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1日15分の免疫学(125)免疫応答の操作③

がんと免疫について

本「先進国三大死因は、がん感染症心血管疾患。感染症の治療や 心血管疾患の予防の改善が続いて平均寿命が延びるのに伴い、がんが一番の死因となる可能性が高い」
大林「長生きするほど遺伝子の異常が蓄積されるもんね… 」
本「がん治療最も大きな課題転移metastasisの制御
大林「英単語の発音はメタ……?」
看護ルー「転移:metastasis(メタスターシス)を「メタ」と略す。
肝臓がんが転移することは「肝メタ」、への転移は「脳メタ」という。
多数の場所に転移が見られることを「メタメタ」ということもある」

大林「えぇと、転移の制御に免疫応答の操作が役立つ可能性があるの?」
本「免疫系が病原体を特異的に見分けるように腫瘍細胞を見分ける免疫を誘導する」
大林「なるほど、それなら知ってる」
本「腫瘍の治療に関する免疫学的アプローチは100年以上前から試されている」
大林「えっ、そんなに前から?」
本「まぁ、現実的な可能性が見えてきたのはここ10年だね」
大林「だよね」
本「マウスの実験で、放射線を当てて増殖しないようにした腫瘍細胞をマウスに注射した後同じ生きた腫瘍細胞致死量注射してもしばしば死を免れた」
大林「それは……獲得免疫の特徴!!!」
本「1908年に免疫学の功績によりノーベル賞を受賞したポール ・エールリッヒがおそらく初めて腫瘍の治療に免疫系が使えるかもと提唱した最初の人物」
大林「ほぉ~」
本「1960年ノーベル賞を受賞したフランク・マクファーレン・バーネットとルイス・トーマス は免疫系の細胞が腫瘍細胞を見つけて殺す免疫監視immune surveillance仮説の概念を作った」
大林「免疫監視!有名な奴だ!でもそれって修正されたんだよね、どう修正されたの?」
本「免疫系とがんの関係は思ったより複雑で、3つの相に分類されるようになった」
大林「3つの相?」
本「まず、腫瘍細胞である可能性のある細胞を破壊する排除相elimination phase」
大林「相ってphaseか。1つ目は従来の免疫監視だね」
本「排除が完全には成功しない場合は平衡相equilibrium phaseとなる。腫瘍細胞は変化もしくは遺伝子変異を起こして免疫系による選択圧力を受け、生存に有利な変異細胞が選択される」
大林「ほぉ?」
本「これはがん免疫編集cancer immunoeditingと呼ばれ、生存に有利な腫瘍細胞の性質が持続的に形成される」
大林「えぇと…その生存って個体の生存のことだよね、つまりはがんとの共存かな?排除、共存、次は?」
本「逃走相escape phase。腫瘍細胞が免疫系を逃れる能力を獲得して臨床的に発見されるまで増殖する」
大林「一番あかんパターンや!」

本「マウスの実験で、ある種の腫瘍の発達への免疫監視による影響の証拠が見つかった。NK細胞やCD8T細胞の持つパーフォリン欠損するマウスではリンパ腫の発生頻度が高まる」
大林「がん細胞をキラー細胞たちが倒せないから、か」

◆復習メモ
パーフォリン筒状の重合体を作り、細胞膜を貫通させる。この孔を通ってグランザイムが細胞内に入る。グランザイムが細胞内に入ると、最終的にはDNAが切断されてアポトーシス(細胞死)が起こる


本「適応免疫と自然免疫のいくつかの機構欠損したマウスでは、発がん物質塗布による皮膚腫瘍の発生率が著明に上昇する。これにより異常な上皮細胞を殺す上皮内γδ型 T 細胞の役割が明らかとなった」
大林「久々にγδ出た!」

