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INSPIRATIONS: 自然とデザインをつないで考えるためのヒント 8月

自然とデザインをつないで考えるためのヒントをピックアップする「INSPIRATIONS」。新旧問わずに、デザイン、アート、ビジネス、環境活動、サイエンス等の領域を横断し、ACTANT FORESTメンバーそれぞれのリサーチに役立った、みなさんにお薦めしたい情報をご紹介します。

01:森が森を所有するWeb3.0プロジェクト

terra0は、「森による森の自己所有」をコンセプトとしたアートプロジェクト。自然生態系のための自律分散型企業(DAC)として、スマートコントラクトやブロックチェーン技術を使い、最終的には森が自ら土地を管理・活用していくというものだ。まず、人間が森を購入すると、債券として森からトークンが発行される。森は半年ごとに敷地の衛星写真を取り寄せ、木々の樹齢や密度、健康状態やサイズなどを記録したデータベースと成長予測モデルに従って、森林の健全性を保ちながら木材の生産量を最大化する割合を調整。伐採を許可する木を特定する。この伐採ライセンスを企業や個人に販売することで森は資本を蓄積し、当初の所有者(人間)からトークンを買い戻し、負債を返済していく。完済後、森は完全に自らの所有者となり、木材販売の自動プロセスによって資金を蓄え、さらに別の土地を購入・拡大することもできるようになっていく。こうして実在の財産をもつようになれば、ニュージーランドのワンガヌイ川にように、森にも法的人格が認められるようになるのかもしれない。本作は、森が人間の介在なしに土地利用する仕組みのプロトタイプとして、あえて木材資源に絞ったシステムとなっているが、テクノロジーを使って、マルチスピーシーズな主体を森林管理の「ピア」としていく枠組みの、今後の様々な可能性を考える端緒となりそうだ。

02:土地や生物と共生する「言葉」や「物語」を守る

絶滅が危惧される生物が増えているのと同様、人が話す言語も次々に消滅している。ユネスコの世界言語地図によると、世界には8,000以上の言語があり、そのうち約7,000が現在も使用されているが、2100年までには、なんと3,000以上もの言語が消滅するだろうといわれている。言語にはその文化特有の価値観が現れる。とりわけ先住民の言語には、生態系や環境を尊重するような単語や語法が多く含まれている。単純に意思を伝えるためだけの道具ではなく、その土地の精神やそこに住む生き物たちとの付き合い方や関係性が表出されており、それらを守ることは、環境危機に対処するための文化システムを守ることと同義だ。環境研究者のフィリッパ・ベイリーとビジュアルアーティストのネヴィル・ギャビーの始めた「Living-Language-Land」というプロジェクトは、絶滅が危惧される言語のスピーカーに、土地や自然との関係を反映した言葉や物語を共有してもらうプラットフォームだ。世界中の人達が参照・活用できるようにアーカイブし、自然との関係を豊かにする語彙を広めることを目的としている。寄稿者は彼らの言語保存活動への支援として何らかの報酬を受けられる。すべての投稿は、クリエイティブ・コモンズで共有されている。

03:参加型アートによる廃棄物からの土づくり - 「ネオソイル」

現在、英国の2か所で、パキスタン出身のアメリカ人アーティスト、アサド・ラザによる土壌再生プロジェクトが公開されている。ひとつは、グラスゴー現代美術センターの「We are Compost / Composting the We」展、もうひとつは、バーミンガムにあるジャンクションワークスで進行中のコミッションワークだ。2019年に初めてシドニーで発表された《Absorption(吸収)》は、カルティベーターと呼ばれる市民や有志の参加者が、地域の様々な廃棄物を混ぜ合わせた土を耕し、新たな混合土「ネオソイル」をつくりだすというもの。グラスゴーに出展されているのも同作で、会場には60トンもの土が敷き詰められ、来場者は最終日にネオソイルを自由に持ち帰って利用することができる。一方、バーミンガムで取り組んでいる《Reabsorption(再吸収)》は、よりサイトスペシフィックなプロジェクトだ。産業の発展と引き換えに、様々な汚染物質を排出してきた歴史的背景をもつ運河沿いのフィールドで、街中から集めた廃棄物で堆肥をつくり、土壌の毒性を希釈する特別なネオソイルのレシピ作成を目指しているという。土が水や栄養分を吸収するように、作品体験を通じて参加者や鑑賞者にも別の状態への変化を生み出そうとする両作。消費される物質や有害な残留物を含む土壌も生態系として捉え、その代謝プロセスを探る彼の手法は、より広い文脈で人間活動と環境の関係を考える際にも有効な手がかりになるのではないだろうか。

04:自然を観察し、学び、つくる。インドのリサーチスタジオ - Tiny Farm Lab

インドのウッタラーカンド州リシケシ、ガンジス川を見下ろす森に隣接した小さな丘の農地にTiny Farm Labというリサーチスタジオがある。アート、デザイン、視覚メディア、科学、自然の分野を学際的に横断し、循環素材(粘土とわら)を用いて手作業で建てるの住宅や、菌類、細菌、藻類からつくるバイオマテリアル、さらにはNFTアートの制作まで、自然と協業する様々な実験的プロジェクトが行われている。設立メンバーは、大都市デリー出身で建築のバックグラウンドをもつ2人の青年RaghavとAnsh Kumar。人口が過密し、空気が汚染されていく都市での生活に疑問をもち、リシケシに移り住みTiny Farm Labでの活動を始めたという。Tiny Farm Friendsと呼ばれる活動メンバーにはメディアアーティスト、ストーリーテラー、デザイナー、生物学者、菌類学者たちが集う。Raghavは自身の活動についてこう語っている。「自然を観察し、そこから学ぶ。私たちの抑圧された本能を再発見するために、私たち自身の手で、神聖で人生に最も忠実なものをつくりたい」。実験的な活動の中から生まれる、新しいライフスタイルやマテリアルの可能性に今後も注目したい。

05:エコ・エンヴィ - 隣の芝生が「グリーン」に見える

『5』というオランダのメディアで、「エコ・エンヴィ(環境的嫉妬)」という言葉を目にした。地球に優しい生活を送っている隣人たちを羨ましいと思い、努力の足りない自分を卑下してしまう気持ちのことだ。肉を食べず、飛行機を使わず、プラスチックなしの生活を送りながら、隣人達が二酸化炭素排出量から解放されていく一方で、「私はなぜもっと努力できないのだろう?」と、家のサイズや収入に対する嫉妬と同様の焦りを感じる人が増えているという。データ分析会社Kantarによると、92%の人が持続可能な生活を送りたいと答えているが、積極的に行動している人はわずか16%しかいない。だが、これは「意図と行動のギャップ」と呼ばれるもので、焦りを感じる必要はまったくないそうだ。そもそも人の認識は長期的な危機よりも目の前の課題を優先するようにできており、個人の意思や行為だけでは及ばない社会全体の設計が重要だという。記事では、行動科学者のミンディ・ヘルナンデス氏によって「小さく始める」「行動のインパクトを意識する」など、個人でもできる行動のヒントがいくつか示されている。感じる必要のない「エコ・エンヴィ」を克服するための、いくつかの対処法として参照したい。


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