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1日15分の免疫学(123)免疫応答の操作①

第16章 免疫応答の操作

序章

大林「第16章はどんな内容?」
本「望ましくない免疫応答抑制防御免疫を高めたりする方法について」
大林「後者であればワクチンや血清から始まり…」
本「そうだね、病原体に対する免疫法や抗血清の開発は19世紀後半にかなり進んだ。免疫抑制については薬剤が導入されるようになった」
大林「色々と進化してるよね」

本「薬剤による操作は特異性く、効果限定的だけど常套手段で標準治療となっている」
大林「よりピンポイントな方法があみだされたよね、分子レベルの」
本「いわゆる生物学的製剤、生物製剤と呼ばれる天然物を人口的に製造したもの…ホルモン、サイトカイン、単クローン抗体、遺伝子工学を用いて作り出された融合蛋白質など。これらは高い特異性をもつ」
大林「それらについてもこの章でおしえてくれるわけですね!たのしみ!」
本「ではまずは、望ましくない免疫応答に対する治療法について」

望ましくない免疫応答の操作

本「標準的な免疫抑制薬である小分子の天然物や合成薬は、いくつかに分類できる」
大林「学習には分類が有用ですね」
本「強力な抗炎症薬としては、副腎皮質ステロイド、免疫細胞を殺すアザチオプリンシクロホスファミド
大林「さらっと免疫細胞殺すって言ったな?」

本「殺さずにT細胞内のシグナル伝達経路を阻害するシクロスポリンAなどがある」
大林「推しを殺さないほうがいいなぁ」

本「フィンゴリモドはスフィンゴシン1-リン酸レセプターからのシグナル受容を抑制することでB細胞T細胞リンパ組織から出るのを阻害する」
大林「推しを閉じ込めてしまうのか…免疫抑制にもいろいろあるねぇ」
本「これらは免疫系を広く抑えて有益な反応まで抑えてしまう」
大林「感染防御力落ちて日和見感染になってしまうんだよね」
本「そう。だから選択的に抑制する工夫が必要となる」
大林「どうやって?」
本「手っ取り早いのは免疫細胞が発現または分泌する特定の蛋白質に対して特異的な抗体を使う方法」
大林「抗○○抗体ってやつだね」
本「免疫応答を制御する蛋白質製剤もある。例えばB7に先回りして結合してCD28がB7に結合するのを妨げる」
大林「樹状細胞の表面に発現したB7とT細胞の表面に発現したCD28が結合できないとT細胞は活性化できない!」

本「副腎皮質ステロイドについて」
大林「免疫を抑える力が強いやつだ!」
本「副腎皮質ステロイドは、細胞膜を透過して核レセプターファミリーの細胞内レセプターに結合し、活性化したレセプターが核内に移行してDNA直接結合して他の転写因子と相互作用し、遺伝子転写調節する」
大林「おおお……説明が長い。副腎皮質ステロイドってDNAレベルの抑制だったんだ」
本「白血球で発現する遺伝子の20%を調節するのでステロイド療法への反応は単純ではない」
大林「20%も?!免疫の色々な作用に関連しそう…」

本「免疫抑制薬として使われる代表的な細胞毒性薬はアザチオプリン、シクロホスファミド、ミコフェノール酸」
大林「細胞にとっての毒ってことか」
本「元は抗がん薬として開発されたが、分裂中のリンパ球殺すことがわかったので免疫抑制薬として遣われるようになったよ」
大林「あ!活発に分裂してる細胞が標的になるやつか!だから脱毛も起きるんだよね、毛母細胞も活発に分裂してるから」
本「分裂中の細胞が存在する皮膚、腸管上皮、骨髄などもすべて標的となる」
大林「ヒッ……思ってたよりいろんなところが分裂してる!」
本「副作用は、免疫機能の低下、貧血、白血球減少、血小板減少、腸管上皮の傷害、脱毛、胎児に対する傷害」
大林「あっ!そうか、胎児も細胞が活発に分裂してる。副作用が多いし危険だね…」
本「この薬剤を大量投与するのは分裂中のリンパ球すべて取り除きたいときだけだね。リンパ腫や白血病などで」
大林「なるほど」

本「T細胞シグナル伝達を妨げることで免疫抑制する薬もあるよ」
大林「そっちの方が推しには優しいなぁ。でもシグナル伝達されないことで免疫応答が全体的に弱まりそう」
本「細胞傷害性の免疫抑制薬に代わる薬剤として3つの薬剤が臓器移植で広く使われている」
大林「3つとは」
本「シクロスポリンA、タクロリムス、ラパマイシン。これらはイムノフィリンと呼ばれる細胞内蛋白質ファミリー分子群に結合してリンパ球のクローン増殖シグナル伝達を妨害する」
大林「標的に対して特異的なリンパ球がクローン増殖して戦力になるから、クローン増殖を止められたら確かに免疫抑制になるね」
本「それ以外にもIL-2などのサイトカイン発現を低下させたり他の細胞にも作用したりする」
大林「へー、副作用とかは?」
本「すべての免疫応答に影響を及ぼすし、多くの臓器尿細管上皮傷害をもたらすので移植の経過を見ながら投与量調整が必要」
大林「慎重な調整が必要になるわけか」
本「ちなみに、ラパマイシンはIL-2,4,6などの細胞増殖因子によるリンパ球増殖抑制し、Treg細胞増やす

◆復習メモ
サイトカイン(cytokine)
:細胞が分泌する低分子のタンパク質で生理活性物質の総称。細胞間の相互作用に関与する。cyto(細胞)+kine(作動因子※)の造語※kinein:「動く」(ギリシア語)に由来する

サイトカインの種類
ケモカイン(Chemokine):白血球(免疫細胞の総称)をケモカインの濃度の濃い方へ遊走させる(普段は血流等の流れに乗っている)。
※本によっては、サイトカインとケモカインは別項目となっている

インターフェロン(Interferon;IFN):感染等に対応するために分泌される糖タンパク質※。ウイルスの細胞内増殖も抑制する(※タンパク質を構成するアミノ酸の一部に糖鎖が結合したもの)

インターロイキン(Interleukin;IL)※見つかった順でナンバリング:リンパ球等が分泌するペプチド・タンパク質。免疫作用を誘導する。

腫瘍壊死因子(Tumor Necrosis Factor;TNF):その名の通り、腫瘍を壊死させる機能を持つ。

◆復習メモ
T細胞自己非自己を認識できる免疫細胞。胸腺Thymusで成熟するためT細胞と呼ばれる。T細胞受容体(TCR:T cell receptor)をもつ。

T細胞の主な種類
CD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞(Th1,Th2,T17,Tfhなどがある)と制御性T細胞Treg:Regulatory T cellに分かれる):B細胞などを補助helpして活性化し、免疫応答を誘導する。適応免疫の司令塔。
・CD8陽性T細胞(細胞傷害性T細胞=キラーT細胞):標的細胞に接触して直接傷害する(細胞死に誘導する)。
※CD分類:細胞の表面にある分子の分類基準。


大林「へぇ、他のT細胞は抑えるのにどうやってTregだけ増やすの?」
本「おそらくTreg細胞はエフェクター細胞と異なるシグナル伝達経路を使うのだろうね」
大林「なるほど、細胞内のシグナル伝達について深く知れば、ピンポイントで何らかの反応を抑えたり促進したりが可能になるのか」
本「しかもラパマイシンはメモリーT細胞の生成を促進するようにみえるらしく、ワクチンによるメモリーT細胞誘導の促進に使えないかと研究されている」
大林「うまくといくといいねぇ」

今回はここまで!
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