【自分解釈】保険会社のERMについて-あるアクチュアリーの国内生保・外資系両方での実務経験から

以下は、自分の仕事上の経験を思い出しながら、何らかの文献に頼ることもなく、ひたすら自分の記憶の糸をたどり、それを頼りに書いていますので、若干正確性に欠ける可能性がある点はご留意ください。必要に応じて、原典等の裏取りをするようお願いいたします。しかし、その分、自分の言葉になっているとは思います。

さて、ERMという言葉を、今になってあらためて耳にするとき、リーマンショックの少し後、2010年前後に、監督官庁がERM(統合リスク管理)の重要性を説き、各保険会社への導入を推進していたことを思い出す。
私は、前職(国内社)と現職(外資)で、2012~2017くらいにかけて、合計約5年間、ERM専門組織に所属していた(その前の2年間もALMに従事していたため、その経験もERMの一部であると言い張れば、計7年強)。以下はその頃の経験に基づく。

「ERMは、リスクを引き受けることを生業とする保険会社にとって、経営そのものだ」とか、「ERM経営」という言葉が聞かれるようになったのも、ちょうどこの頃だ。
まあ、無リスクでビジネスを行うことは不可能なので、ビジネスの世界では常にリスク対リターンではあるのだが、一般事業会社におけるリスクは、例えば、典型的には「余剰在庫」のような、いわゆる「ビジネスリスク」であることが多いのに対して、保険会社の文脈でいうリスクは、まさに、リスクを引き受けること自体がビジネスなのが根本的に異なる。また、ビジネスリスク自体も当然に抱えているので、保険会社においてERMがとりわけ重要である理由は、これ以上説明するまでもない。
さて、ERMという言葉が保険業界で流行して少ししてから、ORSA report (ORSAとは、Own Risk and Solvency Assessmentの略)の監督官庁への提出が求められるようになり、また、幾度かの「経済価値ベースのソルベンシー規制のためのフィールドテスト」を経て、2026年3月末には、ついに、いよいよESR(Economic Solvency Ratio、経済価値ベースのソルベンシー、日本版ICSと言っても良いかもしれない)規制が導入される。

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