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1日15分の免疫学(124)免疫応答の操作②

抗体製剤について

本「抗体は、より選択的に働き、直接的な毒性が低い可能性がある」
大林「抗体製剤ですね!」
本「抗体製剤の開発は、19世紀後半にジフテリアや破傷風の治療のため開発されたウマ血清が最初」
大林「馬に感染させて免疫つくらせてその血液から抗体を採取するやつですね。ヒトからも採取してるよね、移植の章で書いてた…」
本「ドナーから集めた多クローン性抗体製剤の経静脈投与intravenous immunoglobulin:IVIGは様々の原発性や後天性免疫不全患者の治療に広く使われている」
静注用免疫グロブリン製剤(IVIG=Intravenous Immunoglobulin)
大林「免疫不全で抗体がつくれないから、健康な人から抗体をもらって病原体に対抗するわけか」
本「IVIGは急性感染症にも使われる。製剤に含まれている特定の病原体や毒素に対する中和抗体が機能すると考えられている」
大林「グロブリン製剤には色んな抗体が入ってるからかな」
本「IVIGは自己免疫性血小板減少症や川崎病のような特定の自己免疫疾患や炎症性疾患に対しても使われる」
大林「なんで?抗体が必要な人にIVIGを使うのはわかるけど……」
本「IVIGに含まれる抗体が抑制性Fcレセプターに結合して有効性を発揮していると考えられる」
大林「なるほど、免疫応答の抑制を抑えることで免疫応答を高めるわけか」

本「抗体製剤は病原体を標的にしていたが、最近では特定の機能制御することを狙ったものがある」
大林「何かしらの免疫応答を阻害するってこと?」
本「抗リンパ球グロブリン製剤望ましくないリンパ球を除く」
大林「ほぉ!でも望ましくないリンパ球有益なリンパ球区別はつくの?」
本「つかない。ウサギをヒトリンパ球で免疫してつくった抗リンパ球グロブリンは移植臓器の急性拒絶の治療に使われてきたが、全体的な免疫抑制が起きるし、異種の免疫グロブリン投与によって抗体がつくられるため、大量の投与後にしばしば血清病が生じた」
大林「血清病はヒト以外の免疫グロブリンに対するヒト抗体がつくられて、複合体になって起こるやつだよね。まぁ、異種の免疫グロブリンが体内に入ってくれば抗体はつくられるよねぇ」

◆復習メモ
血清病(けっせいびょう):ヒト以外のタンパク質に対するアレルギー反応の一種。ウマ抗血清を投与した後に高頻度で起こったため、この名がついた。
抗生物質のない時代ウマ肺炎連鎖球菌免疫を獲得させることによって作られた抗血清を肺炎連鎖球菌感染症の治療に用いていたが、ウマ血清投与の7~10日後に発症する(IgGの準備期間)。
血清病は一過性免疫複合体誘発性症候群典型例で、外来性蛋白質の単回投与は抗ウマ血清抗体応答を引き起こし、その抗体が外来蛋白質と循環血液中で免疫複合体を形成する。
その複合体が血管に沈着して補体やマクロファージを活性化して発熱、皮膚や結合組織の血管炎腎炎関節炎を起こす。増殖し続ける抗原に多量の免疫複合体が作られ、微小血管に沈着し、皮膚・腎臓・神経など多くの組織や臓器を損傷する。


本「患者の中で抗体産生が始まればもうその抗体製剤は使えなくなる
大林「どうしたらいいんだ…回避策はないの?」
本「治療用抗体をヒトの免疫系に異物として認識されない形にするヒト化humanizationを経ることで回避できる」
大林「そんなことができるの?!」
本「原理的にはね。マウスの免疫グロブリン遺伝子座にヒトの免疫グロブリン遺伝子を挿入したマウスを作るとか…ヒトから採取したB細胞株や抗体産生している形質芽球にウイルス感染させて腫瘍化させたり…」
大林「腫瘍化させて永久に抗体をつくらせるってコト……?」

