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1日15分の免疫学(128)免疫応答の操作⑥

がんと免疫療法について

本「がん免疫療法には、CAR-T細胞単クローン抗体ほかに2つの主要なアプローチがある」
大林「ワクチンと…なんだろ」
本「がんワクチンは、腫瘍が本質的に免疫原性が乏しいのでワクチンで高めようというアイデアに基づく」
大林「へぇ〜!つまり腫瘍細胞は攻撃対象になりにくいってことか。まぁ、排除されないからこそ増殖しまくってがんになってしまったから当然か」

本「2つ目はチェックポイント阻害。これは免疫系が感作されているのに免疫寛容によって抑え込まれているというアイデアに基づく」
大林「制御を解除しようというものか」

本「多くの自然発症の腫瘍では、同じ腫瘍でも患者によって 腫瘍拒絶に働くペプチドは同じとは限らない
大林「へぇ~」
本「また、特定のMHC対立遺伝子(アリル)分子にのみ提示されるかもしれない。つまり、有効な腫瘍ワクチンをつくるには複数腫瘍抗原を含む必要がある」
※アリル(allele:対立遺伝子) :相同な遺伝子座を占める遺伝子に複数の種類がある場合の個々の遺伝子のこと。

本「ちなみに、治療目的のがんワクチンは手術や化学療法の後で腫瘍量が少ない時にのみ使うべき」
大林「それだけで戦うのは難しいってことか」

本「細胞を使ったワクチンに使う抗原は手術で摘出した患者の腫瘍から作り出す」
大林「それが確実だよね。人によって腫瘍細胞も異なるだろうし」

本「樹状細胞を活かした抗腫瘍ワクチンの戦略もある」
大林「樹状細胞は抗原提示細胞の中でもT細胞への抗原提示力がピカ1だもんな」
◆復習メモ
抗原提示細胞(antigen presenting cell; APC):蛋白質をとりこんでペプチドまで分解し、自身のMHC分子にくっつけて(特殊な樹状細胞はとりこまずにくっつけることも)、細胞表面でそれを提示する。マクロファージ、樹状細胞、B細胞は抗原提示に特化していて、「プロフェッショナル抗原提示細胞」とも呼ばれる。その中で最も抗原提示能が高いのは、放射線状の突起をもつ樹状細胞

本「その他の免疫療法のアプローチとして、自然に起こる免疫応答を強化しようとする2つのアプローチがある」
大林「また2つかい。強化と抑制解除?」
本「腫瘍の免疫原性を高めるのと、抑制機構の解除

大林「腫瘍の免疫原性を高めるってどうやって?」
本「腫瘍細胞上にB7のような補助刺激分子を発現させる。腫瘍細胞にGM-CSF遺伝子を導入するのもよい」
大林「そんなことできるの?」
本「認可されてないけどね」
大林「認可されてないんかーい」

本「チェックポイント阻害checkpoint blockadeは、リンパ球の抑制性シグナル阻止しようという試み」
大林「要はブレーキの使用禁止だよね」
本「CTLA-4樹状細胞上のB7分子に結合して自己反応性 T 細胞に対して決定的なチェックポイントの役割を果たす」

◆復習メモ
CTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球抗原4, cytotoxic T-lymphocyte-(associated)antigen protein 4 別名:CD152)
:活性化T細胞に発現する抑制レセプター。T細胞の活性化には補助シグナル(シグナル2)が必須で、T細胞表面のCD28と抗原提示細胞表面のCD80,86が結合することでシグナル2が伝達される。T細胞表面に発現するCTLA-4はCD28の約20倍以上もB7に対する結合能が高い(つまりCTLA-4が発現するとCD28よりもCTLA-4が抗原提示細胞上のB7により結合するので活性化ではなく抑制の方向になる)。
なお、Foxp3+Treg細胞には常時高発現されている。


本「免疫応答は複数のポジティブとネガティブなチェックポイントによってコントロールされている。ポジティブなチェックポイントの1つは、抗原提示細胞に発現するB7補助刺激レセプターによってコントロールされている」
大林「CTLA-4PD-1ネガティブなチェックポイントか」
本「そう。T細胞表面に発現したCTLA-4は抗原提示細胞表面のB7に結合して、自己反応性T細胞に対して決定的なチェックポイントの役割を果たす」
大林「CTLA-4はT細胞の活性化の機会を奪うわけだ」
本「活性化するにはそれに勝るシグナルが必要。CTLA-4を抗体でブロックするとT細胞の活性化の閾値が下るかもしれない。また、抗CTLA-4抗体は、CTLA-4を発現するTreg細胞を排除することで免疫応答を高める可能性を示唆する証拠もある」
大林「抗CTLA-4抗体は、活性化T細胞が自ら用意するブレーキでもあり、制御性T細胞の道具でもあるCTLA-4を止める抗体。でもこのやり方だと、CTLA-4によって抑制されるべき自己反応性T細胞が活性化してしまうのでは?」
本「副作用として自己免疫疾患のリスクは高まるね」

本「抗CTLA-4抗体であるイピリムマブによるチェックポイント阻害は転移のある悪性黒色腫の治療に有効である。患者の15%に長期にわたる寛解を誘導するように見受けられた」
大林「15%か……自己免疫疾患のリスクが高まるから調整して使わないと…」
本「もう一つのチェックポイントは、抑制性レセプターであるPD-1とそのリガンドであるPD-L1及びPD-L2
◆復習メモ
PD-1(Programmed death receptor-1)
:「プログラム死の受容体」と命名されちゃったT細胞にある抑制性受容体。活性化すると発現し、リガンドと結合すると細胞内に抑制シグナルが伝達される。
PD-1のリガンド(結合相手)はPD-L1(Programmed death ligand-1,別名B7-H1)とPD-L2(別名B7-DC)。
PD-L1様々な細胞恒常的に発現している。
PD-L2炎症時の抗原提示細胞に発現する。

本「PD-L1は様々な腫瘍で発現し、腎細胞がんでPD-L1の発現があると予後が悪い。抗PD-1抗体であるペムブロリズマブは既治療の悪性黒色腫患者に有効で、約30%の奏効率だった。ニボルマブも転移のある悪性黒色腫の治療薬として認可され、ホジキンリンパ腫の治療薬としても検討されている」
※予後:病気や治療などの医学的な経過についての見通しのこと。

ここまでのまとめ

腫瘍はさまざまな段階や方法で免疫応答から逃れる
免疫系がどのように腫瘍の成長を助け、抑制しているのかを理解することで新しい治療法が生まれる。
・例えば、発がんウイルスであるヒトパピローマウイルスへの効果的なワクチンが子宮頸がんを駆逐できる可能性をもつ。
・B細胞リンパ腫に使われる抗CD20抗体のような単クローン抗体や、CTLとTh細胞を効果的に誘導するペプチドを含んだワクチンなどの開発も進められている。
・B細胞に発現するCD19を認識するよう作られたCAR-T細胞や、チェックポイントをブロックする方法、抗原提示細胞である樹状細胞を使ったワクチンなど、がん治療の最近の動向は、従来の標準的がん治療に免疫療法を組み入れ免疫系の特異性と機能を活かすようになってきている。

本「締めはワクチンを使った感染症との戦いだよ」
大林「長かったな…、この本も729ページめか」

今回はここまで!
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