちは本番でも使われるのか、あるいはあくまで稽古場用のもので本番用に新しい椅子が用意されるのか。使われる椅子の質感によっても作品の見え方が変わる可能性があるので、本番が楽しみだ。

客室の人々は思い思いに過ごしており、大きな事件が起こらない、淡々とした空気が流れている。いわゆる「会話劇」といった印象で、役者の細やかな動きや、役者間のやり取りを楽しんでいた。
しかし、ある役の身体に異変が起き、舞台監督がシーンを止めてからは大きく芝居の流れが変わってくる。
「オハイオ州グローバーズ地方」「野原」といった役や、挙句の果てには「木星」や「10時」といった役まで登場する。
そうなるともはや「会話劇」という枠組みを大きく超えてくる。
ぜひ劇場で目撃していただきたいのであまり詳しくは書けないが、大石は「ほほお〜」「うわあ〜!」「わはははは」「はあ〜」など、(通し時点では)1時間弱という上演時間の作品とは思えないぐらいの濃密さとジェットコースターのような展開に振り回されていた。単なる会話劇に留まらない、色んな”演劇”の形が混在していて、まるで闇鍋のような作品だ。

通し中の一場面

20:XX
通し稽古が終わり、休憩時間になった。

先日の記事で「(この作品を通して)見えないものに目をむけるキッカケになれば」と書いた。
この作品は12月21日から22日にかけての物語だが、ワイルダーは本当の所どこまで意図して書いたのかは分からないが、少なくとも今回の通しを観て、ものすごく”年末感”を持った。
作品に含まれる様々なシーンに触れて、ふと、今年あった事、これまであった事、これからあるであろう事、そんなものたちに思いを馳せることになった。

さて、休憩時間が終わり、山口さんと役者さん達は通し稽古を経ての返し練習を行なっている。
とても段取りが多く、その中で28名の役者の呼吸やリズムを合わせて成立させていかなければならない瞬間の多い作品なので、まだまだ苦労してそうな点も多く見られる。
しかし、これらが全て上手くいった時、1時間前後とは思えない、とてもスケールの大きい作品になるのだろう。

ぜひ、これを読んでくださった皆さんも劇場まで目撃しに来てください。

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