本「単クローン抗体生物学的製剤biologicsと呼ばれ、マウス由来の単クローン抗体は接尾辞-omabがつき、可変部がマウス由来でヒト抗体の定常部に繋がるキメラ抗体は-ximab、ヒト化抗体で超可変部のみがマウス由来のものは-zumabすべてヒト抗体の場合は-umabがつく」
大林「あのひつまぶしみたいな命名、そんな使い分けがあったのか!」

抗原ペプチドを用いた治療法

本「望ましくない 免疫応答の標的抗原が同定されている場合は抗原を用いて治療が可能かもしれない」
大林「どういうこと?」
本「どのように抗原が提示されるかによって免疫応答は変わりうる。たとえばIgEが原因のアレルギーにごく少量の抗原を用いた治療法」
大林「少しずつ慣らさせるやつ?」
本「徐々に投与量を増やしながら抗原投与すると、B細胞の産生する抗体がIgAIgGになるよう働きかけるT細胞が優位に誘導されるようになる」
大林「どうしてそうなるの?」
本「IgAやIgGが通常出くわす少量のアレルゲン結合することでIgEに結合するのを妨げることで減感作すると考えられている」

◆復習メモ
アレルゲン減感作療法allergen desensitization:極微量からのアレルゲン投与をして漸増(ぜんぞう)することで減感作をする。減感作が起こるメカニズムは完全には解明されていない。
わかっていることは、減感作した患者ではIgE主体の抗体反応からIgGに変化したということ。IgE産生を抑制するTGF-βとIL-10を産生するTreg細胞の誘導に依存すると考えられる。

本「T細胞が起こす自己免疫疾患をペプチド抗原抑制しようとする方法が注目されている」
大林「抗原提示の方法でT細胞の反応が変化するから?」
本「そう。CD4T細胞の反応はペプチドの提示方法で変わる。抗原が経口摂取されると、形質転換増殖因子TGF-βの産生によりTregが誘導される傾向があり、Th1や全身性の抗体産生は起こりにくい」
大林「まぁ、口から入るもの……食べ物に対しては免疫寛容が働いてほしいもんね。Tregの出番だ。でも前に減感作について勉強したとき、減感作のメカニズムは未解明が多いし、減感作が効かない抗原もたくさんあるんだよね」
本「動物実験では多発性硬化症関節リウマチの発症を抑えることができたが、多発性硬化症患者や関節リウマチ患者には治療効果ほとんどなかった1型糖尿病ハイリスクグループの人に低容量のインスリンを経口摂取させる大規模な臨床研究も行われたが予防効果はなかった
大林「やはり、経口摂取させたからといって思うように寛容が働くわけではないってことか。単純ではない仕組み……今ある手段でいいものはないの?」

本「抗原を用いて傷害性の低いTh2応答シフトさせる試みは有効だよ」
大林「おっ!推しの活躍です?やったぁうれしい…悪役じゃない」
本「変更ペプチドリガンドaltered peptide ligand:APLを用いる戦略もある。部分的アゴニストやアンタゴニストとして働くようにデザインができて、Treg誘導もできる」

◆復習メモ
アゴニストagonistはレセプター刺激する。
アンタゴニストantagonistはレセプターを抑制する。アンタゴニストは、拮抗薬拮抗剤拮抗物質遮断薬ブロッカーとも呼ぶ。
ant:母音かhの前で「反対」「対抗」「」の意を添える。(その他の文字の前ではanti-になる。)

大林「ほぉ、よくわからんけどいい感じなの?」
本「マウスでは奏功したが多発性硬化症の患者では悪化したり激しいTh2応答が起きてアレルギー反応が出たりした」
大林「あぁー!推しが!!!」

ここまでのまとめ

・移植の拒絶反応自己免疫アレルギー等の望ましくない免疫応答がある。
・これらの望ましくない免疫応答の従来からの治療として、抗炎症薬細胞毒性薬免疫抑制薬がある。
生物学的製剤として、単クローン抗体免疫抑制性蛋白質製剤がある。
抗炎症薬として、副腎皮質ステロイドがある。
・これらは免疫応答を広く無差別に抑制し、様々な副作用があるため慎重な調整が必要。
・TNF−αの炎症作用を抑える単クローン抗体や融合蛋白質は大成功を収めた免疫療法である。

今回はここまで!
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