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Design with Microbe:「微生物」とともに電気を収穫する

Akitoshi Nakamura

見えないものをデザインする

"The next outbreak? We’re not ready."

エボラウイルスがパンデミックを起こしたあと、2015年のTED TALKでビル・ゲイツが語ったこの言葉は予言だったのではないかと密かにささやかれ、今まさに、コロナウイルスによって世界中が混乱の渦にあります。

私は農工大に通いながら、このプロジェクトに関わっています。大学では、「微生物発電」の原理を利用し、発電量によって、植物や土壌、水質の状態が良いのか、悪いのかを評価できるのではないか?という研究を行い、論文を書こうと考えています。

発電量という形で微生物が出す声を受け取り、自然とのコミュニケーションをとることができれば、自然災害にも怯える必要がなくなり、さらには、今まで以上に自然からの恩恵を受けることになるかもしれません。

「目に見えないもの」は人類の脅威であるコロナウイルスのようなものだけではなく、人と共生し、人と自然とのつながりをつくってくれることも忘れてはいけません。

「目に見えないものをデザインする」

このことは今後さらに重要になっていくのではないでしょうか。その第一歩として、研究内容を生かした森での実践を行っていこうと考えています。

森から電気を収穫する

森から収穫するものと言えば、きのこ、木材、山菜。しかし、今回は「電気」を収穫しようと考えています。

森で電気が収穫できることはあまり想像がつかないと思いますが、目には見えない菌がエサ(有機物)を食べ、ひっそりと電気をつくりだしているのです。菌のエサは特別なものではなく、落ち葉が分解されたものなど、自然界ではそこら中にあるものです。

この菌が発電する仕組みは「微生物発電」と呼ばれており、新しいクリーンな発電様式として注目されています。その他にも、水質浄化、リンの生成などの機能を持つとされ、様々な研究機関で研究されています。

次の項から、菌が有機物を食べて発電するとはどういうことか、少し詳しく紹介していきたいと思います。

海底火山に住む発電菌

海底火山には熱水が湧き出ている「熱水噴出孔」と呼ばれる場所があります。この海底の熱水噴出孔には常に電気が流れていると言われていますが、その電気を生み出しているのが「発電菌」です。

海底火山に住む発電菌と聞くとなかなかお目にかかれないように思えますが、実は、庭の土にもあなたの腸の中でも生きています。

現在では発電する微生物は10種類以上見つかっており、その中でもより発電できる微生物として特に注目されているのが、ジオバクター菌とシュワネラ菌です。

これらジオバクター菌やシュワネラ菌は、そこらの土の中にもいますが、田んぼの土や少し臭う泥の中に多く潜んでいると言われています。

発電する呼吸

微生物がどうやって発電しているのか。それは、微生物の少し変わった呼吸のしかたにあります。発電微生物が生きるためには、エサ(有機物)を食べ、分解し、エネルギーに変えなければいけません。その際、発電菌の体の中には電子ができます。発電菌はその電子を体の外にある金属に渡すという習性があります。この習性を利用して発電しているわけです。

実は、人間も同じようなことをしています。人も生きるために食べ物を食べ、分解し、エネルギーに変えなければなりません。その際、人の体の中でも電子ができます。人の場合はこの電子を外の金属に渡すのではなく、体の中に取り入れた酸素に受け渡しています。つまり、人間にとっての酸素が、発電菌にとっての金属というわけです。

微生物燃料電池

これは微生物発電装置の概念図です。

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微生物発電は、マイナス極側で起こる反応とプラス極側で起こる反応に分けられます。マイナス極側では、微生物が有機物を食べ、エネルギーに変える過程でできた電子をマイナス極の電極(金属)に渡します。電子は導線を通りプラス極に移動します。プラス極では、移動してきた電子が酸素、水素イオンとくっつき、水ができます。このように、マイナス極からプラス極へと電子が移動することで電気が生まれるのです。

ウッド・ワイド・ウェブにつなぐ

先のnoteでお伝えしたように、普段目の当たりにはしませんが、森の世界には仲間を助けたり、仲間に助けられたりといった社会性があります。ヒトの世界にはワールドワイドウェブのネットワークが、森にはウッドワイドウェブのネットワークが張り巡らされています。

この微生物発電という試みは、微生物や植物からエネルギーを分けてもらうわけですから、家庭の電気代を賄うほどの発電はできません。代わりに、蛍の光のように小川をほのかに灯す。植物や微生物がスイッチのセンサーで、振動から災害の発生を予測する。シカが来たとき、天気が変わったときに植物や微生物が森のカメラマンとしてシャッターを切る。といった多様な使い方ができそうです。

また、バイオジルフィルターやアクアポニックスと組み合わせ、人間が出した排水を発電菌のエサとして与え発電すると同時に、排水をきれいな水に分解するという人間と自然の間の循環を可視化する。そのような森とコミュニケーションをするためのインターフェースをつくりたいと考えています。

例えば、ドミニクチェン氏と小倉ヒラク氏、ソン・ヨンア氏が開発した「NukaBot」では、ぬか床の状態を測定し、そのデータを使うことで美味しいぬか漬けをつくることができると言います。これはぬか床とのインターフェースをつくっているということです。これから私たちがしようとしていることは、発電菌を介して森や土や植物とコミニュケーションをとる、「NukaBot」の森バージョンといえるかもしれません。

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そのために、少し前から、ラボスケールでの微生物発電実験を始めました。実験とは言っても、難しいことはしていません。容器、電極、導線、土、有機物、水。100円ショップで簡単に手に入るような材料でDIYをしながら進めています。

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