◆復習メモ
T細胞前駆細胞は、αβ型T細胞かγδ型T細胞のどちらかに分化する。どちらに分化するかの機構はまだ明らかになっていない。
γδ型T細胞は、どの脊椎動物種にも多く存在し、感染時には急速に増殖して、血中リンパ球の50%以上を占める。そしてサイトカイン大量に産生する。
γδ型T細胞は、iNKT細胞MAIT細胞と同じく自然免疫と適応免疫の中間か、その過渡期にあると考えられる。
γδ型T細胞は、胸腺完全に成熟し、活性化してエフェクター機能獲得する。ほとんどのγδ型T細胞は胸腺を出ると、粘膜組織上皮組織内に移動して定住する。
γδ型を活性化する抗原として、非古典的MHCクラスⅠであるMICAULBP4、内皮細胞に発現する内皮蛋白質Cレセプターendothelial protein C receptor:EPCRなどがある。

上皮内CD8T細胞には主に二種類のサブセットのa型とb型がある。
a型(誘導型)はパイエル板腸間膜リンパ節特異抗原で活性化したナイーブT細胞で、古典的クラスⅠMHC拘束性細胞傷害性T細胞※として感染細胞の駆除を行い、IFN-γ産生も行う。
※MHC拘束性:MHCクラスⅠ分子により提示された抗原に反応して細胞傷害を行うという意味。○○拘束性=反応をするのに○○が必須、といった意味合い。
b型(自然型)は、αβ型かγδ型のTCRをもつ。自然免疫系と同じく高いレベルの細胞傷害分子、NO(一酸化窒素)、炎症性サイトカインなどの炎症に関連する遺伝子を発現している。ちなみに他の組織にいるγδ型T細胞とは特徴が異なる。

本「IFN-γ,IFN-α,IFN-βは、直接または間接的に他の細胞に働きかけ腫瘍細胞の排除に重要である。IFN-γを産生する主たる細胞γδ型T細胞だとわかった」
大林「なんと!いやなんか他の章でも言ってたかな…」
◆復習メモ
サイトカイン(cytokine)
:細胞が分泌する低分子のタンパク質で生理活性物質の総称。細胞間の相互作用に関与する。cyto(細胞)+kine(作動因子※)の造語※kinein:「動く」(ギリシア語)に由来する

サイトカインの種類
・ケモカイン(Chemokine):白血球(免疫細胞の総称)をケモカインの濃度の濃い方へ遊走させる(普段は血流等の流れに乗っている)。
※本によっては、サイトカインとケモカインは別項目となっている

・インターフェロン(Interferon;IFN)感染等に対応するために分泌される糖タンパク質※。ウイルスの細胞内増殖も抑制する(※タンパク質を構成するアミノ酸の一部に糖鎖が結合したもの)

・インターロイキン(Interleukin;IL):リンパ球等が分泌するペプチド・タンパク質。免疫作用を誘導する。

・腫瘍壊死因子(Tumor Necrosis Factor;TNF):その名の通り、腫瘍を壊死させる機能を持つ。

本「これはがん細胞排除に関するγδ型T細胞の重要性を示すかもしれない」
大林「続報が待たれる」

本「免疫編集仮説によると、平衡相を生き抜いた腫瘍細胞は免疫系に排除されにくくなる変化を獲得している」
大林「……では逃走相に変化する?」
本「免疫系が正常であれば、平衡相では免疫が腫瘍細胞を排除し続けるので腫瘍の成長は遅れる。免疫不全があると急速に逃走相へ移る」
大林「ほぉ」
本「平衡相の存在を示す例として、臓器移植のレシピエントで起こるがんがある。悪性黒色種で亡くなるまで 16年間治療が奏功していた患者ドナー となり、 2人に腎臓移植が行われ、 1〜2年後に その2人に悪性黒色腫が発生した」
大林「ドナーの体では治療で抑え込めてた悪性黒色腫が、腎臓にも潜んでいたけど平衡相だったから、完全には排除されず増殖もできない状態だった。レシピエントは免疫抑制中だから移動した腫瘍細胞は免疫監視から解放されて増殖を開始したってことかな」


今回はここまで!
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